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持ち家か賃貸か(1)~支出を比較する方法~

人生で非常に大きなウエイトを占める住宅の問題。中でも議論が尽きないのが、賃貸住宅に住み続けるのと、住宅を購入するのとでは、どちらが得なのかということ。価値観は人それぞれで絶対的な正解はありませんが、判断するうえでの指針はあります。最も気になるのは、どちらの支出が多いのかということでしょう。今回は支出の比較方法について考えてみます。

持ち家か賃貸住宅か(1)~支出を比較する方法~

東京23区の平均坪単価で比較してみる


持ち家と賃貸の支出を比較するうえでよく使われるのが「平均坪単価」です。比較の代表例として、分譲マンションと賃貸住宅の平均坪単価を使って比較してみましょう。

東京23区を例にすると、新築分譲マンションの平均坪単価は約330万円。賃貸住宅の家賃の平均坪単価は8,834円。これを20坪(約66㎡)の物件で比較します。諸費用や金利などは2016年現在の一般的な数値を用いています。

まず分譲マンションの場合ですが、9割融資、35年間金利固定、金利1.3%で計算すると、毎月の支払いは176,110円、総支払額は8,056万円となります。

次に賃貸住宅の場合は、8,834円×20坪=176,680円が毎月の支払額。35年間(420か月)では、約7,420万円となります。

やや分譲マンションの支出が上回る結果になりました。では、この結果は本当に正しい比較になっているのでしょうか。

比較に潜む落とし穴


こうした比較は、ネット上でちょっと検索しても数多く見つかりますが、その結論は面白いほどにまちまちで、まるっきり逆の結論を見ることも珍しくありません。なぜ、そのような違いが出るのでしょうか。

平均坪単価を使った比較でいうと、分譲マンションは新築物件なのに対して、賃貸住宅は建物の構造も、築年数の指定もありません。古い木造アパートなども全部合わせての平均家賃なわけです。

これでは公平な比較になりませんが、ネット上にあふれる比較の多くは、こうした落とし穴を考慮していないものが多く見られるのが現実です。

現実的な比較方法とは


現実的な方法としておすすめなのは、中古マンションの現物で比較してみることです。中古マンションは、同じマンション内で、中古物件として販売されているものと、賃貸住宅として貸し出されているものが共存しています。過去の販売実績や、賃貸価格も調べることが可能なため、実際に取り引きされた事実をもとに、ほぼ同じ間取りの部屋で比較することができるのです。

比較の例として、東京に通勤圏内の埼玉県のとあるマンションを取り上げてみます。

築3年、駅徒歩6分、68㎡・3LDKの物件が3650万円で販売されていました。中古なので諸費用を10%とし、35年ローンで計算すると、毎月のローン支払いは107,000円、総支払額は4,490万円になります。

一方、同物件・同条件の部屋が177,000円で賃貸に出されていました。これをもとに35年間の総支払額を計算すると7,434万円です。

総支払額はかなり持ち家が有利になる結果が出ました。ただし、分譲マンションの場合、上記のほかに管理費と修繕積立金が合わせて30,000円程度、ほかに固定資産税もかかります。

賃貸住宅は一般的に2年毎に更新費が必要になります。固定資産税と更新費をほぼ相殺と考えると、分譲マンションの毎月の支払いに30,000円上乗せするのが現実的でしょう。すると総支払額は5,750万円となります。それでもまだ1,700万円近く持ち家が有利というのが、この物件での支出比較の結論です。

支出の絶対的な比較方法はない


ライフプランを考慮して支出を比較する場合は、同条件の物件で比較することは現実的ではありません。持ち家の場合は、いますぐ必要でなくても将来を考えて間取りや立地を選ぶ必要がありますが、賃貸なら、そのときの必要条件に合う物件に住み替えていくことで家賃を節約することができるからです。

ただ、必要条件を予測することは大変困難です。結婚を機に住宅の購入を検討するにしても、離婚してしまうかもしれませんし、子どもを授かるかどうかは誰にもわかりません。仮に夫婦二人だけで住み続けるとしても、年齢を重ねて社会的立場が上がるに連れて、ある程度の広い家が欲しくなることもあるでしょう。

そう考えていくと、賃貸住宅でどのぐらい家賃を節約できるのかの予測は難しく、持ち家と賃貸住宅の支出を正確に比較する方法はないと言わざるを得ません。最終的には支出を比較するよりも、自分の人生設計をどう立てるか、という問題に行き着くことになるでしょう。

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「持ち家か賃貸住宅か」はこちら↓
(1)支出を比較する方法
(2)持ち家の維持・修繕の実際
(3)35年後の資産価値
(4)賃貸住宅における原状回復の範囲
(5)最終結論

「関連記事①-ハウスメーカーと工務店の違い」はこちら↓
(1)住宅設計のスタイルの違い
(2)価格面の比較
(3)設計、デザイン面の比較
(4)安心感があるのはどちらか
(5)満足度が高いのはどちらか

「関連記事②-自社ビルか賃貸か」はこちら↓
(1)自社ビルのメリット
(2)自社ビルのデメリット
(3)賃貸のメリット
(4)賃貸のデメリット
(5)財務面の影響とこれまでのまとめ

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