アーキブックコスト

働き方改革が建設業に与える影響(2)~工期や建設費への影響~

【働き方改革が建設業に与える影響②】
政府、経済界、建設業が一丸となって推進している「働き方改革」が建設業へ与える影響について、前回のコラムでは、2018年現在までの現状の概要を整理しました。今回は、「働き方改革」による建設業への影響について具体的に紹介していきます。

働き方改革が建設業に与える影響(2)~工期や建設費への影響~

建設業では「4週8休」による「週休二日」の実現を目指す!


建設業の目指す「働き方改革」、その主たる目的は「建設現場で働く全ての人が確実に週二日の休日を確保する」こと、すなわち建設業での「週休二日」を実現することにあります。「週休二日」は他の産業では一般的となってきておりますが、建設業では到底実施することができないとされてきました。

その理由としては、業界での工期への考え方が大きく影響していると考えられます。例えば、下図が示すように、2015年時点では4週4休、または4週3休以下の建設現場が土木工事で約58%、建築工事で約74%、結果として建設業全体で約6割以上となっています。一方、4週8休以上である現場の割合は、土木工事で5.6%、建築工事では2.8%で、建設業全体では5.7%にとどまっております。


建設業における休日の状況|工程表上の休日設定(工事別)


同様に、発注者別の休日設定を見てみても、国交省を含む全ての発注者工事において4週4休以下の現場が6割を超えており、特に、民間マンションディベロッパーが発注者の場合においては、同割合が78.1%と顕著に高い割合となっております。(下図参照)


建設業における休日の状況|工程表上の休日設定(発注者別)


つまり、これまで建設業では4週4休、すなわち建設現場の4週4閉所(4週間で現場を4日閉所する)をベースに工期が設定されてきました。しかしながら、この工期設定のベースを4週8閉所へ変えていかない限り建設業における「週休二日」は実現しない為、政府ならびに建設業団体を挙げて、下請会社との契約も含め、建設工事の請負契約における適正な工期の設定を呼びかけているのです。(4週4閉所:4週間で現場を4日閉所すること)

これまで4週4休であった建設現場を4週8休として「週休二日」を目指すことで、建設業へ様々な影響を及ぼすと考えられますが、その中でも下記①~③に挙げられる項目については業界に与える影響が大きいと考えられ、以降はこれらについて具体的に解説していきます。

① 工期延長
② 建設費の増加
③ 建設技能労働者の収入

①働き方改革による工期への影響は?


「働き方改革」による建設業への影響として、まず挙げられるのが工期への影響です。これまで現場で4週4休(4週4閉所)をベースとしていた工期が4週8休(4週8閉所)とすることで工期の延伸は避けられない可能性が高い為です。

例えば、ある建設プロジェクトの工期を設定する際に、4週4休ベースで設定した場合の工期が52週(364日)であったとします。この時、現場における閉所日は52日となります。一方、同じプロジェクトを4週8休ベースで工期設定すると、52週間の間に52日間の閉所日が追加で発生し合計で104日が閉所日となる為、単純計算でも4週4休ベースの工期より52日分工期が延びることになります。

これは、今後4週8休ベースで工期を設定すると、4週4休で設定されていた工期と比較して約14.3%工期が延びることを意味しており、プロジェクトに係る関係者への影響は非常に大きいことが分かります。

例えば、発注者にとってはそのプロジェクトが分譲マンションや賃貸オフィスなどを目的とした事業であった場合、工期が延びることによって収益を得るまでの期間が延びるだけでなく、工期が延びた分が借入金の利息や返済にも影響を与える可能性があるからです。

※1|厳密には、追加の閉所日によって52日分工期が延びた間にも、4週8休で閉所日が発生する為、工期は52日より延びることとなるが、ここでは52日とした。
※2|14.3%は(364+52)÷364 – 1 = 14.29%より得られる。

②働き方改革による建設費への影響は?


「働き方改革」による建設業への影響として、次に挙げられるのが建設費への影響です。前述したように4週8休となった場合には現在の4週4休ベースで設定された工期が延びることとなりますが、それに伴って建設費も増加するからです。

建設費には建物や施設を建てるのに必要となる資材や現場で工事を行う労働者のコストに加え、仮設費や現場管理費などの費用も含まれます。

例えば、仮設費には、監理事務所や現場事務所といった仮設の事務所、現場の仮囲い、建機(ショベルカー、ダンプカー、クレーンなど)、工事に必要な動力用水光熱費、建物内部や外部の足場などに要する費用が含まれます。一方、現場管理費には、現場従業員の給与、保険料(火災保険や工事保険など)、労務管理に要する費用などが含まれます。

そして、これら費用の多くは工期や工期に比例するレンタル期間に基づいて金額が決まる為、今後、建設現場が4週4休から4週8休となり工期が延びた場合には、これら仮設費や現場管理費に係る費用が増し、結果として建設費が増加すると考えられます。

具体的な増額の影響についてはプロジェクト毎で個別に算出される必要がありますが、例えば、建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン(国交省)では、国土交通省発注の土木工事においては、週休2日を実施する工事について共通仮設費を2%、現場管理費4%、現行水準に対して上乗せするとしています。

③働き方改革による建設技能労働者の収入への影響は?


最後に、建設技能労働者の収入への影響が挙げられます。これは、前述したように現場の閉所日を現在の4週4休から4週8休へとした場合に、現場における技能労働者の収入が減ってしまう可能性がある為です。

その理由としては、建設業の技能労働者の給与形態が挙げられます。例えば、建設現場における技能労働者のうち、現在約6割を超える労働者の給与形態が日給制であるとされています。(下図参照)


出典|週休2日の確保に向けたアンケートの実施計画(国交省)に基づいて作成


つまり、月給制と異なり、日給制は稼働した日数に基づいて収入が決まる為、働き方改革により現在の4週4閉所から4週8閉所へ閉所日が増えることで、現場における稼働日が減り、結果として技能労働者の収入に大きな影響を与える可能性が挙げられているのです。

ただ、働き方改革により労働者の収入が減ってしまっては元も子もない為、現在日給制の技能労働者を月給制へ移行する、または、日給制のままの場合は賃金水準を上げることで収入減少分をカバーするなど今後の業界における対応がポイントとなりそうです。

また、建設技能労働者の収入を確保した上で週休二日を目指すとなると、いずれの対応においても労務コスト上昇につながる可能性が高く、最終的には建設費の増加へと影響を与えることになりそうです。

このように、今回は「働き方改革」が建設業へ与える影響について具体的に紹介しました。次回のコラムでは「働き方改革」の実現に向けた課題に対する取り組みについて紹介していきます。

実務で役立つ建築費の相場【最新版】TOPへ
実務で役立つゼネコンの状況把握【最新版】TOPへ
業績から把握するデベロッパーランキング【最新版】TOPへ
職選びで役に立つ建設業の年収相場【最新版】TOPへ

「働き方改革が建設業に与える影響」はこちらから↓
(1)2018年現在の状況を整理
(2)工期や建設費への影響
(3)週休二日へ向けた具体的な取り組み

「関連記事-東京オリンピックが建設業に与える影響」はこちらから↓
(1)現在(2016年)までの状況
(2)オリンピック開催までの影響予測
(3)オリンピック開催後はどうなるか

「関連記事-建設業界の人手不足の現状と対策」はこちらから↓
(1)現在までの状況
(2)人手不足の根本的な要因
(3)就労先として人気を得るには
(4)新たな発想で人手不足を解消する

「関連記事-建設業の社会保険未加入問題」はこちらから↓
(1)現在の状況と問題の背景
(2)ガイドライン改訂の影響と今後の予測

「関連記事-人手不足の深刻化が進む建設業における外国人技能実習生活用の実態」はこちらから↓
(1)外国人技能実習生ニーズの現状
(2)実習生の採用から受け入れ
(3)採用のメリットとデメリット

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

記事を気に入ったらシェア!

合わせて読みたい

オススメの最新記事

この記事と同じカテゴリの質問


アーキブックコスト

コラムカテゴリ

カテゴリー

専門家の種類

建物用途

資格

課題解決

サイトニュース

2016.7.19
「アーキブック」をリリースしました。