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多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(4)

前回のコラムでは従来方式の改善を図る上で考案され実施されている発注契約方式として、「①総合評価方式」と「②性能発注方式」について紹介しました。今回は前回で紹介しきれなかった「二段階競争入札方式」や「入札VE方式」などについて紹介していきます。

多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(4)

③二段階競争入札方式


大型プロジェクトで良くみられるのが競争要素と随契要素を組み合わせた「二段階競争入札方式」であります。まず第1段階で、概略設計と基本数量により概算価格で競争入札を行い、1社に絞り、その業者と第2段階で協議しながら、実施設計を進めていく方式です。

よって、メリットとしては、競争入札の原理も残せ、かつまた業者の持っている工事技術力を詳細設計段階に生かすことができる点、また大規模、複雑工事等の詳細設計が確定することでの施工段階への貢献とともに、早期着工も可能となる点が挙げられます。この方式は大規模プロジェクトで設計図の完成に時間が要する場合、あるいは受注者の持つ工法等の技術力を設計にとり込みたい時などによく採用されている方式です。

④入札VE方式


入札VE方式は、建設業者から技術的な工夫の余地が大きいと考えられる工事の施工方法等に関する提案を募集し、民間の技術開発を積極的に活用することにより、建設工事コストの縮減を目的としています。この方式は、公共工事の品質の確保の促進に関する法律の施行前から活用されてきた方式であり、もっぱら品質確保よりもコスト縮減に重きを置いた方式です。

具体的な審査は技術資料に当該部分についての提案を記載させ、発注者がその内容について審査を行い、審査の際には必要に応じて提案業者へ詳細についてのヒアリングを実施します。なお、提案内容は標準案と比較して工事目的物の本来想定した機能・品質が損なわれないことが前提となっているため、それを満たさない提案については不採用となってしまいます。

そして、審査の結果、入札参加資格通知の時に併せて提案の採否を通知し、採用された業者はその提案内容に基づき積算し、不採用とされた業者は発注者提示の標準案に基づいて積算して、それぞれ入札に臨み、そのまま価格競争で入札が行われる場合と、提案内容に点数を付けて金額との総合評価を行う場合とに分かれます。

⑤CM方式(コンストラクション・マネジメント方式)


従来の発注方式は、ゼネコン(元請業者)が発注者より設計図書に基づいて約束した工事費・工期内で工事を一括して請負って完成するという方式です。これに対して、CM方式は、選定されたCMr(コンストラクション・マネージャー)が発注者の側に立ち、設計や工事調達方式の検討、工程管理、コスト管理など各種マネジメント業務を実施します。

この「CM方式」の基本は、“CMr(コンストラクション・マネージャー)が発注者の利益のために自らの専門知識・マネジメントノウハウを駆使してマネジメント業務を実施し、それに対してフィーを受け取る”という「委託契約」、つまり「実費精算(コスト・プラス・フィー)契約」が下敷きになっています。さらに、このCM方式には、大きくピュアCM方式とCMアットリスク方式とがあります。

1)ピュアCM(CM-Agency)
CMrは発注者に対して発注者の代理人、またはコンサルタントとして設計アドバイス、そして専門または工事業者の管理業務を行うことになります。したがって、発注者に対してフィーベースによるCM専門コンサルタント業務を提供する方式です。

2)CMアットリスク
一方、CMアットリスク方式におけるCMrは、工事請負業者として発注者に対してCM業務を提供し、かつまた工事費にも責任を持つこととなります。したがって、CMrは工事スタート前に、最大保証金額(GMP=ギャランティード・マキシマム・プライス)として建設工事費の上限を保証し、工期内に工事の完成を保証する責任をもつのです。

この方式におけるCM業者との契約金額の決定方法は、通常、入札もしくは協議で決定されますが、一般的には、建設工事契約前段階におけるCM業務の費用は実費精算契約(Cost Plus Fee Contract)、そして建設工事契約後におけるCM業務費用は、最終的に総価契約(Lump Sum Contract)とするケースがよくみられます。

このように、CMアットリスクでは、建設前段階の最終時点において発注者の要請に基づき、CM業者はプロジェクトのコストについて発注者に対し最高額を保証する点に特徴が挙げられます。つまり、発注者とCM業者との間で協議され合意された最大保証金額は発注者にとっては総価請負契約(Lump Sum Contract)に置き換えられることになります。

従って、最大金額が保証される一方で、最終的には通常の発注者と請負人との間の総価請負工事契約と基本的にほぼ同じ契約形態となるのです。但し、VE等により最大保証金額に対する実際の節約額があった場合は、一般的に発注者に還元され、時としてCM業者に節約額の25~30%の範囲内で還元する場合もあります。

⑥MC方式(マネジメントコントラクト方式)


このMC方式は、「コスト・プラス・フィー契約」をベースとしてMC業者(通常ゼネコン)が、建設工事をマネジメントするフィーを発注者から支払われる方式を指します。MCコントラクターは、専門工事業者の選定及び工事管理業務を行い、その役割は、工事がスタートする前に取り決めたフィーに基づいて、工事実施の段取り、調整、そして管理業務を行うことです。

この方式では、コントラクターは通常、設計段階では、設計者へのサポート業務を行い、また工事の実施にあたっては、現場事務所、仮囲い現場仮設水道、電気等の仮設工事を請負います。一般に「プロジェクトを早期着工させたい」あるいは「施工者を早期から設計に関与させたい」という状況のプロジェクトで採用されているケースが多くみられます。

以上のように、今回は「二段階競争入札方式」や「入札VE方式」などといった発注契約方式についての紹介を進めてきましたが、次回は「PM方式(プロジェクトマネジメント方式)」や「タームコントラクト(年間契約)」と呼ばれる方式について紹介したいと思います。

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「佐藤隆良の建設コラム特集|発注・調達編」はこちらから↓
(1)建築工事の発注・調達は賢い買い物にしよう!
(2)プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう!
(3)多様化する発注・調達の方式を学ぼう!
(4)多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!
(5)プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|コストマネジメント編」はこちらから↓
(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
(6)施工段階のコストマネジメントとは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|価格契約方式とリスク負担」はこちらから↓
プロジェクトのカギを握る価格契約方式とは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|海外建設市場編」はこちらから↓
(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?

著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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