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高騰が止まらない設備工事のコスト低減方策について|2025年版

最終更新日:2025年4月1日

【建設コストの低減に向けた設備仕様の見直し】
国内の建設市場は、世界的なインフレや円安の影響による資材価格の高騰と人手不足による労務費の高騰から、2025年に入っても建設コストの高騰が続いており、コスト増加が一因となって再開発プロジェクトの大幅な計画見直しや工期延伸に加え、補助金プロジェクトの費用肥大化の恐れについても一部新聞等で報じられています。

このような中、「ゼネコンの物価スライド獲得状況について」で紹介したように、総価請負契約であっても、契約後に資材価格や労務費が高騰した分のコストについて、建設会社(ゼネコン)が発注者(建築主)に対して請負金額の変更請求を行うケースが増えています。

建設コスト高騰で設備仕様の見直しによるコスト低減方策
工事を請け負うゼネコンにとっては、近年の著しい資材価格や労務費の高騰により増加したコストを価格転嫁することで、一定水準の利益を確保したいところです。

一方、建築主にとっては、資材価格や労務費の高騰でゼネコンから請負金額の変更要請が増える中、事業採算を考えると、導入コストとランニングコストの両面から少しでもコストの低減を図りたいところです。

そこで今回は、建築主の観点から、建設コスト低減に向けた方策例と、設備容量の見直しによる建設コスト低減の可能性について紹介していきます。

1. 建設コスト低減に向けた方策例について


建設コスト低減の方策として、例えば以下の4つが挙げられます。


1) 不確定要素の明確化による請負リスクの最小化


一般に、ゼネコンは請負契約の際に、施工条件や工事期間中の物価変動等の不確定要素があると、施工上のリスクや物価上昇リスク等を工事金額に見込まざるを得ません。

その為、例えば建築主がゼネコンとの間で工事期間中の物価変動に関する精算方法の詳細を契約時に取り決める等、事前に不確定要素を少しでも明確化できれば、これらの請負リスクが過度に見込まれることを未然に防ぐことが期待できます。

2) 適正工期と閑散期を狙った工期の設定


また、無理のない適正な工期を設定することや、「市場の閑散期」に合わせて「現場の繁忙期」を設定することもコスト低減の方策として挙げられます。

例えば、日本では年度末となる3月に竣工する工事が多いので、仕上工事や設備工事を中心に毎年11月から翌年3月頃は市場全体が繁忙期を迎えます。その為、この時期は、ゼネコンが協力会社を確保する調達コストが上昇する傾向にあります。

対して、毎年4月から7月は仕上工事や設備工事が比較的閑散期の傾向にある為、例えば現場の繁忙期となる竣工時期を4月から7月頃に設定できると、ゼネコンは比較的協力会社の調達コストを抑えやすくなります。

また、閑散期では、万一工事がひっ迫した場合も、作業員等の応援依頼が比較的容易になり、下請構造の階層が減ることで、重層下請構造による中間経費削減にも繋がりやすいと言えます。

3) 現場の省人化に繋がる設計や工法の採用


建設業では10年以上人手不足の状況が続いており、それに伴って労務費も年々上昇しています。さらに近年は、週休2日制の導入や残業規制といった働き方改革の影響から、人手不足に拍車がかかり、労務費のさらなる高騰に繋がっています。

その為、個別性や難易度の高い施工が求められる設計を避け、できるだけ設計の標準化・規格化を進めると共に、工場で組み立てた製品を現場に据え付けるユニット化工法やプレキャストコンクリート(PC)工法等を採用することで、建設現場における作業員の省人化が進み、労務コストの低減が期待できます。

4) 設計仕様の見直しと最適化


ものづくりの世界では、「設計段階で80%のコストが決まる」と言われます。建設業界も例外ではなく、何を(仕様やグレード)、どれだけ(数量)使用するかで大半のコストが決まります。

例えば、可能な限り特注品ではなく既製品のサッシを採用する、バックヤードに使う建材のグレードは最低限のものにする等、設計仕様を見直したり、事務所の基準照度を750lx から500lxにして照明器具の設置台数を減らす等、数量を最適化したりできれば、導入コストの低減に加え、ランニングコストの低減も期待できます。

上記1)から4)で建設コスト低減の方策事例をいくつか挙げましたが「高騰が止まらない設備工事費の現状と今後の動向」で紹介したように、建設コスト全体の中でも、近年は設備工事費の上昇が顕著になっています。

そこで、以降では、コストが特に高騰している設備工事費に対して、容量・サイズを含む設備仕様の見直しによるコスト低減の可能性について紹介していきます。


2. 設備容量の見直しによる建設コスト低減の可能性について


建物の用途によっても異なりますが、一般に、設備工事費は建設コスト全体の30%から40%程度を占めるとされている為、設備仕様を見直すことができれば、建設コスト低減の有効な方策になると考えられます。

そこで、設備機器の計画容量(どれだけの容量を使うかの設計段階の設定値)と実際の稼働状況(実際にどれだけ容量を使ったかの実績値)のギャップに着眼し、電気設備(受変電設備)と空調設備における事例で建設コスト低減の可能性を検証していきます。

1) 電気設備(受変電設備)の事例


受変電設備は多くの電気を必要とする事務所ビル、工場、ホテル、店舗、病院など、様々な施設に設置されています。受変電設備の工事費は、一般的に電気設備工事全体の15%から20%程度のコストを占めているとされており、適正な電気容量にて設計することで、コスト低減効果が期待できるケースが考えられます。

この受変電容量について、計画時の設備容量が、実際にはどの程度利用されているのか把握するために、①計画時の受変電容量と②実際の稼働状況(ここでは電力会社との契約電力)の関係性について見ていきます。

下図1は、1319件の建物データに基づき、前述した①計画時の受変電容量と②実際の稼働状況の関係性を「需要率」として分布図に表したものですが、「需要率」の中央値は42.6%、平均値は44.1%の結果となっていることがわかります。
※ここでは需要率=②÷①とする。


図1|建物の変電容量と契約電力、需要率について


建物の変電容量と契約電力、需要率について


一方、事業者(建築主)にとって、テナントビル等において、OAコンセント容量などの電気設備容量を大きくすることは、テナント誘致のアピール材料となり、集客力に繋がるメリットがあります。この理由から、事業者側としては仮に過剰であったとしても、設備容量を減らしたくない意向が働く場合も多いと考えられます。

このように、「需要率」が低く、設備容量の削減が可能であっても、事業者の意向や設計者・施工者のリスクヘッジといった心情的な要素が加わり、過剰スペックになってしまうケースも多いと考えられます。

2) 空調設備の事例


電気設備(受変電設備)同様に、空調設備の機器容量も見直すことができれば、大きなコスト低減効果が期待できると考えられます。

下図2は、空調設備機器の定格出力に対する稼働状況(負荷率)をグラフで表したものですが、実態は冷房時・暖房時とも低負荷での運転であることがわかります。


図2|空調設備機器の稼働状況について


空調設備機器の稼働状況について



このように、空調設備についても計画時よりも実際の稼働状況が大きく下回っている場合があります。

しかし、電気設備(受変電設備)同様に、設計者・施工者の立場としては、万一空調設備容量が不足した場合には、事業者からのクレームに繋がるリスクがあるため、思い切って容量を小さくできない実情があると考えられます。

前述した電気設備(受変電設備)と空調設備の事例のいずれにも共通して言えることは、事業者と設計者、施工者が計画段階でよく協議し、機器の増設スペースを確保しておく等、万一の設備容量不足に関するリスクも加味した上で適切な設備容量を設定することができれば、設備工事の導入コストを大きく低減できる可能性が高まるということです。

また、適切な容量になるということは、より効率的な電気や空調の運用に繋がる可能性があるため、ランニングコストの低減も期待できます。

以上のように、今回は、建設コストを低減に向けた方策例と、設備仕様の見直しによるコスト低減の可能性について紹介しました。

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