建設業を変革しえるBIMとは?(3)〜BIMの導入状況と課題〜
建設業界に変革をもたらしつつあるBIM(ビム)について考えるシリーズ。最終回の第3回は、BIMの現在の導入状況や将来性、導入を進めるにあたっての課題について考察します。
海外では普及しているが日本ではまだまだ
BIMの導入は海外では非常に進んでおり、例えば、米国ではGSA(アメリカ連邦調達局で日本における国交省営繕に相当する公的発注機関)がガイドラインでBIMの3次元建築モデルデータの納品を規定し、シンガポールでは意匠・構造・設備のBIMデータの提出を義務付け,段階的にBIMデータによる建築確認申請を推し進めている。特にアメリカでは2010年頃から急速に普及が進み、大手建設会社で約9割、中小建設会社でも6割〜7割が導入しているといわれています。
一方、日本では、BIMの有用性は認められており、建設業界内における認知度も年々上がっていますが、導入率はまだまだ低水準に留まっています。ただし、導入に向けた動きは加速しており、国交省では2014年にBIMの導入促進を目的として、BIMガイドラインを発表しました。また、鹿島建設や大林組などの大手ゼネコンがBIMを導入しています。ただし、中小の建設会社は様子見といった雰囲気で、今後、大手から中小に導入の動きがどの程度連鎖していくのかは不透明な状況です。
今後の国内におけるBIM導入の課題としては大きく2つ挙げられます。
BIM導入の課題①
まず、BIM導入の担い手の現状が、実質的にはBIMソフトメーカーや大手設計事務所や大手建設会社といった民間企業である点が挙げられます。前述したように日本においても国交省によるBIMガイドラインが発表されるなど、BIM普及に関してある程度の影響はあると考えられますが、BIMデータの納品を義務付けているシンガポールやアメリカと比較した場合、建設業におけるBIM普及速度の差は歴然であります。
例えば、これらBIM先進国のように、公共プロジェクトのみならず民間プロジェクトにおける建築申請プロセスでもBIMデータの納品が義務化されるなど、政府主導型のBIM導入が実施されることとなれば、国内の設計事務所や建設事務所におけるBIMの普及速度は、現在の民間企業主導型のBIM導入と比較して比べものにならない程のスピードで普及していくことでしょう。
これまでのBIM先進国の例をとっても、政府主導型のBIM導入は、民間建設業者の間でBIMが普及するための必須の課題であると考えられます
BIM導入の課題②
次に、中小の建設業者がBIMの導入に踏み切らない理由として多く挙げられるのが、導入に必要なハードウェアやソフトウェアが高額であることです。
CADよりもはるかに複雑で高度な機能を有しているBIMは、必要なシステムが高額なるという問題を抱えています。ただ、BIMを導入すれば、設計や施工の効率化が見込めるため、高額でも費用対効果が望めるなら、導入はもっと進むはずです。それが進まないのは、単にハードやソフトが高額だから、という理由だけではなく、導入しても費用対効果を得ることが難しいと考えている企業が多いためであると考えられます。
実はBIMの持つ属性情報の管理機能を生かすためには、建設部材の情報を収集し、テンプレート化してシステムに入力する必要があり、この作業に多大な労力が必要になるのです。
大手業者なら、BIMの導入プロジェクトを組んで、一気にテンプレート化を進めることもできるでしょうが、中小の業者では、人手不足でBIMを導入するためだけに人を専従させることは困難です。また、いつも同じような内容の工事を専門的に行っている業者であれば、最初に労力をかけてテンプレート化を済ませてしまえば、そのあとは継続的にBIMの運用が可能ですが、様々な工事を手広く行っている業者の場合、その都度テンプレート化の作業が必要になるため、効率が悪くなるという弱点があります。
こうしたBIM導入の為だけに人手を確保できない中小の建設業者でも、効率よくテンプレートを入手可能となるような環境や方法、例えば、一度ある業者が作成したテンプレートをほかの業者が利用料を支払い共有して利用できる方法などを業界全体で検討し、進めていくことが今後の課題であるといえます。
BIMがもたらす建設業の変革
BIMが建設にもたらす効率化により設計や施工における必要な労力やミスが減少し、結果として建設に必要なコストが下がれば、建設需要の増加や、建設業者の収益改善が見込めます。また、BIMは新たな技術として若い設計者や技術者の活躍の場を広げ、雇用の活性化につながることも期待できます。
近年建設業では、就業者の高齢化が進み、技能を受け継ぐ若手の不足から、日本の建設技術水準が低下してしまう恐れも懸念されております。同時にマンション等の施工不良なども大きく報道で取り上げられ重大な社会問題になっているのが現状ですBIMの導入によりこれらの建設技術水準低下の問題や施工不良問題に歯止めをかけることも期待されています。
国内ではBIM導入に向けた課題は大きく、普及までの時間もまだまだかかる可能性が否定できません。しかしながら、今後10年、20年先、建設業では業界を支えるツールとしてBIMが幅広く普及し大きな変革をもたらしていることを期待します。
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「建設業を変革しえるBIMとは?」はこちら↓
(1)BIMとは何か
(2)ソリューションとしてのBIM
(3)BIMの導入状況と課題
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(4)目標はスマートシティの実現