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持ち家か賃貸か(4)~賃貸住宅における原状回復の範囲~

持ち家と賃貸住宅を比較するシリーズ、第4回は賃貸住宅の原状回復義務について考えてみます。
持ち家か賃貸住宅か(4)~賃貸住宅における原状回復の範囲~

「賃貸住宅では壁に画鋲も刺せない」は本当か


持ち家派が賃貸住宅を嫌う理由としてよく挙げることに、賃貸住宅を解約する際の原状回復義務があります。この「原状回復」という言葉だけを見ると、住宅を借りたときとまったく同じ状態にして返す義務がある、と感じる人もいるでしょう。
その結果、「賃貸住宅では、壁に画鋲でポスターなどを貼ると、退去時に壁紙の交換費用を請求される」というようなことが真実であるかのように噂され、それが賃貸住宅を嫌う理由の1つにされています。

確かに一昔前には、画鋲の穴のようなわずかなキズや汚れ、日当たりによる壁や床の色褪せを理由に、壁紙や床材の全面的なリフォーム費用を請求され、敷金をはるかに超える出費を強いられたケースもあったようです。

しかし、裁判の判例などを元にして原状回復の定義が明確にされた現在では、このようなケースは激減しています。

原状回復の基本的な考え方


原状回復に関するトラブルが多発したことから、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を提示しています。まずはこのガイドラインで定義されている原状回復の基本的な考え方を見てみましょう。

◆原状回復の定義(国土交通省: 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインより)

「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

この定義から、少なくとも経年劣化で壁紙や床の色が変色した程度では、賃借人の原状回復義務には含まれないということがわかります。ただし、どこまでが「通常の使用」の範囲と認められるかについてはわかりにくいため、さらに具体的な例を見てみましょう。

原状回復義務に該当しない具体的な事例


ガイドラインでは、通常仕様の範囲を明確にするため、具体的な事例について判断基準を示していますので、いくつか見てみます。

◆ポスター・絵画等を貼ったことによる、画鋲・ピン等の穴

ポスター等の掲示は通常の生活で行われる範疇とされ、それによる穴は通常の使用による損傷であると、明確に判断されています。

◆ポスター・絵画等を貼ったことによる、壁紙の変色

いわゆる日焼け跡の問題で、退去時にポスターをはがしたらそこだけ真っ白だったというような場合です。これについても、壁紙の日焼けは日照などによる自然現象であるため、通常の使用による損傷であるとされています。

また、類似例として、テレビや冷蔵庫の裏面にあたる壁が黒く変色(いわゆる電気焼け)することがありますが、生活の必需品であるテレビや冷蔵庫の使用による変色は、通常使用の損傷であるとされています。

ほかにも具体的な事例が数多く例示されていますが、いわゆる常識の範囲で考えて通常使用と思われるものに関しては、問題ないと考えて差し支えありません。

過失による損傷は全て弁償しないといけないのか


通常仕様の範囲での損傷には原状回復義務がないことがわかりました。では、カーペットにうっかりアイロンを倒して焦がした、墨汁をこぼして色が落ちなくなった、などの過失による損傷はどうでしょうか。

結論からいえば、賃借人の過失による損傷は原状回復義務があります。こう聞くと《やっぱり賃貸住宅は気を使うから嫌だ》と思うかもしれません。しかし、原状回復義務があるからといって、カーペットの張り替え費用を賃借人が全額負担するということではありません。

住宅の設備には耐用年数が設定されています。例えばカーペットでは、6年で残存価値が1円となるとされています。つまり6年以上契約していた場合は、過失による損傷があっても原状回復の費用を負担する必要はないということです。

また、仮に3年で解約した場合は、50%の価値が残存していると考えて、交換費用の半額を賃借人が負担することが妥当とされています。

賃貸住宅でも普通に暮らしていける


原状回復に関する考え方が整備されたことにより、現在では賃貸住宅でも過度な費用を請求されることはなく、持ち家とさほど変わらずに生活できることがわかりました。

それでも「借りているものなので気を使う」という人もいるでしょうが、少なくとも持ち家と賃貸住宅を比較するうえで、原状回復の義務が賃貸住宅の大きなマイナス面にはならないとはいえそうです。

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「持ち家か賃貸住宅か」はこちら↓
(1)支出を比較する方法
(2)持ち家の維持・修繕の実際
(3)35年後の資産価値
(4)賃貸住宅における原状回復の範囲
(5)最終結論

「関連記事①-ハウスメーカーと工務店の違い」はこちら↓
(1)住宅設計のスタイルの違い
(2)価格面の比較
(3)設計、デザイン面の比較
(4)安心感があるのはどちらか
(5)満足度が高いのはどちらか

「関連記事②-自社ビルか賃貸か」はこちら↓
(1)自社ビルのメリット
(2)自社ビルのデメリット
(3)賃貸のメリット
(4)賃貸のデメリット
(5)財務面の影響とこれまでのまとめ

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