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基本計画段階のコストマネジメントとは!?

【佐藤隆良の建設コストマネジメント特集②】
建設コストマネジメント特集、前回のコラムでは、建設プロジェクトの企画段階におけるコストマネジメントについて紹介しました。今回はプロジェクトの基本計画段階で必要となるコストマネジメントについて具体的に説明していきます。

基本計画段階のコストマネジメントとは

基本計画段階のコストマネジメントとは!?


基本計画段階では、設計条件の確認と建築計画の基本構想の検討を行います。具体的には、建物の概略計画として、建物の配置、アクセス方式、仕様の概要、構造方式、設備方式などを含めた設計計画の基本的な事項が検討されます。

また、基本計画図などを通して、建築計画のコンセプトが固まってくるのもこの段階です。つまり、規模の他に、平面形状、容積、さらに構造方式などの計画概要がほぼ決まり、また建物の法的規制なども並行して調査・検討されます。

この段階におけるコストマネジメントの具体的な実務としては、以下が挙げられます。

1)概算工事費の算出(基本計画段階)
2)コストプランの作成
3)複数計画案によるコストシミュレーション

1)概算工事費の算出(基本計画段階)


この段階で得られる設計情報を確認し、設計者の意図する計画内容を十分に理解して概算工事費を算出します。具体的な算出方法は、過去の類似プロジェクトにおける実績工事費データを活用して「仮設」「躯体」「内部仕上」「外部仕上」「電力設備」「空調設備」など大項目レベルの内訳に基づいて概算工事費を算出します。

この際、過去の類似実績工事費データから項目別に「㎡あたり単価」を設定して算出する方法、全体の概算工事費金額を決めたうえで類似プロジェクトにおける工事費構成比に着目して金額を項目毎に配分する方法など様々ですが、いずれの方法も類似実績データを概算工事費算出の参考とする為、類似プロジェクトの工事費に関する事例・情報を可能な限り収集することが重要となります。また、設計内容の確定度や建設市場の状況に応じて、この段階で適切な予備費を概算額に見込んでおくことも必要です。

「企画段階で策定された予算工事費」または「基本計画段階での概算工事費」が、今後設計を進める上での目標予算(目標コスト)となる為、適正な算出方法に基づいた精度の高い概算工事費が求められます。


適正な目標予算の設定が重要!


例えば、上のイメージにおける目標予算①は、設定された目標予算の水準が市場における類似案件の工事費水準に対して低い為、設計が進むにつれて予算超過の状況が明らかになっています。また、目標予算②の場合は、その水準が類似案件の工事費水準に対して高い水準にある為、プロジェクトとしては目標予算内に収まったものの、客観的にみた工事費は高くなっています。

なお、これら予算として設定された金額は、企画・基本計画以降の設計プロセスで工事費の状況を把握するコストプランのベースとなります。

2)コストプランの作成


コストプランとは「現状の工事費は目標予算に収まっているか?」「極端に少ない金額となっていないか?」など、目標予算とプロジェクトの各段階での工事費の状況について確認・把握する為のコストマネジメントツールであり、プロジェクトにおいて一貫して活用されます。

例えば、各設計段階で算出される概算工事費が、目標予算(目標コスト)に対して予算オーバーとなっている場合には「どの工事が予算オーバーとなっているのか?」「なぜオーバーしてるのか?」など、目標コストに対してコスト超過や過小となっている工事を洗い出し、その妥当性や対応策について検討していきます。


コストプランとは「目標予算VS現状コスト」を管理するツール


つまり、目標予算(目標コスト)と概算工事費の間に大きな乖離がある工事項目について、目標コストの算出条件と概算工事費の算出条件を比較・検討することで、例えば、「この乖離は、発注者の要求によりコスト算出の前提条件が大きく変更したことによるもので、その金額も概ね妥当である」とか「設計内容(仕上げグレード、設備容量など)をもう一度見直す必要がある」といった判断を行い、関係者に報告すると共に、必要に応じて解決策や対応策を講じます。

このように、コストプランは、最終的な工事費を企画段階や基本計画段階で設定された目標予算(目標コスト)に収めるべく、コストコントロールを行う上で欠かせない重要なコストマネジメントのツールであり、基本計画の段階までに作成されるのが一般的です。

3)複数計画案によるコストシミュレーション


最後に、複数の計画案から最適案を選出するコストシミュレーションを紹介します。これは、同一のプロジェクトであっても、建物の形状やグレード等が変わる複数の計画が提案された場合、コストの観点から最適案を検討するシミュレーションとなります。


複数計画案によるコストシミュレーション


この検討では、建物の「地域」「形状」「グレード」といった概要に基づいて自動的に内訳書を作成し概算工事費を算出する「概算システム」が活用されます。

また、建設業ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入・活用が加速しています。

その為、近年ではBIMのモデル情報とこれらの「概算システム」を連動させて概算工事費を算出し、複数計画案についてコストシミュレーションを実施することで最適案を検討する業務が、基本計画段階などプロジェクトの川上段階におけるコストマネジメントの実務となってきていることについても触れておきます。

今回のコラムでは、基本計画段階で必要となるコストマネジメントについて具体的に説明しました。次回は設計段階におけるコストマネジメントの実務について紹介していきます。

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(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
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著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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