多様化する発注方式を学ぼう!-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(3)
前回のコラムでは建築工事を発注する際に一般的に活用される発注契約方式について紹介しました。今回は最適な発注・調達を目的として、従来方式の改善を図る上で考案され実施されている発注契約方式について紹介します。
最適な発注契約方式とは!?
現在のように、プロジェクトの大型化、複雑化等が進み、また建設技術や工法が多様化し進歩してくると、「設計図書をまず完成させて、次の段階で価格だけで競争し、最低札に落札する」という従来の発注パターンだけでは発注者の要求条件を十分に満たすことが難しい場合もあります。
たとえば、「入札時に設計が確定していない」、あるいは「業者の技術力を設計段階で取り入れたい」、または「工事を早期に着工したい」等の条件がある場合、従来の発注契約方式のみの対応では難しく、発注者の求める成果を挙げるためには、価格、工期そして品質の中での優先度に応じて、トータルでみて満足のいく発注契約方式の選択が求められているのです。
発注者のバリュー・フォ・マネーの獲得
発注者にとって「最大のバリュー・フォ・マネー(工事支出金に対する最大価値)を得る」つまり、建設事業投資効果を得るためのポイントの1つは「各プロジェクトのニーズ、状況に合わせた最適な発注契約方式を選択すること」にあるとされています。つまり、プロジェクトの状況に応じて工事受注者の有する生産面での技術的貢献、経験、ノウハウを設計や入札段階で生かし、なおかつその各業者の技術力も競争の対象とすることで、より成果をあげようとする考え方です。
では、従来方式の改善を図る上で考案され実施されているいくつかの発注契約方式について、具体的に紹介していきます。
①総合評価方式
「総合評価落札方式」は、従来の価格のみによる自動的に最低札に落札する方式とは異なり、「価格」と「価格以外の要素」(例えば、初期性能の維持、施工時の安全性や環境への影響)を総合的に評価する落札方式であり、具体的には入札者が示す価格と技術提案の内容を総合的に評価し、落札者を決定する落札方式です。
つまり、発注者が評価する項目を選び、入札業者からそれに対して技術とノウハウを活かした技術提案を求め、その内容を価格とともに評価するのがこの総合評価方式の特徴となっています。
【総合評価方式と従来方式との違い】
従来では、標準的な工法を前提とし、価格のみの入札競争でしたが、総合評価方式は、価格のみならず新しい技術やノウハウという価格以外の要素も含めて総合的に評価する方式となります。
【技術・ノウハウの活用メリット】
この総合評方式の活用メリットとして、工事内容や周辺環境に応じた技術の評価により、従来では評価の対象外であった工事品質のアップや工期の短縮、ランニングコストを含むトータルライフサイクルコストの低減、自然環境や住環境の保護など、社会的要請への対応も実現可能となる点が挙げられます。
【評価の対象分野と項目】
総合評価方式の対象となる具体的な評価分野と項目について、以下のようにまとめられます。
1)価格以外の総合的なコストの削減
・維持管理費・更新費を含むライフサイクルコスト
・その他、補償費などのコスト
2)整備する施設の性能・機能の向上
・初期性能の持続性、強度、耐久性、安定性、美観、供用性など
3)社会的要請への対応
・環境の維持…騒音、振動、粉塵、悪臭、水質汚濁、地盤沈下、土壌汚染などへの配慮・対策、景観の維持
・交通の確保…規制車線数、規制時間、交通ネットワークの確保、災害復旧など
・省資源対策、リサイクル対策
・安全対策
【提案内容の評価方法】
民間企業などが作成・提出した技術提案書に対しては、まず、技術の実績や実施体制等が審査されるのが一般的です。そして、合格した提案の内容は得点として評価され、この得点と提案された価格を比較した「評価値」を用いることによって、最もコストパフォーマンスの優れた提案を、技術と価格の両面から客観的に判定し、採用することが可能となります。
性能発注方式
「性能発注方式」とは、品質・性能面の確保、あるいは工程及びコストの早期確実性を高める方策として、受注者側の有する技術や管理能力などを積極的に活用する調達方法です。
つまり、従来方式が、発注者の規定した工事仕様書に対する価格競争であるのに対して、性能発注の場合は、達成すべき要求水準や性能を規定し、これらを達成する手順や方法については受注者側に委ねる方式であります。
性能発注を導入する際の極めて重要な要素は、要求性能、目標とする定量的基準、成果に対する評価・計測方法(モニタリング)などについて、受発注者間での合意形成が確立されていることであり、これが契約のベースとなることです。具体的な発注契約方式の例としては、「設計施工一貫(デザインビルド)」、「プライム・コントラクティング方式」、「PFI方式」などを挙げることができます。
これらの性能発注調達方式は、調達時点に明確にされている情報は「要求する性能や機能」だけであり、設計図面情報は極めて少ない点が特徴として挙げられます。このような中で適切な予算を算出するためには、従来の「造る」という視点に立った積算方式では対応が難しく、性能や機能を「買う」立場に立った選択肢が必要となる為、要求する性能仕様水準とコストデータとを同一軸で把握するデータベースシステムの構築が重要になります。
1)プライム・コントラクティング方式
プライム・コントラクティング方式とは、単一の事業者(通常、ゼネコン、設計者、専門工事業者などでコンソーシアムを組むことが多い)が設計から施工までの業務の全責任を請負う契約方式で英国国防省が中心となって開発を進めた方式です。
このプライム・コントラクティング契約を結ぶ業者は、全てのプロジェクト参画チームメンバーが有効に機能するように、組織化し、管理する役割をもつことになります。特徴としては、大型工事などで、十分な工期確保が難しく、設計がラフな状態でも、早期の着工を必要とし、また業者の技術力も設計段階で生かしたいプロジェクトに適した調達方式です。契約方式は、「マネジメントコントラクト方式」とほぼ類似の実費精算方式の変形となります。
したがって、この方式の欠点としては、契約時に最終価格の確定性が低い点が挙げられる為、その対応として、契約時に目標コストを決めておいたり、最大価格保証契約を採り入れたりして、業者側のインセンティブが働くような工夫もなされています。
2)PFI方式
この方式は、公共施設の設計、建設、管理、運営について、民間のノウハウを活用することを前提に、建設から運営までを事業者に任せて、発注者の官側は年間払いで、経費を支払う契約方式であります。今や日本でも相当数の実績があり、比較的馴染みのある方式です。
PFI方式は従来の方式と比べて多くの相違点を有しており、例えば、事業の期間、リスクの負担、支払い報酬のあり方、また、その公共事業投資成果としてのVFM(バリューフォーマネー)などといった点が挙げられます。
このように、今回は発注契約方式の例として「総合評価方式」と「性能発注方式」について紹介しました。次回は、「二段階競争入札方式」や「入札VE方式」といった方式について紹介していきたいと思います。
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(1)建築工事の発注・調達は賢い買い物にしよう!
(2)プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう!
(3)多様化する発注・調達の方式を学ぼう!
(4)多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!
(5)プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!?
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(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
(6)施工段階のコストマネジメントとは!?
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