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オリンピック新国立競技場の建設費を考える(1)〜これまでを振り返る〜

2020年の東京オリンピック開催を迎えるにあたって、国の顔ともいえるメイン競技場となる新国立競技場の建設が進んでいます。現在までに、デザイン面と総工費の兼ね合いで紆余曲折してきたのは記憶に新しいところです。

今回は、建設業からの視点で新国立競技場の建設費水準について考えてみます。

新国立競技場の建設費水準を考える(1)~これまでを振り返る~

これまでの建設費の移り変わり


旧国立競技場は設備の老朽化が指摘されており、以前から建て替えが検討されていましたが、本格的に計画が動き出したのは2011年に当時の石原慎太郎東京都知事が2020年オリンピック開催地として立候補を表明したときに始まります。

2011年に行われた当初調査による概算費用は1000億円とされており、翌2012年のコンペ時には1300億円と試算されています。実はこの時点でも相当に高額であるといえるのですが、社会的に大きな問題となっていくのはこのあとのことです。

1300億円と試算されたあと、JSC(日本スポーツ振興センター)により、新国立競技場の基本構想を募集する国際コンペが開催されます。その結果、イギリスのザハ・ハディド氏の作品が最優秀賞に決定します。その1年後の2013年には概算で3000億円を超える見込みであることが判明し、社会問題になっていきます。

その後、東京オリンピックの開催が正式に決定し、新国立競技場の建設費に対する世間の関心が高まると、施工内容の見直しなどが行われて、建設費の概算は1500億円程度から3000億円程度まで二転三転します。最終的には2015年7月2520億円と試算され、これが社会的に大きな問題となり、安倍晋三首相によりそれまでの計画を白紙撤回する決定がなされます。

その後、再度コンペが行われて2015年末の試算では約1500億円とされて最終的に決着しています。

建設費高騰の理由とは


スポーツを行う競技場建設の費用については、次回で詳しく検討するとして、ここでは当初の概算1000億円や、当初試算の1300億円から、建設費が高騰の一途をたどった理由を考察してみます。

まず、当初大幅に費用が増加したのは、国際コンペが開催され、イギリスのザハ・ハディド氏の案(以降ザハ案とする)が採用されたタイミングです。

ザハ氏は、世界的にも非常に高名な建築家であり、斬新で近未来的なデザインが特徴です。新国立競技場のザハ案も、その路線を踏襲しており、先進的なデザインが話題になりました。このデザインに対しては、日本らしさなどが見えないという批判もありますが、デザイン面での問題についてはここでは触れません。

現実的に問題だったのは、デザインが先進的すぎて、建設の方法が非常に難しいということでした。一部の専門家からは現実的に建設が不可能ではないかという意見も出たほどです。

ザハ案が採用されてから、施工を担当するゼネコンを選ぶコンペが行われましたが、技術的に非常に困難なため、そもそも手を挙げるゼネコンの数自体が少なく、費用の見積もりも高騰の一途たどったという経緯があります。

その後、施工内容の見直しなどによって、いったんは1500億円程度まで抑えられた建設費ですが、2015年に再び2500億円〜3000億円程度まで再度高騰します。これは、当時東日本大震災の復興特需や都心の建設ラッシュなどによって、建設業界の人手不足や資材の高騰が深刻化したためであるとされています。

つまり、最初に3000億円程度まで建設費が膨らんだ際に、そのままの計画で続けていたとすれば、2015年には4000億円以上にまで建設費が膨らんでいた恐れもあったということです。

以上が、新国立競技場の建設費用に関するこれまでの流れです。次回は、この建設費用そのものの水準がどの程度であるのかを考えてみます。

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「新国立競技場の建設費水準を考える」はこちら↓
(1)これまでを振り返る
(2)新国立競技場の建設費は高いのか

「関連記事-東京オリンピックが建設業に与える影響」はこちら↓
(1)現在(2016年)までの状況
(2)オリンピック開催までの影響予測
(3)オリンピック開催後はどうなるか

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