建設マネジメント市場の展望|CM業務シリーズ
【建設マネジメント市場の展望】
近年の建設プロジェクトでは、コスト、工期や品質に対する透明性や説明責任が強く問われるようになったことで、 CM業務やPM業務を専門で実施するマネジメント会社やコンサルティング会社が、設計者や施工者とは完全に独立した立場から発注者に代わってこれらのマネジメント業務を展開するプロジェクトが急速に増えています。
そこで今回は、建設プロジェクトにおけるマネジメント会社やコンサルティング会社による建設マネジメント市場の展望について、下記の観点より紹介します。
- 1. 建設マネジメント需要
- 2. 建設マネジメント会社の提供サービス
- 3. 建設マネジメントに係る教育環境
- 4. 建設マネジメント会社の入職環境
1. 建設マネジメント需要
まず、建設マネジメント会社をプロジェクトで求める需要は、下図に示す通り今後飛躍的に大きくなる可能性が高いと考えられます。
このように将来的に建設マネジメント需要が拡大すると考える理由として主に以下の3点が挙げられますが、これらについて解説していきます。
① 独立した立場からのプロジェクト管理がより重要な時代へ
② 建設プロジェクトの国際化がさらに加速
③ 増加する建設マネジメント会社やPM/CM部門・サービス
① 独立した立場からのプロジェクト管理がより重要な時代へ
まず、プロジェクトにおけるマネジメントがより求められる時代へ突入すると考えられる背景は大きく2つあります。建設市場における労働力が長期的に見た場合は継続的に減少する可能性が高いこと、そして「働き方改革」による影響です。
つまり、労働力が継続的に減少して慢性的な人手不足の状況となるだけでなく、そこへ「働き方改革」による影響が加わり、結果として「工期が延長する」「工期延長に伴い現場管理コストなどが増加する」「労務賃金が上昇することで労務コストが増加する」など、建設プロジェクトを取り巻く環境が大きく変わると考えられます。
その為、発注者や設計者・施工者とは独立した立場から「工程」「品質」「コスト」に係る管理や精査、さらには投資家や発注者に対する妥当性の説明がより強く求められる時代となることで、建設マネジメントの需要が大きく成長する可能性が高いのです。
なお、建設マネジメント会社の必要性や活用ニーズが年々増加している背景については【コラム|なぜコンストラクションマネジメント会社の活用が必要なのか】の中で、より具体的に紹介しています。
② プロジェクトの国際化がさらに加速
次に、プロジェクトの国際化がさらに加速することで建設マネジメント需要が拡大すると考える理由について解説します。
まず、下図は経産省から得られる「日系企業による国外への設備投資額」と「外資系企業による国内への設備投資額」に基づいた合計額、つまり日本のクロスボーダー設備投資額の推移を示しており、この指標は「日本の国際化水準」を測る指標の一つであると言えます。
同図より2015年度におけるクロスボーダー設備投資額は過去20年で最高となる10兆円を超え、その後も9兆円を超えた高い水準にあることが読み取れます。
一般にクロスボーダー設備投資額は国内外の景気動向に大きな影響を受けて大きく変動しますが、20年前まで5兆円前後で推移していた規模が直近では9兆円前後で推移しており、長期的に見て国際化が進んでいることが分かります。
今後、国内の人口が減少し、長期的な国内建設需要は縮小傾向で推移していくと考えられる点、一方、海外人口は増加し、景気動向に左右される側面はあるもののクロスボーダー設備投資額は高い水準を維持すると考えられる点、これら2点を踏まえると、全体の中におけるクロスボーダープロジェクトの比率は年々高まり、建設プロジェクトの国際化はさらに加速すると考えられるでしょう。
そして、外資系プロジェクトや海外プロジェクトでは独立した立場にあるマネジメント会社やコンサルティング会社の参画によるプロジェクト管理が一般的であることからも、建設マネジメント需要が増加していくものと考えられます。
③ 増加する建設マネジメント会社やPM/CM部門・サービス
3点目としては、建設マネジメント会社、そして設計事務所等においてPM部門(プロジェクトマネジメント部門)やCM部門(コンストラクションマネジメント部門)が増加している現状を挙げられます。
具体的に、25年以上前は発注者や設計者、施工者から独立した立場で建設マネジメントを専門で提供する会社はほとんどありませんでした。
それが、現在では建設マネジメントを専門業務として実施するマネジメント会社やPM/CM業務を展開する設計事務所などが急速に増加しており、需要の増加に伴ってサービスを供給する会社が着実に増えていることで、より市場が活性化されると考えるからです。
なお、国内の主要な独立系/外資系マネジメント会社、PM/CM業務を展開する設計事務所については【コラム|国内の主要な建設マネジメント会社一覧】の中で紹介しています。
2. 建設マネジメント会社の提供サービス
続いて、建設マネジメント会社が提供するサービスの展望について紹介していきます。
これまで、建設マネジメント会社はプロジェクトで提供するサービスについて、発注者のニーズに合わせて幅広い業務を実施してきました。
例えば、対象となるプロジェクトの用途や規模、マネジメント業務の内容について、たとえ類似したプロジェクトや業務の実績が無い場合でも出来るだけ広く構えて柔軟に対応してきました。
しかしながら、将来的には建設マネジメント会社が提供するサービスの在り方、そしてサービスの選ばれ方は以下のような方向に変わっていくと考えられます。
① 各社の専門分野に特化・細分化の動きが加速
② 発注者のサービス選定が会社からコンサルタントへ
① 各社の専門分野に特化・細分化の動きが加速
これは、建設マネジメント会社が提供するサービスの在り方が、これまでのように幅広く柔軟性を持った対応から、各社の得意な専門分野に特化・細分化された形で提供されることを表しています。
具体的には、建物用途を特定の用途に特化して建設マネジメントサービスを提供する会社や、建設マネジメント業務の中でも細分化された特定の業務に集中してサービスを提供する会社といった形です。
既に、病院のマネジメントに特化している会社、建設マネジメント業務の中でもコストマネジメントに特化している会社といったように、自らの最も得意とする専門分野を提供サービスの主軸としてブランド化している建設マネジメント会社も出てきています。
今後、ますます建設マネジメント需要が大きくなることで、建設マネジメント会社各社の提供するサービスの在り方は、より特化・細分化の動きへと加速していくものと考えられます。
② 発注者のサービス選定が会社からコンサルタントへ
一方、発注者の視点で考えた場合、サービス選定の判断は建設マネジメント会社から、建設マネジメント会社の抱えるコンサルタントへと移行していくと考えられます。
これは、具体的に「ホテル建設プロジェクトで建設マネジメント会社によるプロジェクトマネジメント(PM)を検討している発注者」を例に取って解説すると、以下のようになります。
【発注者によるサービス選定の展望】
1)これまでのサービス選定
⇨ ホテルのPM業務実績がある○○○社か●●●社へお願いしよう
2)これからのサービス選定
⇨ ホテルのPM業務専門に特化した□□社か■■社へお願いしよう
3)さらなる将来のサービス選定
⇨ ホテルのPM業務経験が豊富な△さんのいる ▲社か▽さんのいる▼社へお願いしよう
このような形で発注者によるサービス選定に対する考え方が変わっていくと思われる背景には大きく次の2点が挙げられます。
1点目は、発注者のサービス選定における根本は、実質的なプロジェクトの担当者は類似実績や類似業務経験の豊富なコンサルタントにお願いしたい、といった発注者として当然の考え方によるものです。
つまり、発注者がプロジェクトで建設マネジメント会社を選定する際は、マネジメント会社の代表者やプロジェクトの責任者でなく、実際にプロジェクトで業務を担当するコンサルタントの実績や能力、スキル等に基づいて個別のプロジェクトに最適な会社を選定する方向にあり、この流れは今後さらに加速していくものと思われます。
なお、発注者の観点から建設プロジェクトで最適な建設マネジメント会社を選定する方法については【コラム|最適なコンストラクションマネジメント会社の選び方】の中で、より具体的に紹介しています。
2点目は、建設マネジメント需要が大きくなりマネジメント会社が増加していくに伴い、自社のブランド化と他社との差別化を図る上で、各社が詳細なサービス内容を説明するに加え、抱えるコンサルタントのプロモーションを加速させるからです。
この点については、既に自社サイトにおいて、かなり詳細なサービスについて説明をすることで他社サービスとの差別化を図っている会社や、自社の抱えるコンサルタントをサイト上で全面的にプロモーションすることで自社のブランドを確立しようとしている会社もあり、発注者がより多くの情報や選択肢の中からサービスを選定することができる方向に進んでいます。
このように、今後は益々発注者のサービス選定における考え方の根本に近づいていく可能性が高く、建設マネジメントに係るサービスの選定はこれまでのように会社を選ぶ考え方から、会社の抱えるコンサルタントを選ぶ時代へと移っていくものと考えられるのです。
3. 建設マネジメントに係る教育環境
ここで、建設マネジメントに係る教育環境の展望について紹介します。
一般に教育は学生に対するものと社会人に対するものとに分けられますが、ここでは学生の中でも大学における教育環境の展望について紹介します。
① 大学教育プログラムの現状と展望
まず、現在国内の大学でプロジェクトマネジメント(PM)やコンストラクションマネジメント(CM)といった建設マネジメントに係る教育プログラムを実施している大学は、ほとんどないのが現状です。
しかしながら、将来的には建設マネジメントに係るプログラムが大学教育プログラムとして導入される日は近いと考えます。その理由としては大きく3つ挙げられます。
まず、既に建設プロジェクトにおけるマネジメントの重要性や認知度が向上している状況にあるだけでなく、今後も飛躍的に延びる可能性が高いことです。
次に、学生の立場から考えた場合、建設マネジメントのプログラムが加わることで、より幅広い視点を持った将来設計に繋がる点も挙げられます。
例えば、建築学科の学生を例に取ると、これまで大半の学生が設計事務所、建設会社、開発事業者(ディベロッパー)といった限られた選択肢の中でキャリアパスを描いていましたが、現在中心となっている計画・設計、施工などの教育分野に加え、建設マネジメントのプログラムが加わることで、今後は建設マネジメント会社や建設コンサルティング会社といった新たな選択肢が加わることとなります。
実際に、建設マネジメント会社による採用基準の幅は徐々に広がりを見せていて、これまでは3年以上の実務経験者のみを採用対象としていた基準から、新卒の採用を取り入れる動きが出てきています。
そして3つ目は、既に海外では、建設マネジメントに係る教育プログラムが多くの大学で導入されており、国外に教育プログラムのモデルが幾つもある点が挙げられます。つまり、国際的な観点から見てみると、建設マネジメント教育は大学の教育プログラムとして既に受け入れられており、今後、国内建設プロジェクトの国際化が進む中で、より求められていくものと考えられます。
② まずはコストマネジメントの教育プログラム導入へ
また、建設マネジメントの中でも、特にコストマネジメントに係る大学教育プログラムの導入が期待されます。
例えば、PMやCMは【コラム|CM(コンストラクションマネジメント)とは】の中で紹介しているように業務内容が多岐に渡るだけでなく、調整業務、工程や品質といったように実務ベースの要素が強い建設マネジメントとなります。
一方、コストマネジメントは【コラム|コストマネジメントとは】の中で紹介していますが、建築費を算出する方法や発注や契約の方式といったように学問的な側面を多く抱えているからです。
さらに、国外でもコストマネジメントの大学教育は特に進んでおり、例えば、イギリスでは数に示す30の大学で47のコースが学ばれているといったように、教育プログラムモデルも豊富に存在します。
4. 建設マネジメント会社の入職環境
さらに建設マネジメント会社への入職環境の展望について紹介します。
① これまでは実務経験3年以上が必須条件
これまで建設マネジメント会社の採用は、設計事務所や建設会社など建設に係る会社での実務経験が3年以上であることが必須とされてきました。
これは、建設マネジメント会社が新卒採用や育成に対して、以下のような不安や悩みを抱えていた点が挙げられます。
【新卒採用・育成へ対する不安】
・新卒採用のコスト、育成するコストが莫大に必要
・新卒採用しても育成プログラムがきちんと整備されていない
・コストをかけて育成してもせっかく育てた人材が転職したら
その為、設計事務所や建設会社で育成された若手の採用、十分にキャリアを積んだコンサルタントの採用が主流でした。
② 今後は新卒を採用して育成する時代へ
しかしながら、これからは新卒の学生を採用して各社でコンサルタントへと育成していく時代になると考えます。
そのように考えられる理由として、まず、マネジメントやコンサルティングを実施する上で、必ずしも建設関係のバックグラウンドが必須ではないことが挙げられます。
これは、例えば、文系出身で建設と関係の無いバックグラウンドの持ち主であっても、優秀なプロジェクトマネージャーやコンストラクションマネージャーが数多く存在することからも明らかです。
もちろん、マネジメントを実施するにあたり建設に係る知識/経験等が求められるシーンも数多くあります。
しかしながら、PMやCMで求められるマネジメント能力/スキルの本質は、建設に係る技術的な知識や経験、資格とは必ずしもイコールではなく、プロジェクトの現状を整理して課題を洗い出したり、それを関係者に分かり易く説明したり、関係者の調整を行い取り纏めたり、といったコンサルタントとしての能力/スキルの方が遥かに重要となります。
そして、こうしたマネジメント能力/スキルを養うのに最も適している環境は、設計事務所や建設会社ではなく、建設プロジェクトのマネジメントを専門で実施しているマネジメント会社やコンサルティング会社であるのです。
さらに、近年では新卒採用を実施するマネジメント会社が出てきていることもあり、今後はこの新卒を採用して育成する動きが徐々に加速していくでしょう。
建設マネジメント会社の観点では、例えば、新卒育成プログラムの整備、より働きやすい職場環境や労働条件の整備が今後ますます重要となってくると同時に、育成した人材は将来的に会社の顔となるので、各社がより良い環境や仕組みづくりに投資する価値は十分あると考えられます。
以上のように、今回は「CM業務シリーズ」として、建設プロジェクトにおけるマネジメント会社やコンサルティング会社による建設マネジメント市場の展望について紹介しました。
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・コンストラクションマネジメント会社を採用するメリット
・最適なコンストラクションマネジメント会社の選び方
・コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か
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