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オリンピック新国立競技場の建設費を考える(2)〜新国立競技場の建設費は高いのか〜

東京オリンピック新国立競技場の建設費水準について考えるシリーズ、前回はこれまでの建設費の増減や基本構造の変革など、これまでの流れについて振り返りました。今回は、いよいよ建設費の水準に迫ります。

新国立競技場の建設費水準を考える(2)~新国立競技場の建設費は高いのか~

過去のオリンピックスタジアムとの比較


前回、新国立競技場の建設費の概算は、当初見込みが1000億円、最大で3000億円超となり、最終的には約1500億円となっていることを紹介しました。また、当初のコンペで採用されたザハ・ハディド氏の案をそのまま強行していた場合、2015年には4000億円超にまで膨らんでいた恐れがあったこともわかりました。

この1000億円〜4000億円超という数字が、どの程度の水準にあるのでしょうか。まずは過去のオリンピックスタジアムの建築費と比較してみましょう。なお、建設費は推定額ですので、実際の建設費とは異なる可能性があります。

記憶に新しいリオデジャネイロオリンピックのメインスタジアムは約440億円といわれています。2012年のロンドンは近年で最も高額で約600億円、2008年北京は約500億円、2004年アテネは約370億円と見られています。

ただし、日本とは物価や人件費などが異なるため、単純比較はできません。例えば、ブラジルの給与水準は日本の5分の1から7分の1程度なので、人件費の低さを考えると、同じ施設を日本で建設した場合は、440億円をかなり上回る金額になると思われます。

とはいえ、給与水準が日本とさほど変わらないイギリスでも600億円ですから、特殊な構造であったザハ案が白紙撤回されたあとの1500億円という建設費でも、世界的なオリンピックスタジアムの建設費水準と比較してかなり高水準の建設費といえるでしょう。なお、ロンドンのオリンピックスタジアムの五輪開催中の収容人員は8万人であり収容人員6.8万人が予定されている新国立競技場を上回る規模となっています。

日本国内の競技施設建設費との比較


人件費や物価水準が異なる海外との比較ではわかりにくい面もあるので、今度は国内に建設された競技場の建設費を比較対象としてみます。

国内に建設された競技場で高額な建設費といえば、ドーム球場が代表格です。その中でも、建設費が高額なものは京セラドーム大阪の約500億円、札幌ドームの約420億円、福岡ヤフオクドームの約760億円(総事業費)などがあります。特に、屋根が開閉式の構造となっている福岡ヤフオクドームは建設費が高額になっています。

新国立競技場は、当初案では開閉式の屋根を予定していましたが、建設費を抑えるために東京オリンピック終了後に開閉式屋根に改修する計画に変更されていますので、現在の1500億円の建設費には開閉式屋根の建設費は含まれていません。それにも関わらず、開閉式屋根を持つドーム球場の建設費の倍以上となっており、高額な水準であるといわざるをえない状況です。

ドーム球場以外では、2002年の日韓共催で行われたサッカーワールドカップの際に建設された施設があります。中でも最大の規模のものは、多目的競技場として建設された横浜の日産スタジアムで約600億円です。収容人員は7万2千人で、新国立競技場よりも多くなっています。

建設費高騰の理由


ここまでの比較から、新国立競技場の建設費水準は過去のオリンピックスタジアムや国内の競技施設と比較して非常に高い水準の建設費であると結論づけることができます。では、建設費高騰の理由はなんでしょうか。

最も大きな理由は、建設予定地の地盤が軟弱であるためだといわれています。予定地はもともとが河川であった土地のため、上層の土は軟弱で支持地盤はかなり深いところにあります。ここに巨大な建築物を建てるためには、大量の杭を支持地盤まで打ち込んで支えるか、軟弱な土を全て掘り起こして支持地盤を露出させるしかありません。どちらの方法を取ったとしても、100億円超の費用がかかるといわれています。

地盤対策に費用がかかることはわかりましたが、新国立競技場の建設費は過去の建設費の水準と比べても数百億円以上高額で、理由としてはまだ不足しています。そのほかの理由は現在のところ明確にされていませんが、当初採用されたザハ案が技術的に非常に困難であったことから、施工可能なゼネコンが限られてしまい、その為に十分な価格競争が行われなかったことも原因として挙げられています。

いずれにしても過去に例のない建設費水準になることは間違いないといえるでしょう。

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「新国立競技場の建設費水準を考える」はこちら↓
(1)これまでを振り返る
(2)新国立競技場の建設費は高いのか

「関連記事-東京オリンピックが建設業に与える影響」はこちら↓
(1)現在(2016年)までの状況
(2)オリンピック開催までの影響予測
(3)オリンピック開催後はどうなるか

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2016.7.19
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