プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう!-佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編(2)
前回のコラムでは建築工事を発注する一般的な方法について紹介しました。今回は建築工事の発注・調達で活用される発注契約方式の類型について一般的な方式を紹介していきたいと思います。
一般的な発注契約方式とは
一般に発注する設計や施工の範囲と契約方式との組合せは、基本的には大きく次の3つのパターンに分類されます。
①設計施工分離によるゼネコンへの一括総価方式
②専門工事業者への分離発注方式
③設計施工一貫方式によるゼネコンへの一括総価方式
①設計施工分離によるゼネコンへの一括総価方式
最も単純な方式として、工事を発注する範囲として一切の建設工事を単一の建設業者に請負わせる一括発注方式です。責任が明確であり、手続きも簡単ですから、一般にこの方式が多く採用されています。
②専門工事業者への分離発注方式
これに対して一つの工事をいくつかの部分工事に分割して、それぞれについて別々に建設業者と請負契約を結ぶ方式もあり、これを分離発注と呼びます。どちらが適当かは、その工事の性格、相手の建設業者の特性、その他関連する各種の条件を総合して判断しなければなりません。
たとえば、建築主が一部の専門工事業者や資材メーカーに対して、特別に有利な条件で直接注文ができるといった場合などは、その部分だけを別途に分離して注文したほうが、工事費を安くあげることができるため、設備工事やサッシュ・カーテンフォール、鉄骨製作などでしばしば行なわれています。
ただし、建築工事は各種の工程が複雑にからみ合っているので、分離発注した場合、発注者側で複数の発注業者の統括管理やそれぞれの調整が必要になってきます。また全体の工期工程をはじめ、品質、安全、そして工事費等の管理の必要性も生じてくる為、発注者の役割を支援、代行する専門技術者としてCMr(コンストラクションマネジャー)を活用するケースも出てきています。
③設計施工一貫方式によるゼネコンへの一括総価方式
この方式の特長は、設計及び施工の両方を単一請負業者に発注することにより責任の一元化が図られ、発注者側のリスクが最小限となる点にあります。また、この方式は、1)設計・施工責任の一元化 2)事業期間の短縮 3)プロジェクト早期段階での建設コストの確定性などのメリットを有するとされていますが、一方で設計施工一貫方式の実施上の課題点もあります。
たとえば、設計施工一貫方式の場合、入札をする前提条件となる発注者側のプロジェクトの目的・内容の定義の明確化が不可欠となります。ところが、その入札図書において、発注者の要求性能条件やその業務プロセスが必ずしも明確に定義されておらず、入札招請書や発注仕様書が十分に整備されていないケースは本来の競争性が機能しない点が挙げられます。この他にも、設計施工一貫方式は、従来の設計施工分離方式に比べて、業者側の入札経費がかかる点、あるいは入札選定過程に従来よりも時間がかかる点などが挙げられます。
また、業者選定の方法は、一般に設計与条件と性能仕様書をベースに提案入札(設計提案と価格提示)により競争して業者を選出する方法と、発注者側の設計者が基本設計を行い、必要建築許認可を取得し、その基本設計図面情報により競争し、受注した業者は実施設計及び工事を完成させる方法との2つがあります。
コストオン方式
工事発注方式におけるコストオン方式とは、分離発注と一括発注を折衷した方式であり、発注者が専門工事業者を個別に選定した上で、その専門工事業者(設備業者など)の工事費に現場管理のための経費を上乗せして建築元請会社に工事発注する方式を呼びます。
契約上、専門工事業者は建築元請け会社の下請業者として工事に参画することになりますが、通常の下請けと異なるのは、通常(一般的に言う)下請けでは、建築元請会社と専門工事業者との間で工事費(設備工事の工事費)を決めるのに対し、コストオン方式では発注者と専門工事業者との間で工事費を決めるところにあります。コストオン方式で工事費にオンされる管理経費は、「統括管理費用」などと称して工事の全体調整や専門工事業者の資機材搬入に使うクレーン等の楊重機などの使用料等に充当する費用です。
ジョイントベンチャー
工事の規模が大きく、内容が技術的に高度なものになると、単一の業者が請負うには能力的に不安が生ずる場合が生じてくる場合があります。中小業者が大型工事を請負う場合も同じです。そこで複数の業者が共同して一つの工事を請負う方式がジョイントベンチャー(Joint Venture、略称JV)、日本語で共同企業体方式と呼ばれています。戦前のアメリカで始まった方法ですが、戦後わが国にも普及し、最近では大規模な工事は大半JVによって施工されるといってもよいほどに多く用いられています。
その利点をまとめると次のような点を挙げることができます。
1)信用力、資金力が増大する。
2)請負に伴う危険負担を分散できる。
3)構成メンバーの技術力を結集できる。
4)機械設備を融通し、稼働率を上げることができる。
ただし、わが国の現状では、必ずしも能力的にJVの必要がないと考えられる場合にも、この方式が採用されていることが多いのですが、その理由として次のような点が挙げられます。すなわち、
1)大手建設会社同士で、相互にJVを組むことにより受注の機会を増し、競争を緩和しようとする。
2)技術的に先行している業者と、その指導を受けて技術を習得しようとする業者とが、技術指導と労務提供の補完関係を組む。
3)実質的には一方が下請的に協同する。
等々で、本来のジョイントベンチャーの主旨とはかなり異なったものとなっているといわざるを得ません。なお、JVによって請負う場合は、構成メンバーが事前に共同企業体協定書を結び、代表者(スポンサー)を定めるとともに、各メンバーの責任権限を明確にするのが一般的です。
以上のように、一般に活用されている発注契約方式であっても、その方式によって長短が異なる為、対象とするプロジェクトの目的や状況に応じた方法を検討することが重要となります。
次回は最適な発注・調達を目的として、従来方式の改善を図る上で考案され実施されている発注契約方式について紹介します。
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