建築工事の発注調達は賢い買い物にしよう!-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(1)
我々が日常、買い物をするときは、誰からどのように買い物をしたら良いかを判断しています。例えば、洋服を買いたいときは、百貨店、スーパー、専門店など、さらに最近ではインターネットによるネット販売まで、さまざまなお店があり、その中から、既製服、あるいは個別に注文するオーダーメード服などの方法で、自分の予算・品質・そして納期等の条件に合うお店を選択しています。
建築工事を依頼する工事業者を選ぶときも同様で、買い物をする側の条件に最も良い方法で工事業者を選ぶ必要があります。本コラムでは、建築工事を発注する際、発注する相手の建設業者を決める発注の方法について紹介します。
建築工事を発注する一般的な方法とは?
発注の方法は大別して2つあり、1つは競争入札による発注であり、複数の業者に価格競争を行なわせて、その結果により発注者にとって最も有利な相手と思われる業者を選ぶ方法で「一般競争入札」と「指名競争入札」の2つの方法があります。
もう1つは、随意契約で、この方式は、はじめから特定の業者を信頼して決定してしまう特命随意契約方式と複数の会社に対して見積書の提示を求め、各社の見積もり金額と内容を検討し、状況によっては価格の折衝を行って1社を選定する見積もり合せの方法とがあります。(下図参照)
①競争入札
政府や地方自治体のような公共機関の行う工事では、法律の定めにより原則として随意契約方式による発注はできません。つまり公共工事の発注は競争入札によらなければならないと決められています。
競争入札は、一定の条件を示し、業者間で価格競争を行なわせ、原則として最低価格を提示した業者と契約する方法であって、手続上2つの種類に分けられます。すなわち、一定の条件を備えればだれでも参加できる一般競争入札と、あらかじめ参加できる業者を発注者が指名する指名競争入札となります。
a. 一般競争入札
一般競争入札は、工事の内容に応じて参加資格条件を定め、設計図書・見積条件とともに公示し、広く一般の受注希望者から見積りの提出を求める方法です。
b. 指名競争入札
入札参加者を注文側で一方的に限定し、相手側の実情がよくわかっていて、信頼できる範囲に止めておけば、公入札におけるような劣悪な業者に頼むというような弊害は生じない。この方法を指名競争入札と呼んでおり、公共工事に最も普通に採用される方式であり、民間工事でも頻繁に用いられています。
いわば随意契約と、一般競争入札とのそれぞれの長所を組み合わせたようなねらいをもっていますが、この指名競争方式にも欠点がないとはいえません。その第1は、指名される建設業者が偏る可能性があり、新規業者の参入が難しくなりがちです。何故ならば、すでに実績のあるものがさらに指名される機会が多くなるからです。また、第2の欠点としては、比較的少数の業者間の競争であるために、完全な競争原理が作用しないおそれがあることです。とくに談合と呼ばれる、一種の価格協定が、指名業者の間で行なわれる絶対にあってはならない不法な行為が生じる危険性があります。
②随意契約
個別に建設業者から見積りを徴する方法で、条件が合えばいつでも契約しようという考え方であり、このような方法を一般に随意契約と呼びます。つまり見積合わせは随意契約の一種、あるいは特命方式の変形であると考えられます。
a.特命随意契約方式(特命方式)
特命方式は、特定の工事業者の技術水準、工事消化能力、資産、陣容、信用状況、手持工事の繁閑の度合いなど、工事の品質や契約の履行に関係のある要因について十分調査し適当と判断したうえで見積を徴集し、予定した工事価格内であったならば注文するという方式です。発注者がその工事業者に対して過去に良好な実績を残しているとか、あるいは長期的な信頼関係を有している場合に多く採用される方法です。特命方式を採用する際の具体的なメリット・デメリットは下記のような点が挙げられます。
【メリット】
1)相互の信頼感が強く、円滑な工事運営が期待できる。
2)一般に工事業者に対する信頼度が高く、高い品質を期待できる。
3)無理な競争によるダンピング等の悪影響がない。
4)業者決定の手続きが簡単で、工事発注調達などの費用を節約できる。
【デメリット】
1)競争者がいないため、見積りが高くなりがちである。
公共工事で特命が認められないのは主としてこのことが理由になっています。しかしながら、公共工事においても、競争によることが明らかに不利と認められる場合(たとえば工事中の関連追加工事など)とか、緊急を要する場合には特命によることが許されております。
b.見積合わせ
特命の欠点であった競争原理の欠如を補う方式として、候補となる工事業者が複数ある場合には、各業者に対して見積りを徴集し、その金額の大小、見積内容などをみたうえで、最も適当と思われる業者を選ぶ見積合わせによる方法もあります。
前述の指名競争入札と同じような機能をもつものですが、その手続きについて一定の形式をもたない点が異なります。たとえば競争入札は、すべての入札者の面前で開札し、一定条件を備えていれば必ず最低額の入札者が落札するというルールによりますが、見積合わせの場合は、必ずしも同一の時点で見積りを徴するとは限らず、場合によっては見積条件が異なることすらあります。最終的には見積りの内容と、その建設業者の能力や信頼度とを総合的に評価して判断するものであって、必ず最低額の見積りを提出した業者に決めるというわけではありません。
入札予定価格と最低価格制限について
競争入札は、原則として最低の見積額を提示した業者に発注するという前提で行なわれます。また、開札は通常入札者全員の面前で行なわれ、落札者は自動的に決定される仕組みとなっています。しかしながら、最低の見積額であれば必ず落札するとは限らず、次の(1)の条件が必ずつくだけでなく、ときには(2)の条件をつけることもあります。
(1)入札額が入札予定価格以下であること。
(2)入札額が最低制限価格以上であること。
入札予定価格とは、簡単にいえば発注者の予算を指します。公共機関は予算を上回る契約はできない為(1)の制限がついてまわるのです。最低の見積額がなお予定価格を上回る場合は、通常、入札をやり直し、これを再入札と呼び、予定価格を下回る札(見積書)が出るまで数回これを行ないますが、それでも予定価格を下回るものがないときは、原則としてその入札は無効となってしまします。
このことを入札不落というが、この場合は新たに別の業者を指名して入札を行なうか、工事内容を変更して予算内に納まるようにしなければなりません。ただし、予定価格を超過する分がわずかな場合には不落とせず、単独に建設業者と折衝して個々に再入札させることがあります。そして予定価格を下回る金額で応諾する業者があった場合はこれと契約する。この段階はすなわち随意契約で、これを競争入札後の随意契約といい、公共工事でもこれを行なうことが認められております。
(2)は、特に建設不況期にダンピング等で不当に低い価格で落札した場合、工事経営に無理が生じ契約履行や工事の品質に悪影響が及ぶことを避けるため、予定価格に対し一定の比率を掛けた最低限界を定め、これ以下の価格の入札を無効とする方式で、この最低限界を最低制限価格と呼びます。
以上のように、今回のコラムでは建築工事を発注する一般的な方法について紹介しました。次回は一般に活用されている発注契約方式の類型について具体的に紹介します。
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(1)建築工事の発注・調達は賢い買い物にしよう!
(2)プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう!
(3)多様化する発注・調達の方式を学ぼう!
(4)多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!
(5)プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!?
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(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
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