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工事発注段階のコストマネジメントとは!?

【佐藤隆良の建設コストマネジメント特集⑤】
建設コストマネジメント特集、前回のコラムでは、建設プロジェクトの実施設計段階におけるコストマネジメントについて具体的に紹介しました。今回はプロジェクトにおける工事の発注段階で必要となるコストマネジメントの実務について説明していきます。

工事発注段階のコストマネジメントとは

工事発注段階におけるコストマネジメントとは!?


この段階は、それまで進められてきた設計に基づいて、施工業者に工事を発注する段階です。つまり、建物を工事する業者を決めて、その会社と工事契約を締結する為、プロジェクトにおける実質的な工事費が決まる段階となります。もちろん、契約後に工事がスタートした後にも設計変更や追加工事が発生し、最終的な工事費は変動するのですが、ここで締結される工事費は、その最終工事金額のベースとなる為、非常に重要です。

工事発注段階でのコスト管理には、下記の内容が含まれます。

1)最適な発注方式と契約方式の検討
2)入札書類の作成
3)業者選定プロセスに係る調整業務
4)施工業者の評価と選定
5)契約条件・価格の交渉

1)最適な発注方式と契約方式の選定


ここでは、どのような発注や契約の方式がプロジェクトにとって最適な方式であるのかを検討します。この際に重要なのは、建設プロジェクトは個別性が強いので、対象プロジェクトの状況を十分に把握した中で最適な方法を模索することにあります。

具体的には下のイメージのように、大きくは「発注者の視点」「建設会社の視点」「建設市場の状況」といった3つの観点より発注するプロジェクトの目的や置かれている状況を客観的に捉えたうえで検討を進めます。


プロジェクトで最適な方式を模索する


例えば、発注者にとって出来るだけ早く建物を竣工させたいのであれば「設計・施工一貫方式」の採用を、また、発注者にとって安価に発注可能な専門工事が多くあれば、「コストオン方式」や「分離発注方式」の採用が検討されます。

一方で、建設会社の視点にも立ち、そのプロジェクトがどのように見えているのかを踏まえ、例えば、見積合わせの業者数を減らすことで、または、工期中の物価上昇リスクは発注者が負担する契約とすることで、施工者側の受注意欲を高めて競争環境を整える方法や契約内容を検討することも、コスト縮減の観点からは非常に重要となります。

近年では発注や契約の方法は多様化してる為、プロジェクトの目的や状況を踏まえたうえで、発注方式と契約方式のそれぞれについて検討し、それらを組み合わせて最適な発注・契約方式を選定することが重要なポイントとなります。


発生方式×契約方式


なお、上のイメージに示すように発注方式や契約方式は多様化していますが、これらの具体的な種類や内容については下記のコラムより参照できます。

【発注方式】
①競争入札や随意契約(特命随契や見積合わせ)について
②設計/施工分離発注方式、設計・施工一貫方式、コストオン方式など
③総合評価方式、性能発注方式について
④二段階競争入札方式、入札VE方式、CM方式(コンストラクション・マネジメント方式)など
⑤PM方式(プロジェクトマネジメント方式)など

【価格契約方式】
総価請負契約、単価請負契約、目標コスト契約など

2)入札書類の作成


発注の際に必要となる必要書類の作成することもコストマネジメントの役割となります。具体的には、施工業者が工事金額を見積もる際に関連する書類などで、例えば、見積条件を示した「見積要項書」「仕様書」「特記仕様書」「見積作成要項書」「見積内訳書式」「参考数量書」「質疑書」などを指します。

3)業者選定プロセスに係る調整業務


これは、入札などを実施する際に必要となる施工業者との調整業務を指します。具体的な調整業務としては、例えば、下記のような内容が挙げられ入札や見積合わせのプロセスに基づいて行われます。

① 見積を依頼する施工業者の洗い出し
② 見積参加の声掛けおよび招集
③ 見積参加業者への入札書類説明会の実施
④ 見積もり期間中の質疑応答
⑤ 施工業者より見積書の徴収
⑥ 見積書審査後のインタビュー/交渉など
⑦ 入札結果の通知

4)施工業者の評価と選定


見積参加業者より見積書が提出された後、これらの内容について精査・評価を行います。
具体的には、見積書で抜けてる項目や漏れている数量、金額が無いかなどを細かく確認します。また、技術提案を評価対象としている場合には、提出された技術提案書の内容についても確認がされます。

見積書や技術提案書の内容について精査した後、例えば、抜けや漏れだと考えられる内容、または、技術提案書で確認が必要な内容について施工業者へ確認をします。そして、見積書や技術提案書に修正がある場合には、施工業者で修正した後に再提出され、これらについて評価を行います。

そして、評価の対象となる項目に基づいて、見積参加業者を比較して、プロジェクトの目的に最適な施工業者を選定することになります。その為、プロジェクトによっては、下のイメージのように見積金額が他社より高い場合であっても、総合的な評価で選定されるケースもあります。


最適な施工業者の選定イメージ


5)契約条件・価格の交渉


見積参加業者の評価・選定のプロセスを経て、今度は実質的な契約を締結すべく選定された施工業者と契約条件・価格についての交渉が行われます。これは、選定された業者が1社で契約を前提とした交渉となる場合もあれば、複数の見積参加業者の中から2~3社に絞り込み、交渉の結果を踏まえて最終的に契約する業者を決める場合など様々です。

契約条件については、例えば、変更工事や追加工事の取り扱い(変更・追加工事の対象となる工事、変更・追加工事金額の取り決め等)、契約後の工事期間中における資材や労務の物価上昇コスト増加に対する負担についての取り決め、工事金額の支払い条件などについて交渉されます。

一方、契約工事金額の交渉については、提出された見積書の内容について交渉されます。具体的には、提出された見積書の数量や単価を精査して、数量の多い項目や単価の高すぎる項目について内容を確認した上で交渉します。最終的な見積書における単価は全体工事金額に影響を及ぼすだけでなく、契約の内容によっては変更工事金額を決定するベースとなる為、説得力や根拠のある見積精査(数量・単価)による価格交渉が極めて重要となります。

例えば、事前に専門工事業者や資機材メーカーなどから見積を取得した上での価格交渉であれば、十分な説得力があるだけでなく、場合によっては施工業者にその会社を紹介することまで可能となるからです。このように契約条件・価格の交渉を経て、工事契約書の内容が確定し、発注者と施工者間で契約が締結され施工段階へと進みます。なお、工事契約書における工事金額は、コストプランに発注時点の金額として入力され、施工段階に進んだ際に変更・追加工事をトラッキングする為のベースの金額となります。

以上のように、今回のコラムでは工事発注段階で必要となるコストマネジメントに紹介しました。次回は施工段階におけるコストマネジメントの実務について紹介します。

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(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
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著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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