働き方改革が建設業に与える影響(3)~週休二日へ向けた具体的な取り組み~
【働き方改革が建設業に与える影響③】
建設業が一丸となって推進している「働き方改革」、前回のコラムでは「働き方改革」が建設業へ与える影響について解説しました。今回は、建設業で「働き方改革」を実現する為に実施されている取り組みなどについて紹介していきます。
建設業全体で「週休二日」の実現を目指す!
建設業における「働き方改革」、その根幹は業界における「週休二日」の実現にあります。これまで4週4休が当たり前であった建設業において4週8休として「週休二日」を実現するために必要として実施されている取り組みについて、大きくは下記①~③が挙げられますがこれらの内容について具体的にみていきます。
① 建設現場を「4週8閉所」へ
② 生産性を向上させる
③ 技能労働者の収入を減らさない
①建設現場を「4週8閉所」へ
まず、建設現場における閉所日を増やす取り組みが挙げられます。そして、この取り組みは建設業界団体の規模で進められています。
例えば、2017年12月に建設業団体である日建連(日本建設業連合会)により策定された「週休二日実現行動計画」においては、建設業で週休二日を実現するための具体的な目標として、建設現場における閉所日を現在の4週4閉所から、2019年度末までに4週6閉所以上、2021年度末までに4週8閉所とする目標が掲げられています。
具体的に、日建連では業界一体となっての「統一土曜閉所運動」を呼びかけ、会員企業の全事業所を対象に18年度は4週5閉所(原則日曜日と毎月第2土曜日の閉所)、19年度は4週6閉所(原則日曜日と毎月第2・4土曜日の閉所)として、既に2018年4月より実施されています。
例えば、現場ごとに閉所日が異なると、元請・下請企業の現場管理や労務管理が複雑となり対応が困難となるだけでなく、閉所日に建設技能労働者が他社の現場に移ってしまうことも考えられるので、業界で統一土曜日を閉所日とすることで週休二日をより現実のものとする狙いです。
また、目標とする閉所日数を建設現場で確保する為、段階的に増やす閉所日に基づいた適正な工期の設定も重要な取り組みとして挙げられます。何故ならば、建設業の基本は請負契約の為、契約上の工期が適正でないと目標とする閉所日の確保が現実的なものとならないからです。
②生産性を向上させる
次に、生産性を向上させる取り組みが挙げられます。これは、生産性が向上しないまま「働き方改革」により工期が延びて、建設費が増加することとなれば、それは結果として発注者にとっての負担が大きくなるだけの改革となってしまうからです。
建設業では従来から建設現場における生産性の向上に取り組んできましたが、働き方改革の実現に向けてより一層継続的な取り組みが期待されています。ここでは、具体的な取り組みの一部について紹介していきます。
【CIM/BIMの活用】
CIMやBIMと呼ばれる設計・施工情報を一元的に管理して関係者で情報共有する3次元の構造物モデルの活用することで、設計や施工の手戻りを減らし生産性の向上に繋がります。
【省力化工法の採用】
ユニット工法やプレキャスト工法と呼ばれる工法を指します。通常は建設現場で施工される建物を部分的に工場で生産して、現場でつなぎ合わせ組み立てる省力化工法によって生産性の向上を目指す工法です。
【多能工の育成】
建設現場では工事の種類は細分化しており、多くの専門工事業者により工種別に施工されていますが、複数の工種を同時にこなすことができる多能工が増えることで、省力化や工期短縮など生産性の向上に繋がります。
例えば、鹿島建設の関連会社である「鹿島フィット」では優れ担い手を育成し生産性を高める方策の一つとして多能工の育成に取り組んでいます。
また、国交省は2018年5月末に中小・中堅建設企業等が連携し、多能工の育成・活用によって生産性向上を図るモデル性の高い取組を支援するため「多能工化モデル事業」の支援対象案件を公募して、同年9月に9案件を選定しました。
【建設生産プロセスにおけるICTの活用】
ドローンによる3次元測量、ICT建機による施工など、ICT建設機械やロボットを活用することで、現場を省力化して生産性の向上に繋げます。
例えば、清水建設は2018年4月に建設ロボットの開発および高層ビルでの実用化についてニュースリリースしました。これらのロボットは、資材の水平搬送、鉄骨柱の溶接、天井ボード貼り等の役割を各々担い、2018年秋には大阪市内で施工中の高層ビルへの適用を控え、2019年度からは東京都内の大型現場を中心に稼働されると発表されています。
また、国交省では調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICT等の活用することを「i-Construction」として推進し、建設現場における生産性を2025年度までに2割の向上を目指しています。(下図参照)
出典|建設産業の現状と課題(国交省)
このように、建設現場での生産性を向上する為の取り組みが国交省、建設業者で積極的に進められています。働き方改革により工期延伸、コスト増加の可能性を踏まえると、今後確実に生産性を向上させていく建設現場が発注者にとって魅力的なサービスに繋がると考えられます。
※CIM、BIM、ICT
CIM|Construction Information Modeling/Management
BIM|Building Information Modeling
ICT|Information and Communication Technology
③技能労働者の収入を減らさない
最後に、建設現場における技能労働者の収入を減らさない為の取り組みが挙げられます。現在、建設現場における技能労働者の6割以上が日給制による給与形態です。「働き方改革」を進め週休二日となった場合には日給制である技能労働者の収入が減ってしまう為、それを減らさない為の取り組みとなります。
ここでもいくつか具体的な取り組みを挙げていきます。
【日給制から月給制への移行】
今後、「働き方改革」により現場における閉所日数が増える中、これまで日給制であった技能労働者の給与形態を月給制へ移行することは、これらを抱える専門工事業者などにとって大きなリスクに繋がります。
その為、日建連の「週休二日実現行動計画」では、社員化・月給制に取り組む専門工事業者に対して従来以上に積極的な支援、関与を行うとし、さらに具体的には、雇用形態、給与形態が移行されるまでは日給制の建設技能労働者の年収が維持できるように労務単価を引上げることで週休二日による年収減少分の補填を実施するとし、建設業団体として月給制への移行に積極的に取り組んでいます。
これにいち早く対応したのが清水建設でした。同社は2018年5月初に工事現場の週休二日を積極推進する目的として、支払条件変更と賃金補填で協力業者と技能労働者を支援すると公表しました。
具体的には、同年5月以降、所定の閉所条件を満たせば月々の出来高に一定割合を加算する賃金補填を実施し、現場の閉所日増による技能労働者の収入減を抑制するとして、2年間で総額約20億円を見込んでいます。
このように、今後も元請建設会社による協力専門工事会社の支援が加速し、現場における技能労働者の収入を守ることで、月給制の移行が進んで行くことが期待されます。
【建設キャリアアップシステムの導入】
ここでは、国交省による「建設キャリアアップシステム」を紹介します。
このシステムでは、建設技能労働者の現場経験や保有資格が業界統一のルールでシステムに蓄積されることになります。その為、例えば、十分な経験を積み、技能の向上に努める技能労働者が適正に評価されることになるので、処遇の改善につながる環境が整えられることになります。(下図参照)
出典|建設キャリアアップシステムを活用した技能者の処遇改善に向けた取組(国交省)
現在、国交省と各建設業団体とが足並みを揃え、建設キャリアアップシステムの運営主体である建設業振興基金において、平成30年秋の運用開始を目指してシステム開発等が進められています。
このシステムにより経験や実績が適正に評価され、建設技能労働者の処遇・収入の改善が大いに期待されます。
このように、今回は「働き方改革」を実現する為の建設業における取り組みについて具体的に解説しました。これまで3回のコラムにわたり「働き方改革による建設業への影響」を紹介してきましたが、建設業における働き方改革は始まったばかりですので、また改めて具体的な状況を紹介していきたいと考えています。
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「働き方改革が建設業に与える影響」はこちらから↓
(1)2018年現在の状況を整理
(2)工期や建設費への影響
(3)週休二日へ向けた具体的な取り組み
「関連記事-東京オリンピックが建設業に与える影響」はこちらから↓
(1)現在(2016年)までの状況
(2)オリンピック開催までの影響予測
(3)オリンピック開催後はどうなるか
「関連記事-建設業界の人手不足の現状と対策」はこちらから↓
(1)現在までの状況
(2)人手不足の根本的な要因
(3)就労先として人気を得るには
(4)新たな発想で人手不足を解消する
「関連記事-建設業の社会保険未加入問題」はこちらから↓
(1)現在の状況と問題の背景
(2)ガイドライン改訂の影響と今後の予測
「関連記事-人手不足の深刻化が進む建設業における外国人技能実習生活用の実態」はこちらから↓
(1)外国人技能実習生ニーズの現状
(2)実習生の採用から受け入れ
(3)採用のメリットとデメリット