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プロジェクトを成功に導く発注方式とは!?-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(5)

前回のコラムでは従来方式の改善を図る上で考案され実施されている発注契約方式として「③二段階競争入札方式」や「④入札VE方式」などといった発注契約方式について紹介しました。今回は「PM方式(プロジェクトマネジメント方式)」や「タームコントラクト(年間契約)」と呼ばれる方式について紹介していきます。

プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!?-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(5)

⑦PM方式(プロジェクトマネジメント方式)


PM方式とCM方式とはその表現も似通っており、混同されがちですが実際は異なります。近年、プロジェクトの大型化、複雑化してくる中で発注者のコスト面及び工事面の制約条件が課せられている状況において、従来方式の参画メンバーの関与では、その建設プロジェクトの目標を達成するのが難しい場合の解決方策として浮上してきたのがPM方式です。

つまり、PMr(プロジェクトマネージャー)は、発注者の代理人として、マネジメント業務を行い、計画が発注者の要求条件を満たし、かつ、予算及び工期内でコントラクターが完工する為にプロジェクトの全体管理を行うコンサルタントなのです。

したがって、PMrは実質的にコンサルタントやコントラクターを調整・管理する権限を有する専門家であり、建設チームの他のメンバー間の調整及び、プロジェクトの段取り、調整管理を行い、基本的にプロジェクトを予算通り、かつ工程通り達成するための発注者の代理人としての権限を持つものとされているのが特徴であります。

ただしPMという用語自体としてはマネジメントの手法を指し、発注・調達の選択肢の1つではないことがポイントです。しかしながら、発注者の視点で最適な発注調達方式の選択するサポートの役割はまさにPMのプロジェクト管理機能の一つとなっているといえるでしょう。

つまり、プロジェクトの内容や規模、そして条件に応じた手順や代替方式を選択、また管理していくPMの役割がより重要で、PMのコストマネジメント機能を例にとるとコストの算出結果の側面のみで判断するのではなく、時間とコストあるいは技術データとコストとを同一軸で検討し、総合的な判断や意思決定をするマネジメント技術が求められます。

⑧タームコントラクト(年間契約)


英国では集合住宅や学校施設などの小規模修繕・メンテナンス工事・改修工事などで、ある一定地域内に年度内で継続的なプロジェクトが複数ある場合は、同一業者にまとめて連続発注契約する方式が採られますが、これは「タームコントラクト(年間契約)」と呼ばれ、英国での公共事業の調達においては頻繁に採用されている方式です。

この方式は、最初の入札単価をそのまま継続プロジェクトに適用し発注する方式であり、受注者にとってはプロジェクトのロットをまとめて継続実施可能となることで、習熟効果も含めて業務実施の生産性が上がること、またフィードバックによる業務品質の改善が図れること、あるいは仮設や営業経費面でのメリットを生かせるなどの利点が挙げられます。一方、発注者にとっても調達の手間や時間など経費の削減にも繋がり、また、結果的に入札コストの節減にも役立つ方式です。

この方式の具体的な入札手続きは、入札時に発注者により工事単価表(Schedule of Rates)が作成され入札者に提示され、入札者は工事単価表の各単価に上昇・下落のパーセンテージ比率を入れて入札を行います。発注者は、入札された単価表に工事の暫定概算数量を掛けて総工事額を算出し、落札者を選定、そして、結果的にこの値入れされた単価表が契約書の一部となる単価請負契約です。また、最終的に工事が完了した時点で工事数量を計測し、最終金額が決されますが、この単価表の工事項目は、各改修・修繕工事項目をリスト化したものであり、解体工事を含め、相当細かく工事内容を記述したものとなっているのです。

タームコントラクト方式の特徴は、(1)「年度内で定められたいくつかの複数工事を単価契約で継続発注できる」 、(2)「事前に工事単価を契約することで、総額が決まる前に工事をスタートさせることができる」の2点にあるといるでしょう。

受注者にとってみれば複数の改修・修繕工事を一括で受注でき、年度期間内でこれらの複数の工事を順次こなすことにより、営業経費、仮設費用、現場経費等の節減が図られ、また、工程計画も立て易い。一方、発注者にとっても単一工事での入札よりも競争的な価格を得やすいし、発注・契約手続きの手間と時間の簡素化にもつながる。このように、通常、生産効率の低い改修・修繕工事について、お互いのメリットを見出そうと工夫して生まれた方式です。

したがって、発注者側にとっても、また業者側にとっても1回きりの工事と違って仮設や営業経費などトータルで見て価格的にもメリットが出し易いことで、英国における複数棟の集合住宅改修工事では、同一地域における同一業者へこの「タームコントラクト」発注により一括発注するケースが頻繁に見られます。ストックを抱えているわが国の自治体にとっても、今後の改修工事の入札・契約の方式として参考となる発注契約方式であると考えられるでしょう。

これまで、全5回のコラムを通して建築工事の発注・調達方式についていろいろな方法を紹介してきました。それぞれの方式におけるメリットやデメリットをよく理解したうえで、抱えているプロジェクトの目的や状況に応じた最適な発注方式を採用することがプロジェクトを成功に導く重要なポイントとなります。

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「佐藤隆良の建設コラム特集|発注・調達編」はこちらから↓
(1)建築工事の発注・調達は賢い買い物にしよう!
(2)プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう!
(3)多様化する発注・調達の方式を学ぼう!
(4)多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう!
(5)プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|コストマネジメント編」はこちらから↓
(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
(6)施工段階のコストマネジメントとは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|価格契約方式とリスク負担」はこちらから↓
プロジェクトのカギを握る価格契約方式とは!?

「佐藤隆良の建設コラム特集|海外建設市場編」はこちらから↓
(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?

著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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