東京オリンピックが建設業に与える影響(3)~オリンピック開催後はどうなるか~
東京オリンピックが建設業に与える影響を考えるシリーズ、第3回は2020年のオリンピック開催後に、建設業界はどのような影響を受けるのかを考えていきます。
オリンピック開催後の建設業界
日本では過去に3回オリンピックが行われています。最初のオリンピックは1964年、戦後の復興期に行われた東京オリンピックでした。次は72年、高度経済成長期に行われた札幌オリンピック、そして98年、バブル崩壊期に行われた長野オリンピックです。
経済成長期に行われた東京と札幌のオリンピックでは、オリンピック特需による建設業界高揚が経済の成長を促して、オリンピック後も上向きの基調が続きました。しかし、景気後退期に行われた長野オリンピックでは、オリンピック特需の反動が顕著に出て、開催後は景気の減速を後押しする結果になっています。
現在の日本は出口の見えない不況が続いています。これは明確に成長期であった東京や札幌のときとは異なりますが、下り坂に差しかかったばかりだった長野のときとも異なります。
オリンピックがもたらす経済効果は数兆円ともいわれますが、多くの業界関係者は、オリンピックが建設業界や社会全体の景気に与える影響は限定的で、開催後の景気は特に変化しないか、リバウンドで多少の落ち込みが見られる程度と予想しています。
観光業界には好影響がもたらされる可能性が高い
オリンピック開催による経済効果は、一説には数兆円規模にのぼると見られています。建設業界は期待しすぎず、冷静にとらえている雰囲気ですが、社会的には一定の期待感はあります。
特に直接的な恩恵をこうむると見られているのは観光業界です。オリンピック直後に一時的な落ち込みがあるのはやむを得ませんが、オリンピックによって日本の知名度が上がることや、オリンピック時に来訪した旅行者のリピーターも期待できるため、中期的には観光業界の景気が良化する可能性が高いと見られています。その影響でホテルなど観光施設の建設が増加すれば、建設業にも少なからず好影響がもたらされるでしょう。
ただ、海外旅行者が観光業界にもたらすインパクトとしては、爆買を続けていた中国人旅行者の動向のほうが大きいと予想されています。中国経済の失速が加速すれば、オリンピック効果による景気の良化を打ち消してしまうほどの悪影響が出ると見られています。
不動産業界は住宅の供給過多による悪影響に注意が必要
現在、不動産業界は記録的な低金利や、不動産投資の増大の影響で住宅販売が好調に推移しています。都心部などでは建築ラッシュを迎えており、プチバブルの様相を呈してきました。
これに加えて、現在オリンピックに向けて、選手村の建築が急ピッチで進められています。この選手村は、仮設施設ではなく、オリンピック後も利用できるように計画されており、開催後は1万戸程度の住宅が短期間で市場に供給される見通しです。
しかしながら、日本社会は少子化が加速しており、今後住宅の需要が増加する見込みはまずありません。低金利を背景に住宅を購入しているのは、主に40代前後の団塊ジュニアの世代ですが、この世代の住宅購入が一巡してしまうと、一気に供給過多におちいる恐れがあります。
不動産業界で倒産などが発生すれば、建設業界にも大きな影響が出ます。住宅販売を柱にする不動産業界の動向には十分な注意が必要になるでしょう。
オフィスビル・商業施設の需要は伸びる可能性がある
住宅販売が好調なのと同様に、オフィスビルや商業施設の需要も増加傾向にあります。低金利を背景に企業が設備投資に力を入れ始めていることが要因ですが、個人の不動産投資の過熱ぶりに比べると、企業は慎重な姿勢を崩しておらず、プチバブル化する兆しはいまのところ見えません。
また、数兆円規模といわれるオリンピックがもたらす経済効果は、特定の業種への著しい効果よりも、あらゆる業種に少しずつ効果が出るものと考えるべきです。その結果、オフィスビル・商業施設などの需要が少しずつ高まって、建設業界にも長期的なスパンで好影響が出るものと思われます。
イノベーションも重要だが、特需に左右されない地道な努力こそが本筋
オリンピック特需を乗り切るためにイノベーションが生まれれば、その後の建設業界に好影響をもたらす可能性は高いでしょう。しかし、オリンピックでイノベーションが生まれるというのは希望的観測にすぎません。
仮にイノベーションといえるほどの変化を果たせなくても、例えば、3K職場といわれる体質を改善し、若者が働きたいと思える職場環境を作る努力を行う、ベテランの職人の持つ技術を次の世代に継承するなど、オリンピックに左右されない建設業全体で努力を続けていくことが肝心といえるでしょう。
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(2)オリンピック開催までの影響予測
(3)オリンピック開催後はどうなるか
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