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実施設計段階のコストマネジメントとは!?

【佐藤隆良の建設コストマネジメント特集④】
建設コストマネジメント特集、前回のコラムでは、建設プロジェクトの基本設計段階におけるコストマネジメントについて具体的に紹介しました。今回はプロジェクトにおける実施設計段階で必要となるコストマネジメントの実務について説明していきます。

実施設計段階のコストマネジメントとは

実施設計段階のコストマネジメントとは!?


実施設計は、基本設計の内容を基に実際の工事を行うための実施詳細図の作成を進める段階で、その成果を実施設計図書としてまとめます。この実施設計図書は、①施工者が設計内容を的確に読み取り、設計意図と合致した建物を施工可能な内容であること、また工事費を正確に算出する積算が可能な内容であること、③工期の算定や施工図の作成に役立つ内容であること、以上の3点がベースとなっている為、かなり詳細な内容となっています。

実施設計段階でのコストマネジメントには、下記の内容が含まれます。

1)積算による工事費の算出
2)コストプランによる現状コストの確認
3)設計VEの実施|実施設計段階

1)積算による工事費の算出


この段階における設計情報は豊富で、発注者サイドは入札や見積合わせの前に最終的な予算を確認するため、詳細に積算する手法で工事費を算出します。この積算により算出される工事費は、図面や仕様書に基づいて工事費内訳明細書と呼ばれる詳細な内訳項目に対応した数量と単価によって金額が積み上げられている為、かなり高い精度で工事費を確認することが可能となります。


建築費の精度と設計の情報量


この際、カーテンウォール、鉄骨、設備工事など、全体コストに占める割合の大きい専門工事については、専門工事業者や資材メーカーより直接見積もりを徴収し、より実勢価格を反映させた工事費として確認することが積算工事費の精度を高める上で重要となります。

また、積算により作成される工事費内訳書は、入札や見積合わせの際に単価と工事金額を抜いた形で参考数量書として施工者に提示される場合があります。

参考数量書を提示する発注者サイドの利点としては、施工者が参考数量書の項目に基づいて積算するので、複数業者から提出される工事費内訳書の精査・比較がより早く、そして的確に実施可能となる点が挙げられます。一方で、施工者の観点では、入札や見積合わせで積算する際に、工事項目の抜け・漏れ、数量の落としなどを確認可能な指針となる点が挙げられます。

なお、実施設計図に基づいた積算は、精度が高い工事費を算出可能な一方、設計情報が豊富である為、最も手間と時間のかかる作業となります。その為、プロジェクトのスケジュールや工事の発注戦略によっては、発注者サイドの積算は、施工者サイドの積算と同時並行で実施されるケースがあることにも触れておきます。

2)コストプランによる現状コストの確認|実施設計段階


続いて、実施設計図に基づいて積算された現状の工事費が予算内に収まっているか最終の確認をします。基本設計段階と同様に、コストプランに積算された工事費を現状コストとして入力し、全体工事費や項目別の工事費についてチェックします。そして、目標予算を超過している場合は、設計VE(バリューエンジニアリング)による代替案の検討、仕様の見直し等によるCD(コストダウン)の実施など、コスト縮減の提案を通して、目標予算内に収めるよう調整することになります。

3)設計VEの実施|実施設計段階


この段階における設計VEの取り組み方や進め方の根本については、基本設計段階における設計VEと同様です。その一方、実施設計段階による設計VEは基本設計段階の設計VEと比べて下記の点で異なります。

・業務で必要な時間が長くなる(読み込む情報量が多い)
・大胆な提案の採用が難しい
(変更により干渉する設計内容が多岐に渡りスケジュール的に間に合わなくなる等)
・コスト縮減効果が低い

すなわち、実施設計図書はあらゆる面で詳細に設計されている為、設計を読み込む時間が情報量に比例して長くなるだけでなく、基本設計段階では提案可能である大胆なコスト縮減の提案を採用することが難しくなり、その結果としてコスト縮減効果が低くいのです。

その為、設計VEは、設計が概ね確定する実施設計段階よりは基本設計段階、基本設計段階よりは基本計画段階に実施する方が、コスト縮減提案や工期短縮提案の採用により得られる効果が高いだけでなく、VE提案の採用による設計の手戻りが少なく済むのです。

また、この段階で採用されたコスト縮減提案については、軽微な変更であれば設計者によって図面等干渉する部分を修正することで、スケジュールの都合上時間がない場合には特記仕様書などの形で発注図書に反映されます。

なお、入札や見積合わせの際、工事発注の方式によっては、施工者に工事金額と併せて技術提案・設計VE提案を提出してもらう、つまり、施工者の観点にからコスト縮減や工期短縮の提案をしてもらい、それらを総合的に評価して施工者を選定するケースがあることについても触れておきます。

以上のように、今回のコラムでは実施設計段階で必要となるコストマネジメントに紹介しました。次回は工事の発注段階におけるコストマネジメントの実務について紹介します。

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(1)建設プロジェクトのコストマネジメントとは!?
(2)基本計画段階のコストマネジメントとは!?
(3)基本設計段階のコストマネジメントとは!?
(4)実施設計段階のコストマネジメントとは!?
(5)工事発注段階のコストマネジメントとは!?
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著者紹介
佐藤隆良
株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役


1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。
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