世界の建設市場における労務費を比べてみる!-佐藤隆良の海外建設市場シリーズ(2)-労務費編

世界の建設市場動向を読み解くコラム「海外建設市場シリーズ」、前回のコラムでは世界の建設市場における建設費の水準について紹介しましたが、今回は「労務費編」として世界34か国の建設市場における労務費の水準について解説していきたいと思います。

世界の建設市場における労務費を比べてみる!-世界の建設市場シリーズ(2)-労務費編

最も高い労務費はアメリカ(ニューヨーク)、日本(東京)は10番目の水準!


①労務費が高い国と特徴
労務費が最も高い水準となったのはアメリカ(ニューヨーク)で61.4(千円/日)でした。次いで、スイス(チューリッヒ)、オーストラリア(シドニー)、カナダ(トロント)、ドイツ(ベルリン)がそれぞれ59.2(千円/日)、33.2(千円/日)、32.1(千円/日)、28.2(千円/日)と、労務費の水準が高い上位5か国となりました。また、日本(東京)は19.8(千円/日)となり10番目に高い水準でした。これら建設市場における労務費が高い国や地域の特徴としては、イギリス、アメリカ、日本をはじめとする先進国、地域としては北・西ヨーロッパ、オセアニアの国々が挙げられます。(下図1参照)


労務費水準(千円/日)|高水準10か国


②労務費が低水準である国と特徴
一方、労務費が最も低い水準となった地域はインド(チェンナイ)で約6.3(千円/日)次いでインドネシア(ジャカルタ)が0.8(千円/日)、ミャンマー(ヤンゴン)、ウガンダ(カンパラ)、ケニア(ナイロビ)が0.9(千円/日)と続いております。これら労務費が低水準である国や地域の特徴としては、開発途上国や新興国、地域では東南アジア、アフリカ、中南米の国が多く見られます。(下図2参照)


労務費水準(千円/日)|低水準10か国


世界における建設労務費水準の乖離、最大で約88倍にも


労務費の水準が最も高いアメリカ(ニューヨーク)-61.2(千円/日)と、最も低いインド(チェンナイ)-約0.7(千円/日)とでは、その水準に約88倍の乖離があります。また、労務費が高水準である上位10か国の平均は33.3(千円/日)で、低水準である下位10か国の平均1.2(千円/日)と比較して約29倍程度高い水準、全35か国の平均水準12.5(千円/日)と比較して約2.7倍高い水準となり、高水準と低水準の国における労務費の格差が非常に大きいことが分かります。(下図3参照)


労務費水準の比較(千円/日)


地域別では北米、オセアニア、北・西ヨーロッパの労務費が高水準に!


①地域別にみた労務費
労務費を地域別に見てみると、最も高い水準は北米の46.8(千円/日)で、オセアニアの33.2(千円/日)との北・西ヨーロッパ31.0(千円/日)がこれに続き、日本を含むアジアは9.0(千円/日)の水準でした。一方、最も低い水準はアフリカの1.2(千円/日)で、次いで東南アジアの2.6(千円/日)、中東の4.2(千円/日)となっています。(下図4参照)


労務費水準の比較(千円/日)|地域別平均


②アジア、東南アジア、中東における労務費
【アジア】
アジアでは日本(東京)の労務費が19.8(千円/日)と最も高い水準であり、次いで、韓国(ソウル)、香港がそれぞれ12.3(千円/日)、9.7(千円/日)である一方、インド(チェンナイ)と中国(北京)がそれぞれ、0.7(千円/日)、2.6(千円/日)と日本や韓国の労務費水準と比較すると極端に低い水準で、労務費水準の乖離が大きいエリアとなっていることが読み取れます。

【東南アジア】
東南アジアではシンガポールにおける労務費が10.6(千円/日)と他国と比較すると5.0~13.2倍程度高い水準にあります。一方シンガポールを除く国では0.8(千円/日)から2.1(千円/日)までの一定の水準に収まっていることが分かります。

【中東】
中東地域では、トルコ(イスタンブール)における労務費が6.2(千円/日)と最も高い水準である一方、オマーン(マスカット)における労務費が2.6(千円/日)と最も低い水準となっています。エリアとしては労務費が2.6(千円/日)から6.2(千円/日)と概ね一定の水準におさまっているのが特徴として挙げられます。
(下図5参照)


労務費水準(千円/日)|アジア、東南アジア、中東


③ヨーロッパにおける労務費
【北・西ヨーロッパ】
北・西ヨーロッパでは、スイス(チューリッヒ)における労務費が59.2(千円/日)と他の国と比較すると2倍以上の極端に高い水準です。また、エリアとしてはいずれの国における労務費が23.1(千円/日)以上と非常に高い水準となっており、地域別で見た労務費は北米、オセアニアに次いで3番目に高い水準であります。

【東・南ヨーロッパ】
東・南ヨーロッパではロシア(モスクワ)における労務費が7.0(千円/日)、ポーランド(ワルシャワ)で5.3(千円/日)と、北・西ヨーロッパの水準と比較すると4分の1程度の低い水準であることが分かります。
(下図6参照)


労務費水準(千円/日)|ヨーロッパ


④アメリカ、オセアニア、アフリカにおける労務費
【北米】
北米ではアメリカ(ニューヨーク)における労務費が61.4(千円/日)となり、カナダ(トロント)の32.1(千円/日)と比較して1.9倍ほど高い水準となっています。なお、高水準であるアメリカの影響を受け、地域別では北米における労務費が最も高い水準となりました。

【中南米】
中南米における労務費は、ブラジル(サンパウロ)、チリ(サンティアゴ)、メキシコ(メキシコシティ)の順に7.0(千円/日)、4.4(千円/日)、3.3(千円/日)となりました。地域別では、アフリカ、東南アジア、中東に次いで4番目に低い水準のエリアとなっています。

【オセアニア】
オセアニアでは、オーストラリア(シドニー)の労務費が33.2(千円/日)で、地域別で見た場合は北米に次いで2番目に高い水準となります。

【アフリカ】
アフリカでは南アフリカ(ヨハネスブルク)の労務費が1.8(千円/日)で最も高い水準となった一方、ケニア(ナイロビ)で0.9(千円/日)と最も低い水準でした。アフリカにおける労務費は0.9(千円/日)から1.8(千円/日)までの一定の低水準に収まっており、地域別に見た場合では、2番目に低い水準である東南アジアの半分以下と最も低い水準にあります。
(下図7参照)


労務費水準(千円/日)|北米、中南米、オセアニア、アフリカ


データの概要
下記「対象国」における労務費について海外の建設会社、設計事務所、建設コンサルティング会社等から収集したデータに基づいて作成した。

採用データ(本コラムにおける労務費水準の考え方)
下記「収集データ」の「普通作業員」における労務単価の安値および高値の平均値を各国の労務費水準として採用した。(1ドル=112円で円換算、1日=8時間で日換算)

収集データ
下記「対象国」での「普通作業員」「技能労働者」「現場監督者」にあたる建設労働者の2016年時点における1日あたり、または1時間あたりの労務費単価について、相場レンジ(安値および高値)としてUSドルベースでデータを収集した。

対象国
【アジア】
中国(北京)、香港、インド(チェンナイ)、日本(東京)、韓国(ソウル)

【東南アジア】
インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、ミャンマー(ヤンゴン)、フィリピン(マニラ)、シンガポール、タイ(バンコク)、ベトナム(ホーチミン)

【中東】
オマーン(マスカット)、カタール(ドーハ)、トルコ(アンカラ)、アラブ首長国連邦(ドバイ)

【北・西ヨーロッパ】
フランス(パリ)、ドイツ(ベルリン)、アイルランド(ダブリン)、オランダ(アムステルダム)、スイス(チューリッヒ)、イギリス(ロンドン)

【東・南ヨーロッパ】
ポーランド(ワルシャワ)、ロシア(モスクワ)

【北米】
カナダ(トロント)、アメリカ(ニューヨーク)

【中南米】
ブラジル(サンパウロ)、チリ(サンティアゴ)、メキシコ(メキシコシティ)

【オセアニア】オーストラリア(シドニー)

【アフリカ】
ケニア(ナイロビ)、ルワンダ(キガリ)、南アフリカ(ヨハネスブルグ)、ウガンダ(カンパラ)

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著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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