世界における建設市場規模はどの程度か!?-佐藤隆良の海外建設市場シリーズ(3)-市場規模編
世界の建設市場動向を読み解くコラム「海外建設市場シリーズ」、前回のコラムでは世界の建設市場における労務費の水準について紹介しましたが、今回は「市場規模編」として世界における建設市場規模の水準について紹介していきたいと思います。
世界全体における年間の建設市場規模は約453兆円
世界211か国における建設市場規模の合計は15年で約4.04(兆ドル)と、1ドル112円換算では約453(兆円)となります。下図1が示す世界全体の市場規模の推移を見てみると87年に1兆ドル、03年に2兆ドル、07年に3兆ドル、12年に4兆ドルの水準を上回り、03年からは約5年おきに1兆ドル程度拡大していることが分かります。
国別では中国が先進国を抑えて最大規模に、次いでアメリカ、日本は3番目の水準
①市場規模が大きい国と特徴
市場規模が最も大きい水準となったのは中国で7474億ドル、次いでアメリカ、日本、インド、イギリスがそれぞれ7321億ドル、2576億ドル、1585億ドル、1557億ドルと、市場規模水準が大きい上位5か国となりました。これら市場規模が大きい国や地域の特徴としては、イギリス、アメリカ、日本をはじめとする先進国に加えて中国、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコといった途上国や新興国、地域としてはアジア、北米、ヨーロッパ、中東、オセアニアなどの国が挙げられます。(下図2参照)
②上位国における世界市場の占有率は?
中国とアメリカにおける建設市場規模は他の上位国と比較しても圧倒的に大きな規模で、この2か国だけで世界全体における建設市場の約36%以上を占めています(中国が約18.5%、アメリカが約18.1%)。また、3番目に大きな規模である日本の建設市場は全体のうち約6.4%と上位2か国の3割程度の水準となります。また、下図3から図2に挙げた上位20か国における建設市場規模の合計は世界全体の約8割を占めていることが読み取れます。
③国別でみた建設市場規模の変動率は?
下図4は10年から15年まで間で市場規模の変動が大きな国について、プラス変動とマイナス変動それぞれにおいて上位15か国を示したグラフとなります(ドルベース)。同図より、この期間におけるサウジアラビアと中国の市場規模が80%を超え大きく成長する一方、スペイン、カタール、フィリピンの市場規模は35%以上も縮小していることが分かります。
また、同じ先進国であってもアメリカやイギリスがそれぞれ35.2%、24.8%とプラス成長であるのに対して、日本やフランス、イタリアでは16.7%、18.6%、27.7%のマイナス成長となっています。
建設市場規模が大きい上位5か国(中国、アメリカ、日本、インド、イギリス)のクローズアップ
①市場規模の推移
下図5より、これら5か国における市場規模の推移をみてみると、中国は00年から15年にかけて平均で前年比プラス18%の変動率で市場が拡大し、07年にイギリス、09年に日本、12年にアメリカを上回る市場規模へと急成長しています。また、アメリカにおける市場規模は7150億ドルであった07年から5,416億ドルとなった11年まで縮小するもその後順調に回復し15年では07年を上回る7474億ドルの市場規模となりました。
一方、日本とイギリスでは各々で市場規模がピークであった95年、07年と比較すると、15年時点では対ピーク時のおよそ59%(日本)、82%(イギリス)といずれも低い水準にあります。また、インドにおける市場規模は02年から11年までにかけて平均の変動率がプラス21%と急成長で拡大するも、その後15年時点まで概ね横ばいで推移していることが読み取れます。
②人口あたりの建設市場規模の比較
下図6はこれら5か国について、人口あたり建設市場規模を比較したグラフとなります。同図よりイギリス、アメリカ、日本といった先進国では概ね2000(ドル/人)から2400(ドル/人)の水準となっている一方、中国とインドではそれぞれ543(ドル/人)、121(ドル/人)とその水準は先進国と比較して極端に低いことが読み取れます。これは同時に、中国やインドにおける市場規模の将来的な成長余力を示しているとも考えられます。
地域別ではアジア、北米、北・西ヨーロッパの市場規模が高水準
①地域別にみた市場規模
市場規模を地域別に見てみると、最も高い水準はアジア約1兆3000億ドルで、北米の約8500億ドルと北・西ヨーロッパ6000億ドルがこれに続く一方、最も低い水準はアフリカの814億ドルで、次いでオセアニアの約1000億ドル、中東の約1500億ドルとなっています。(下図7参照)
②アジア、東南アジア、中東における建設市場規模
【アジア】
アジアでは中国の市場規模が7474億ドル、日本、インドがそれぞれ2576億ドル、1585億ドルと続いており、これらは世界の中でも市場規模が大きい4か国のうちの3か国となってます。一方、アゼルバイジャン、カザフスタン、香港がそれぞれ64億ドル、110億ドル、131億ドルと中国や日本の市場規模水準と比較すると極端に低い水準となっており各国の乖離が大きいエリアとなっていることが読み取れます。
【東南アジア】
東南アジアではインドネシアにおける市場規模が891億ドルと他国と比較すると4.6~8.5倍程度高い水準にあります。一方で、インドネシアを除くフィリピン、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムでは105億ドルから195億ドルまでの一定の水準に収まっていることが読み取れます。
【中東】
中東地域では、サウジアラビアにおける建設市場規模が439億ドルと最も高い水準であり、次いでアラブ首長国連邦、トルコがそれぞれ401億ドル、303億ドルである一方、カタール、イラク、イスラエルでは63億ドル、129億ドル、155億とサウジアラビアなどの水準と比較して半分以下の水準となっています。(下図8参照)
③ヨーロッパにおける建設市場規模
【北・西ヨーロッパ】
北・西ヨーロッパではイギリス、ドイツ、フランスにおける建設市場規模が1557億ドル、1384億ドル、1177億ドルと同地域における他の国と比較すると3倍以上の極端に高い水準となっています。また、地域別でみた市場規模ではアジア、北米に次いで3番目に高い水準であります。
【東・南ヨーロッパ】
東・南ヨーロッパではロシア、イタリア、スペインにおける市場規模がそれぞれ867億ドル、777億ドル、605億ドルとその他の国と比較して高い水準にあることが読み取れます。また、地域別でみた市場規模では2,941億ドルで中南米に次いで5番目の水準となっています。
(下図9参照)
④アメリカ、オセアニア、アフリカにおける建設市場規模
【北米】
北米ではアメリカにおける市場規模が7321億ドルとなり、カナダの1147億ドルと比較して6.4倍も高い水準となっています。なお、世界でも2番目に高水準であるアメリカの影響を受け、地域別では北米における建設市場規模がアジアに次いで2番目に高い水準となりました。
【中南米】
中南米における市場規模は、ブラジル、メキシコでそれぞれ847億ドル、827億ドルと最も高い水準に、以下アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビアと続きました。ブラジルとメキシコの水準は3番目に高い水準であるアルゼンチンの水準と比較しても2.8倍程度高い水準にあり、同地域においては突出していることが読み取れます。地域別では、アジア、北米、北・西ヨーロッパに次いで4番目に高い水準のエリアとなっています。
【オセアニア】
オセアニアでは、オーストラリアにおける市場規模が986億ドルで、同90億ドルであるニュージーランドと比較して約10.9倍の水準にあります。また、地域別で見た場合はアフリカに次いで2番目に低い市場規模水準となります。
【アフリカ】
アフリカではアルジェリア、ナイジェリアがそれぞれ184億ドル、180億ドルと高い水準となっていますが、同地域の各国における市場規模は62億ドルから184億ドルまで一定の低水準に収まっており、地域別に見た場合では2番目に低い水準であるオセアニアの8割程度と最も低い水準にあります。(下図10参照)
建設市場規模として採用したデータ概要
National Accounts Main Aggregates Database (United Nations)で公表されているデータ。各国における名目GDP(米ドル表示)のうちで建設に分類される値を採用した。
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(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
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