建設業の未来(3)~建設業界の構造改革が未来を創る~
建設業の未来を考えるシリーズ。第3回は、建築の技術から離れて、日本の建設業界の構造改革について考えてみます。
若者の就労率が下がり続ける建設業界に未来はあるか
建設業界では、昨今、業界の未来を担う若い世代の就労率が著しく低下しています。その主な理由としては、いわゆる3K(きつい、きたない、きけん)職場というイメージや、各種社会保険が完備されていない会社や事業所が多いこと、他業種と比べて労働賃金が安いこと、日給月給(働いた日数分だけ給与が支給される仕組み)で、仕事が少ない時期や、雨で作業ができない日などは稼ぎにならず収入が不安定であること、といったことが挙げられます。
若年層の就労率が低いため、55歳以上の就労者率が30%を超えるなど高齢化も進んでいます。このままだと、近い将来に高齢者層が引退し深刻な人手不足に陥ることや、熟練の職人の技が次世代に受け継がれず、工事の品質が保たれなくなる恐れなどが指摘されています。
これらの不安が現実のものとなった場合、単位業界内の混乱では収まらず、インフラの整備が大幅に遅れたり、オフィス不足により企業活動が停滞するなど、社会的に大きな問題なることが予想されています。
この悪い未来予測を変えていくためにはどうすればいのでしょうか。
現状の労働条件の改善は限局的かつ一時的なもの
いま現在の建設業の状況は、主に東日本大震災の復興特需の影響により大手ゼネコンを中心に受注が増加傾向にあり、人手は不足傾向にあります。そこに、東京オリンピック開催の決定も追い風となって人手不足に拍車がかかり、その結果、労働賃金は上昇しました。ただ、2016年に入ってからは、受注数の伸びが止まり人手不足感も解消しつつあります。
しかし、労働賃金が上昇したといっても、業界内での比較の話であり、他業種と比べた場合、まだ平均して低い水準にとどまっています。また、一時的な受注増で上昇しただけですから、オリンピック開催後など、特需の終了後は反動で大幅に下がる恐れもあります。やはり、根本的な賃金体系の改善が必要と思われます。
次に、社会保険が完備されていない会社が多い問題については、国土交通省が「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を平成24年に施行し、さらに昨年はより厳しい内容に改訂したことで、状況の大幅な改善が期待されています。しかし、一方では一人親方(職人が個人事業主になって工事を受注する形態)などの増加で社会保険適用を逃れる動きなども指摘されており、表面に見えなくなるだけで問題の本質は解決しないという声も挙がっています。
難航する重層下請け構造の改革
建設業を取り巻く各種の問題がなかなか改善しない背景には、建設業独特の重層下請け構造の仕組みが影響しているといわれています。ゼネコンが元請けとなって受注した工事を下請けに外注し、下請けはそのまた下請けに外注する。末端の職人は4次下請けや5次下請けとなることも多く、中間マージンが搾取されて、労働条件の改善を難しくしているのです。
このような重層下請け構造の問題については行政も認識しており、是正を目指した指導や、法律の制定などが行われていますが、いまだ決定打となる改善策は見出されていないのが実情です。
その理由として、業界内におけるゼネコンの影響力が非常に強いことが挙げられるでしょう。他の業界だけでなく政財界にも強い影響を及ぼすゼネコンに対して、強制力のある命令を下すことはなかなかに難しく、思い切ってメスを入れようとしても、どこかから横やりが入って潰されてしまいます。
また、ゼネコン自体が不況により青色吐息になっている部分もあって、生き残るのに必死で、業界構造の改革をやっている場合ではないという事情もあります。
未来を見つめた改革を
さまざまな事情があるとはいえ、構造改革が進まなければ建設業界の未来は見えてきません。やはりゼネコン自身が未来を見据えて英断するしかないでしょう。業界内部で体質を打ち破ることが難しいのであれば、外部から風穴を開けることが有効です。建設業の先進的な未来技術を考えたとき、異業種との深い協力体制が必ず必要になってきますから、合弁会社を設立したり、さらに思い切って、異業種と合併することで、これまでにない技術を生み出すとともに、体質の改善を図ることが、建設業の未来を変えていくことにつながるのではないでしょうか。

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(2)日本ならではの技術
(3)建設業界の構造改革が未来を創る
(4)空想が現実になる超先進技術
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(2)工期や建設費への影響
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