持ち家か賃貸か(3)~35年後の資産価値~
持ち家と賃貸住宅を比較するシリーズ、第3回は新築住宅を購入した場合の、一般的にローンが終わる35年後の資産価値について考えてみます。
持ち家と賃貸住宅の比較で、持ち家有利説の大きな根拠とされるのが「持ち家はローンが終われば土地や建物という資産が残る」というものです。
しかし、土地の価格が上がり続けていた時代ならともかく、現代では本当に資産が残るのかどうか、かなり怪しくなっているといわざるを得ません。
建物の会計上の資産価値はいずれなくなる
自己の居住用に用いる木造戸建住宅の法定耐用年数は33年と決まっています。つまり会計上の資産としては33年で減価償却されて、34年目からは資産価値がなくなるということです。
もちろん、これはあくまでも会計処理上の話。実際は、法定耐用年数を過ぎたからといって、いきなり居住できなくなったり、売却価格がゼロになるということではありません。ただ、33年がひとつの目安になることは間違いなく、ローンが終わる35年後には価値が大幅に減少すると思っていたほうがいいでしょう。
鉄筋コンクリート造のマンションの法定耐用年数は47年となっており、35年後でも会計上の資産価値は残ります。しかし、現実的には40年を過ぎると売却価格は大幅に下がり、現実的な資産価値は新築時の1~2割まで落ちると思っていたほうがいいでしょう。
構造や間取りには時代ごとに流行がある
35年後の建物の資産価値を考えるとき、耐用年数以外にも、その時代にあった構造や間取りというのも重要になります。
例えばいまから35年前の住宅は、天井高が2.2~2.3mが普通でした。現在は天井が高いほうが部屋が広く感じる、高級感があるなどの理由で、2.4~2.7m程度が主流になっています。天井の高さは建物の設計段階で決める必要があるため、リフォームなどでは基本的に変更することができない部分です。そのため、天井高の低い物件は嫌われて、大幅に値段が落ちることになります。
では、いま主流の天井高で立てられた物件なら35年後も大丈夫かといえば、そうとも限りません。高い天井は照明の交換が大変だったり、部屋の体積が増えるため冷暖房費がかさむなどのデメリットもあります。建築費も高くつきますし、壁紙の張り替えなどリフォームも高額になります。
現在でも十分な広さのある住宅などでは、あえて天井高を高くしすぎない設計にしているものもあるほどなので、35年後にどのぐらいの天井高が流行しているのかは、わからないというのが現実です。天井高以外にも、廊下の幅や窓の大きさ、床の種類、キッチンの配置や風呂のサイズなどにも流行があります。35年同じ住宅に住み続けるということは、流行遅れの住宅になるというリスクを抱えているのです。
人口減少社会で土地の資産価値が激減
ここまでは建物の資産価値について考えてきましたが、住宅を購入した場合の資産には土地もあります。土地には耐用年数がないため、特に戸建て住宅の場合は《ローンが終われば、最悪でも土地が残る》といわれることが多いですね。しかし、絶対的な資産価値を持つと思われてきた土地も、昨今は怪しくなってきています。
現在、日本の人口は減り続けており、今後数十年の見通しでもその傾向は加速する一方とみられています。そうした状況で予測されているのは、都心部への人口の一極集中化です。住みたい街ランキングで上位に入るような人気の街に人口が集中し、都心周辺のベッドタウンや郊外の住宅地では人口が極端に減少し、土地の価値もほとんどなくなるのではないかといわれているのです。
では、土地の資産価値が激減するとどんな影響があるのでしょうか。わかりやすいところでは、土地を担保にお金を借りることができなくなるということです。例えば、35年以上経過して古くなった建物を全面的にリフォームしたり、二世帯住宅に建て替えて結婚した子どもと同居するための費用の捻出が難しくなります。
35年後の資産価値に過度な期待を抱かない
今回は持ち家派にとって厳しい内容となりましたが、資産価値についてはあくまでも予測に過ぎません。例えば、建築技術は日々進歩しているため、現代の技術で建てられた住宅は、35年後でも傷みが少なく、資産価値が残っているかもしれません。
人口減少はほぼ間違いなく続くでしょうが、ライフスタイルは多様化しており、予測されているような都心への人口の一極集中は起こらないかもしれません。そのため、35年後の資産価値に過度に期待して住宅を購入することは避けるべきでしょう。
持ち家を手に入れたら、日頃から地域の人口動向や土地の価格推移に注意を払い、ローンが終わったあとのことも考えて貯蓄をし、リフォームや建て替えに備えることなどが重要です。
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「持ち家か賃貸住宅か」はこちら↓
(1)支出を比較する方法
(2)持ち家の維持・修繕の実際
(3)35年後の資産価値
(4)賃貸住宅における原状回復の範囲
(5)最終結論
「関連記事①-ハウスメーカーと工務店の違い」はこちら↓
(1)住宅設計のスタイルの違い
(2)価格面の比較
(3)設計、デザイン面の比較
(4)安心感があるのはどちらか
(5)満足度が高いのはどちらか
「関連記事②-自社ビルか賃貸か」はこちら↓
(1)自社ビルのメリット
(2)自社ビルのデメリット
(3)賃貸のメリット
(4)賃貸のデメリット
(5)財務面の影響とこれまでのまとめ