なぜコンストラクションマネジメント会社の活用が必要なのか|CM業務シリーズ
【CM会社活用の必要性】
近年の建設プロジェクトでは、コスト、工期や品質に対する透明性や説明責任が強く問われるようになったことで、 CM業務やPM業務を専門で実施するマネジメント会社やコンサルティング会社が、設計者や施工者とは完全に独立した立場から発注者に代わってこれらのマネジメント業務を展開するプロジェクトが急速に増えています。
具体的に、これまでは第三者によるCMやPMといったマネジメント業務のニーズは建設プロジェクトの規模が50億円や100億円を超える大規模な工事がほとんどでした。しかしながら近年では、プロジェクトの規模が5億円や10億円に満たないプロジェクトであっても、これらマネジメント会社を活用するケースが急速に増えてきています。
これは、建設マネジメント会社の活用をプロジェクトの規模に関わらず、発注者の体制、プロジェクトの状況や目的に基づいて採否する時代へと突入していることを示し、この活用ニーズは今後も益々高まっていくと考えられます。
そこで今回は、なぜコンストラクションマネジメント会社の活用が必要なのかについて、CM会社の活用ニーズが増加している背景に着目して、下記の観点から紹介します。
- 1. 逆転した受発注者の関係性
- 2. 多様化する工事の発注方式
- 3. CM会社活用に対する意識の変化
- 4. 働き方改革による影響
1. 逆転した受発注者の関係性
まず、CM会社活用のニーズが高まった背景として、発注者と建設会社(受注者)の関係性が逆転したことがポイントとして挙げられます。
発注者と受注者の関係性におけるパワーバランスは商品やサービスへ対価を支払う発注者が優位な立場にあるのが一般的です。これまでは建設業でも、発注者は受注者である建設会社(ゼネコン)よりも優位な立場にありました。
しかしながら、2011年より東日本大震災に係る復興事業をはじめとして、市場では建設会社が対応可能な工事量を大きく上回る建設需要が生まれ、恒常的な人手不足の状況となりました。そして、この人手不足の状況をきっかけとして、両者の関係性は徐々に逆転し、2014年頃から建設会社が発注者よりも優位な立場へと入れ替わり現在に至ります。
この発注者と受注者のパワーバランスについて、発注者が受注者よりも優位な立場にある市場の状況を「買い手市場」、反対に受注者が優位な状況を「売り手市場」と呼びますが、バブル崩壊以降20年以上に渡り「買い手市場」であった建設市場は、この5年間で「売り手市場」へと変化したのです。そして「売り手市場」の状況は具体的に下記のような形で現在の建設市場に表れています。
【売り手市場の状況】
・建設会社による選別受注の実施
⇨利益率/採算性の高い案件を選別して受注
⇨結果、建設会社の利益率は過去最高水準へ
・建設会社が入札/見積合わせに積極的でない
⇨工事発注を前提の場合は積極対応
⇨競争案件の見積は辞退など
つまり、これまでは案件獲得へ向け建設会社の間で競争が働いていましたが、現在は、競争環境がなかなか形成されない為、工事費が高くなったり、工期が長くなったりしてしまう傾向にあるのです。
その為、例えば「見積金額が予算を大きくオーバーしていた」「提示された工期が想定していた工期と比べて大幅に長かった」「見積金額や工期の妥当性が判断できない、または社内的に説明できない」など、発注者として頭を抱える問題が発生するケースが急増しています。
2. 多様化する工事の発注方式
続いて、建設工事の発注方式が多様化した点も、CM会社を活用するニーズが増加したポイントとして挙げることができます。
具体的に、従来は、設計が完了した時点で施工者を選定する設計施工分離発注方式と、工事の総額を取り決めて契約する総価請負契約を組み合わせた方式が代表的な発注方式として広く採用されてきました。
しかしながら、近年では、例えば、事業期間の短縮や建設会社の技術力を設計に反映することを目的として設計と施工を併せて建設会社へ発注する設計施工一括発注方式やDB方式(デザインビルド方式)、コスト透明化を図る方法としてオープンブック方式、さらにはコンストラクションマネジメント会社をフル活用するCM方式など、プロジェクトの目的や状況に併せて様々な発注方式が採用されるようになりました。
その為、発注者にとっては「プロジェクトではどのような発注方式の選択肢があるのか」「どのように最適な方式を選定するのか」「各発注方式で具体的にどのようにプロジェクトを進めていくのか」などといった、従来は行われることのなかった発注方式の比較・検討が当たり前のように必要になってきたのです。
3. CM会社活用に対する意識の変化
また、CM会社を活用することに対する発注者の意識や理解がここ数年で大きく変化したことも、CM会社の活用ニーズが飛躍的に高まった理由として挙げられます。具体的に発注者の意識が変化したポイントについて、大きくは以下の4点が挙げられます。
① 業務と専門スキルの必要性に対する意識
② 求める成果に対する意識
③ 問題発生に対する意識
④ 業務費に対する意識
① 業務と専門スキルの必要性に対する意識
まず、「CMは建設プロジェクトをコスト、工期、品質などの観点からマネジメントして成功へ導くために必要な業務である」「CM業務の実施には専門的なスキルが求められる」といったようにCM業務と専門スキルの必要性に対する発注者の理解が深まった点が挙げられます。
これまで、建設プロジェクトは、例えば、発注者の社内で調達部、購買部、総務部といった部署の担当業務として実施されてきました。そして、前述したようにバブル崩壊後、20年以上にわたって「買い手市場」が続いていたため、たとえ専門的なスキルが無い場合であっても発注者が優位な立場でプロジェクトを進めることで機能していたのです。
ところが、この状況は建設会社が優位となる「売り手市場」へ転換することでこれまで通りに機能しなくなり「見積金額が予算に全く収まらない」「見積合わせに参加してもらえない」などといったプロジェクトにおける致命的な問題点として表面化することで、CM業務や専門スキルの必要性が発注者に理解されるようになってきたのです。
② 求める成果に対する意識
次に、発注者の視点から求める成果に対する意識が変わったことが挙げられます。具体的に、これまではCM業務費を投資として、リターンがどの程度あるのかを成果として捉えるケースがほとんどでありました。つまり、CM会社に業務を依頼することでどの程度コストを縮減できるかといったコストメリットの視点が採否を判断する際に重要なポイントだったのです。
その為、業務費を考慮するとコストメリットの出にくい比較的小規模なプロジェクトにおいては、CM会社の採用は検討されるも不採用となる場合が多く、結果としてCM会社の活用は大規模なプロジェクトに限定されていました。
しかしながら、前述したように発注者の意識の中でCMは建設プロジェクトで必要な業務であると理解が深まったことで、CM業務を実施するに不足している発注者の体制やスキルを補ってサポートする役割としての成果を求める形へと変化してきた為、また、コストメリット以外にCM会社を活用するメリットが多いことが認識されてきたことで、近年ではプロジェクトの規模に関わらず、CM会社を活用するニーズが急速に高まっているのです。
③ 問題発生に対する意識
このように、CMは必要な業務であると発注者が理解することで、建設プロジェクトで発生する問題に対する意識も変わってきました。具体的には、これまでは「取得した見積もりが予算をオーバーしたからCM会社へコスト縮減の方策を相談する」といったように、プロジェクトで問題が発生した際の方策としてCM会社を活用していました。
しかしながら、近年では「CMを実施するにあたり必要な体制やスキルが不足している場合には問題が発生する」といった意識へ変化してきている為、これまでのように何か問題が発生してからCM会社へ相談するという形から、発注者の体制として事前に不足している役割やスキルをCM会社で補ってからプロジェクトを進める形が増えてきています。
④ 業務費に対する意識
ここで、CM業務費へ対する意識の変化についても触れておきます。これまではCM会社の数そのものが少なかったことや、CM業務への認知度が低かったこともあり、発注者からみて業務を依頼した際に必要な業務費について不透明で分かりにくいことがありました。
しかしながら、近年では、CM業務のニーズが高まるにつれ、【コラム|コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か】で紹介したように、業務に必要なフィーの目安や相場に関する情報も多くなり、また、CM会社の数も大きく増えたことで複数のCM会社より業務提案書を得ることも可能となりました。
さらには、プロジェクトの目的や状況に応じて、発注者の体制で不足している役割やスキルをサポートしてもらうにあたり必要な業務のみ取捨選択した上で合理的に依頼することが可能であるなど、これまで分かりにくかったCM業務費に対する発注者の理解が深まったことも、CM会社の活用ニーズが高まった背景であると言えるでしょう。
4. 働き方改革による影響
最後に、今後ますますCM会社を活用するニーズが高まると考えるにあたり、働き方改革による影響についても触れておきます。まず、建設業における働き方改革による影響を要約すると下記の通りとなります。
【働き方改革による建設業への影響】
・労務賃金が上昇へ
⇨労務コストが増加
・現場は4週4閉所から4週8閉所へ
⇨工期が延びる
⇨仮設等の経費が増加
【コラム|働き方改革が建設業に与える影響(2)~工期や建設費への影響~】参照
これは、今後、建設コストが増加して、かつ工期も長くなる可能性が極めて高いことを示しています。また、建設業における働き方改革関連法案の規制適用は2024年4月からを予定されていますが、政府や建設業団体は既に本格的に改革に取り組み始めています。
具体的に、国交省は4週あたり閉所日数に基づいた労務単価、現場経費の割増を公共発注者へ呼びかけ、民間プロジェクトでも建設会社によっては4週あたりの閉所日数を6日以上として工期を設定するといったように、既に改革は勢いよくスタートしており、この動きは今後ますます加速していくと考えられます。
建設業では働き方改革による労務賃金の見直し等を通して、労働力の確保、ひいては人手不足の解消を目指しています。しかしながら、働き方改革は他の産業でも導入される為、賃金上昇による労働力確保の効果には限界があるのではないかと考えています。
一方、工期が長くなることで建設業全体として対応可能な工事量が減少する方向へ向かい、人手不足の状況がさらに加速して、結果として現在より強い「売り手市場」の状況を生み出すのではないかと懸念されます。
発注者としては既に「競争原理が働かない」「予算に全く収まらない」「工期が間に合わない」などといったクリティカルな問題に直面している中で、今後さらに追い打ちをかけるような状況が控えているのです。
その為、建設プロジェクトにおけるCM会社の活用ニーズは今後ますます高まり、さらに多くのプロジェクトで活用されるようになると考えています。
以上のように、今回は「CM業務シリーズ」として、なぜコンストラクションマネジメント会社の活用が必要なのかについて、CM会社の活用ニーズが増加している背景に着目して紹介しました。
「CM業務シリーズ」はこちらから↓
・建設マネジメント市場の展望
・国内の主要な建設マネジメント会社一覧
・なぜコンストラクションマネジメント会社の活用が必要なのか
・コンストラクションマネジメント会社を採用するメリット
・最適なコンストラクションマネジメント会社の選び方
・コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か
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