地方活性化と建設業(2)〜人材移動の功罪〜
地方活性化と建設業の関わりについて考えるシリーズ、現在までの経緯を振り返った第1回に続いて、第2回からは公共事業削減時代における地方建設業者の目指すべき道と生き残り策について考察します。
建設業の本分は社会基盤の整備と維持
公共事業の削減によって苦境に立たされている地方建設業界ですが、その本分は、やはり社会基盤の整備と、その維持にあることには変わりません。
とはいえ、これまでのように、建設業界を守る目的だけで不要不急の公共工事を行うことは、社会が許しませんし、問題の本質的な解決にもつながらないでしょう。公共事業への投資は、地方再生や地域活性化につながるものでなくては意味がなく、最終的には民間の建設需要を高めていくことが重要といえます。
そのためには、公共事業の質の変革や、建設業界が地域の産業と密接に結び付き、協力していくことが不可欠と思われます。
とはいえ、地方再生を実現することは簡単ではなく、実現するとしても長い期間が必要になります。それまでの間に地方の建設業界が崩壊することを防ぐためには、別の手段が必要になってくるでしょう。公共事業に頼らずに地方建設業者が生き残るためには、どのような策が考えられているのでしょうか。
成長産業への人材移動が必要だが課題も多い
建設業では2013年頃より近年までに深刻な人材不足に陥りましたが、それも大都市圏を中心としたものであり、地方都市では一方で、地方の建設業では、業者数や人手が余剰している状態が続いています。
抜本的な解決策として、他業種への人材の移動=転職を進めることが必要と思われます。過剰な公共投資によって肥大化した状態をスリム化する必要があるのです。また、社会全体では、少子高齢化により慢性的な人手不足に陥っているため、成長産業や、社会基盤を構成する業種への人材の移動は、日本経済の立て直しにも効果的です。
ただし、人材の移動には大きな問題点も指摘されています。
まず、IT産業などを始めとして、成長産業の多くは大都市圏に母体が置かれていることが多く、人材を移動すると、地方から大都市圏に人口の流出が発生する恐れがあります。地方の人口が減少すると、地方経済はますます衰退し、建設需要も減少し、建設産業が一層苦しくなるという悪循環に陥ることにつながるのです。
次に、未経験の異業種への転職は、柔軟性に富み、適応力の高い若い世代ほど成功しやすくなります。ただでさえ建設業界は、新規就労者数が減少し、就労者の高齢化が深刻な問題となっています。人材の移動を無理に推し進めた場合、若い世代の不足に拍車がかかることが懸念されます。
このような問題があるため、地方の建設業界を再生するためには単純に人材の移動を推し進めるだけでは上手くいかず、人口流出を防止するとともに、若者離れを避けるための方策が必要になってきます。
地方都市建設業生き残りのカギは?
近年注目されているのが建設業者が異業種参入などにより経営の多角化をすることで、余剰した人材を活用する方法。転職をするのではなく、建設業者内で部署移動をするイメージです。地方都市建設業における限られたパイに固執するのではなく、経営の多角化を進めることにより、新しい市場を模索して開拓する動きが生き残りのカギとなります。
次回は、経営多角化のメリットや事例、課題などについて考察します。
「地方活性化と建設業」はこちら↓
(1)建設業の果たしてきた役割と現状
(2)人材移動の功罪
(3)経営の多角化がカギを握る
(4)経営多角化の事例
「関連記事①-災害と建設業」はこちら↓
(1)災害発生直後の対応
(2)災害復興最初期の対応
(3)災害復興初期の対応
(4)災害復興中期の対応
(5)災害復興後期の対応
(6)災害復興対応のまとめ
「関連記事②-建設業の社会保険未加入問題」はこちら↓
(1)現在の状況と問題の背景
(2)ガイドライン改訂の影響と今後の予測