自社ビルか賃貸か(5)~財務面の影響とこれまでのまとめ~
自社ビルと賃貸オフィスを比較するシリーズ。最終の第5回は自社ビルを所有した場合と、賃貸オフィスを利用する場合で、会社の財務面にどのような影響を及ぼすかについて考察します。また、これまでのメリット・デメリットから、自社ビルと賃貸オフィスの問題についてまとめます。
財務面での影響について
同程度の条件で賃貸オフィスの賃料と自社ビル所有に伴う支出を比較した場合、賃料の経費支出よりも、自社ビル所有に伴う支払利息の増加や固定資産税の支払い額が下回ることが一般的です。そのため、自社ビルを所有すると経費を削減し利益を増すことができるため、損益計算書上は良い影響があるといえます。
例えば、自社ビルを建設するためには、多くの場合はそのビルを担保に融資を受けることになるでしょう。その際、価格の100%の融資は難しいため、ある程度の自己資金も必要になります。つまり、貸借対照表上では、自社ビルを所有すると、預貯金が減り、借入金が増加するため、少なくとも短期的にはマイナスに動きます。また、指標のひとつである有形固定資産回転率(所有する固定資産に対しての売上高の割合)も下がることになります。
こうした財務指標の一時的な悪化に関しては、正確に予測して、十分に備えてあれば問題ないといえるでしょう。損益計算上でプラスならば長期的にはほかの指標もプラスに動くからです。預貯金を減らしすぎて資金繰りに支障をきたさないようにすることには、十分に注意を払うことです。また、早く借入金を減らしたいからといって、返済額を多くしすぎないことも重要です。
例えば、いままで余裕を持って賃貸オフィスの賃料を払えていたからと、返済額を賃料と同程度まで上げてしまうと大変危険な落とし穴にはまります。なぜならば、賃料は全額が経費になりますが、自社ビルの場合、建物の建築費は減価償却で経費に算入できるものの、土地は減価償却しないため経費になりません。賃貸時代よりも税金の支払いが増えるので、必ずその分を見込んで返済額を設定する必要があります。
まとめると、預貯金に余裕があれば、自社ビルの所有は利益向上に効果的。余裕がない場合は、資金繰りの点でリスクが高くなるといえるでしょう。
自社のタイプに合うオフィス環境を考える
自社ビルにも賃貸オフィスにも、さまざまなメリット・デメリットがありましたが、賃貸オフィスに関しては予算に余裕があって、質の高いオフィスに入居することができるなら、デメリットの多くは、ほとんど問題にならないでしょう。また、自社ビルのメリットの多くは、予算が許すなら賃貸オフィスでも実現可能です。
一方、自社ビルの所有は、財務面でのプラス効果は期待できるものの、預貯金を減らすリスクも高くなります。デメリットに関しても、例えば、従業員数の増減に対応しにくいことなどは、自社ビルを一等地に購入する予算があったとしても解決しにくい問題です。また、現実的には自社ビルで経費節約を狙う企業が、それほど予算に余裕があることはまずないため、デメリットは覚悟する必要があります。
こうしてみると、賃貸オフィスのほうが無難なことは間違いなさそうですが、会社の体質によっては、自社ビルがあっているケースもあります。
例えば、従業員数が常に安定している会社、営業力や流通力よりも技術力に重きをおいている製造業、総務部など管理部門がしっかりしている企業などは、自社ビルのデメリットを最小限に抑えることができるでしょう。特殊性の高い研究などを行う企業であれば自社ビルの自由性というメリットの重要度が増します。
また、風通しがよくアットホームな社風を待つ会社ならば、オフィスを集約する効果がより発揮されますし、愛社精神も増していくことでしょう。
単なる経費削減目的で自社ビルを購入するのではなく、自社ビルの持つメリットを享受し、デメリットを抑えることができるのかどうかを見極めることが重要といえます。
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「自社ビルか賃貸か」はこちら↓
(1)自社ビルのメリット
(2)自社ビルのデメリット
(3)賃貸のメリット
(4)賃貸のデメリット
(5)財務面の影響とこれまでのまとめ
「関連記事①-遊休不動産の活用」はこちら↓
(1)増加する遊休不動産と問題点
(2)遊休不動産がマイナス資産と化す時代
(3)遊休不動産の活用方法
(4)管理・活用を支援するサービス
(5)遊休不動産活用を支援する施策
「関連記事②-持ち家か賃貸住宅か」はこちら↓
(1)支出を比較する方法
(2)持ち家の維持・修繕の実際
(3)35年後の資産価値
(4)賃貸住宅における原状回復の範囲
(5)最終結論
「関連記事③-ハウスメーカーと工務店の違い」はこちら↓
(1)住宅設計のスタイルの違い
(2)価格面の比較
(3)設計、デザイン面の比較
(4)安心感があるのはどちらか
(5)満足度が高いのはどちらか