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世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?-佐藤隆良の海外建設市場シリーズ(1)-建設費編

世界の建設市場動向を読み解くコラム「海外建設市場シリーズ」、今回は「建設費編」として世界62か国における建設費の水準について紹介していきたいと思います。

世界62か国で最も建設費が高いのは!?-世界の建設市場シリーズ(1)-建設費編

建設費が最も高いのはイギリス(ロンドン)、日本(東京)は6番目の水準!


①建設費が高い国と特徴
建設費が最も高い水準となったのはイギリス(ロンドン)で42.9(万円/㎡)でした。次いでアメリカ(ニューヨーク)、スイス(チューリッヒ)、香港、デンマーク(コペンハーゲン)がそれぞれ40.5(万円/㎡)、39.1(万円/㎡)、36.0(万円/㎡)、35.4(万円/㎡)と、建設費が高い上位5か国となりました。また、日本(東京)は34.5(万円/㎡)となり6番目に高い水準でした。これら建設費が高い国や地域の特徴としては、イギリス、アメリカ、日本をはじめとする先進国、地域としては北・西ヨーロッパ、オセアニアの国々が挙げられます。(下図1参照)


建設費水準(万円/㎡)|高水準20ヶ国


②建設費が低い国と特徴
一方、建設費が最も低い水準となった地域はインド(チェンナイ)で約6.3(万円/㎡)次いで南アフリカ(ヨハネスブルグ)、ブラジル(サンパウロ)が7.3(万円/㎡)、さらにマレーシア(クアラルンプール)、タイ(バンコク)が7.4(万円/㎡)と続いております。これら建設費が低水準である国や地域の特徴としては、開発途上国や新興国、地域では東南アジア、アフリカ、中南米の国が多く見られます。(下図2参照)


建設費水準(万円/㎡)|低水準20ヶ国


世界における建設費の乖離、最大で約7倍にも


建設費の水準が最も高いイギリス(ロンドン)-42.9(万円/㎡)と、最も低いインド(チェンナイ)-約6.3(万円/㎡)とでは、その水準に約7倍の違いがあります。また、建設費が高水準である上位10か国の平均は34.5(万円/㎡)で、低水準である下位10か国の平均7.7(万円/㎡)と比較して約4.5倍程度高い水準、全62か国の平均水準16.9(万円/㎡)と比較して約2倍高い水準となっています。(下図3参照)


建設費水準の比較(万円/㎡)


地域別では北米、北・西ヨーロッパ、オセアニアにおける建設費が高い水準に!


①地域別にみた建設費の水準
建設費を地域別に見てみると、最も高い水準は北米の29.1(万円/㎡)で、北・西ヨーロッパの28.7(万円/㎡)とオセアニアの25.4(万円/㎡)がこれに続き、日本を含むアジアは21.4(万円/㎡)の水準でした。一方、最も低い水準は中南米の9.5(万円/㎡)で、次いでアフリカの9.9(万円/㎡)、東南アジアの10.5(万円/㎡)となっています。(下図4参照)


建設費水準の比較(万円/㎡)|地域別平均


②アジア、東南アジア、中東における建設費
【アジア】
アジアでは香港の建設費が36.0(万円/㎡)と最も高い水準であり、日本(東京)は34.5(万円/㎡)で香港に次ぐ水準となります。一方、インド(チェンナイ)と中国(北京)がそれぞれ、6.3(万円/㎡)、9.7(万円/㎡)と香港や日本の建設費水準と比較すると極端に低い水準で、建設費水準の乖離が大きい地域となっています。

【東南アジア】
東南アジアではシンガポールにおける建設費が19.7(万円/㎡)と他国と比較すると1.6~2.7倍の高い水準にあります。一方シンガポールを除く国では7.4(万円/㎡)から12.8(万円/㎡)までの一定の水準に収まっていることが分かります。

【中東】
中東地域では、トルコ(イスタンブール)における建設費が9.8(万円/㎡)とカタール(ドーハ)やサウジアラビア(リヤド)と比べて約半分の低い水準にあるものの、トルコ以外の建設費は14.7(万円/㎡)から21.3(万円/㎡)と一定の水準となってるのが特徴です。
(下図5参照)


建設費水準(万円/㎡)|アジア、東南アジア、中東


③ヨーロッパにおける建設費
【北・西ヨーロッパ】
北・西ヨーロッパでは、ラトビア(リガ)における建設費が12.2(万円/㎡)と他の国と比較すると極端に低い水準ですが、それ以外の国では22.7(万円/㎡)以上の高い水準にあり、地域別で見た建設費は北米に次いで2番目に高い水準となっています。

【東・南ヨーロッパ】
東・南ヨーロッパではイタリア(ミラノ)の建設費が22.1(万円/㎡)と最も高い水準となりましたが、イタリア以外の国では17.0(万円/㎡)以下の水準と、同じヨーロッパであっても北・西ヨーロッパの水準を大きく下回ってることが分かります。
(下図6参照)


建設費水準(万円/㎡)|ヨーロッパ


④アメリカ、オセアニア、アフリカにおける建設費
【北米】
北米ではアメリカ(ニューヨーク)における建設費が40.5(万円/㎡)となり、カナダ(トロント)の17.6(万円/㎡)と比較して2.3倍ほど高い水準となっています。なお、高水準であるアメリカの影響を受け、地域別では北米における建設費が最も高い水準となりました。

【中南米】
中南米における建設費は、チリ(サンティアゴ)、メキシコ(メキシコシティ)、ブラジル(サンパウロ)の順に13.1(万円/㎡)、8.2(万円/㎡)、7.3(万円/㎡)となりましたが、いずれも低い水準で、地域別に見た場合の建設費は最も低い水準となっています。

【オセアニア】
オセアニアでは、オーストラリア(シドニー)とニュージーランド(オークランド)の建設費が25.0(万円/㎡)前後といずれも高水準にあり、地域別で見た建設費は北米、北・西ヨーロッパに次いで3番目に高い水準となります。

【アフリカ】
アフリカではガーナ(アクラ)の建設費が14.0(万円/㎡)で最も高い水準になった一方、南アフリカ(ヨハネスブルク)における建設費が7.3(万円/㎡)と最も低い水準でした。その他の国における建設費は約9.0(万円/㎡)前後と一定の低水準に収まっており、地域別に見た建設費では中南米に次いで2番目に低い水準にあります。
(下図7参照)


建設費水準(万円/㎡)|北米、中南米、オセアニア、アフリカ



データの概要
下記「対象国」における建設費について海外の建設会社、設計事務所、建設コンサルティング会社等から収集したデータに基づいて作成した。

採用データ(本コラムにおける建設費水準の考え方)
下記「収集データ」の各用途における安値および高値の平均値を用途別建設費水準とした。このうち集合住宅とオフィスで得られた用途別建設費水準について平均した値を各国の建設費水準として採用した。(1ドル=112円で円換算)

収集データ
下記「対象国」における標準的な建物グレードである集合住宅(中層から高層程度)、オフィス(中層から高層程度)、ホテル(ビジネスホテル程度)、工場(低層)の2016年時点における㎡あたり建設費について、相場レンジ(安値および高値)としてUSドルベースでデータを収集した。

対象国
【アジア】
中国(北京)、香港、インド(チェンナイ)、日本(東京)、韓国(ソウル)、マカオ

【東南アジア】
ブルネイ(バンダルスリブガワン)、インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、ミャンマー(ヤンゴン)、フィリピン(マニラ)、シンガポール、タイ(バンコク)、ベトナム(ホーチミン)

【中東】
オマーン(マスカット)、カタール(ドーハ)、サウジアラビア(リヤド)、トルコ(アンカラ)、アラブ首長国連邦(ドバイ)

【北・西ヨーロッパ】
ベルギー(ブリュッセル)、デンマーク(コペンハーゲン)、フランス(パリ)、ドイツ(ベルリン)、アイルランド(ダブリン)、ラトビア(リガ)、オランダ(アムステルダム)、ノルウェー(オスロ)、スウェーデン(ストックホルム)、スイス(チューリッヒ)、イギリス(ロンドン)

【東・南ヨーロッパ】
ボスニア(サラエヴォ)、ブルガリア(ソフィア)、クロアチア(ザグレブ)、チェコ(プラハ)、ギリシャ(アテネ)、ハンガリー(ブダペスト)、イタリア(ミラノ)、マケドニア(スコピエ)、ポーランド(ワルシャワ)、ポルトガル(リスボン)、ルーマニア(ブカレスト)、ロシア(モスクワ)、セルビア(ベオグラード)、スロバキア(ブラチスラヴァ)、スロベニア(リュブリャナ)、スペイン(マドリッド)、ウクライナ(キエフ)

【北米】
カナダ(トロント)、アメリカ(ニューヨーク)

【中南米】
ブラジル(サンパウロ)、チリ(サンティアゴ)、メキシコ(メキシコシティ)

【オセアニア】オーストラリア(シドニー)、ニュージーランド(オークランド)

【アフリカ】
アルジェリア(アルジェ)、ガーナ(アクラ)、ケニア(ナイロビ)、モロッコ(ラバト)、ルワンダ(キガリ)、南アフリカ(ヨハネスブルグ)、チュニジア(チュニス)、ウガンダ(カンパラ)

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著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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2016.7.19
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