実務で使われる「概算」の方法とは!?-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(3)
建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「価格編」、第2回であった前回のコラムでは、「建築費」の一般的な算出方法として「積算」と「概算」を紹介しました。3回目である今回は実際のプロジェクトにおいて広く活用される「概算」の具体的な方法について、やり方さえ覚えてしまえば誰にでも簡単に利用することができる方法から、多くの経験や判断を必要とする方法まで、その具体的なアプローチについて代表的な方法を紹介したいと思います。
①「㎡単価」や「坪単価」を活用する方法
この方法は「建築費」を「概算」する際に最も活用されており、一度覚えてしまえば誰にでも簡単に利用することができる方法です。一般的には「発注者」がプロジェクトを「企画」する段階で「建築費の予算を設定する目的」の際などに実務で広く活用されています。
具体的な算出方法としては、以下のイメージに示すように、まず工事の対象となる建物の「㎡単価(㎡あたりの単価)」または「坪単価(坪あたりの単価)」を設定し、それらに建物の「床面積(㎡数または坪数)」を掛け合わせることで概算の「建築費」を算出します。「㎡単価」や「坪単価」の設定は、対象とする建物と類似したプロジェクトにおける実績契約価格(建築費)に基づいた「㎡単価」や「坪単価」をベースとし、類似プロジェクトの契約時点からの物価上昇率を考慮して決定するのが一般的な方法です。
この方法の特徴は、「設計図」や「仕様書」が存在しない段階、すなわち「地域」「建物用途」「規模」「構造」「建物グレード」などプロジェクトにおける概要が企画または計画された段階で「建築費」を算出することができる点にあります。
一方、この「概算」で得られる結果の精度は一般に誤差が大きく粗いという点も特徴として挙げられます。なぜならば、この方法では「地域」「建物用途」「規模」「構造」「建物グレード」などの点からできる限り類似している過去のプロジェクトにおける「建築費」をベースとして「坪単価」が設定されますが、非常に類似しているプロジェクトであっても「敷地の条件(地盤や形状など)」や「建物の形状」などが異なる為、これらの違いが誤差として生じるからです。
また、この方法に類似した方法として、例えば、集合住宅プロジェクトで「住戸あたり単価」、病院プロジェクトは「病床あたり単価」、ホールや劇場プロジェクトでは「客席あたり単価」、ホテルプロジェクトにおいては「客室あたり単価」といったように建物の「主要な機能」に基づいて単価を設定して「建築費」を「概算」する方法もありますが、基本的なアプローチは先に紹介した「坪単価」と同様に過去の類似プロジェクトをベースに「機能あたり単価」を設定して「建築費」を算出する方法となります。
なお「坪単価」や「機能あたり単価」などを用いて「建築費」を表現する方法は建設業で従来からよく利用されており、例えば、建設業者より提出された見積金額(建築費)からプロジェクトにおける「坪単価」や「機能あたり単価」を算出して「坪〇〇万円では高すぎる」とか「住戸あたり△△万円であれば予算に収まる」などといったように、その水準を過去の実績や経験からイメージしやすい方法であることも紹介しておきます。
②「概算数量」を活用する方法
この方法は主に「発注者」や「設計者」がプロジェクトにおける建物の形状や仕様などの概要についての検討がある程度進んだ「基本計画」や「基本設計」といった段階で、例えば「現状の計画や設計は予算に収まっているのかを確認する目的」や「建物のどの部分にお金がかかっているのかを確認する目的」で活用されています。
具体的な算出方法としては、設計図や建物概要に基づいて、建物を構成する要素に沿って項目を設けて、それぞれの数量を算出し、これに各項目における「単価」を掛け合わせ項目別に金額を算出してから、全体の金額を積み上げて合計することで「建築費」を算出する方法となります。
一見すると、「積算」のようにも見えますが、「積算」のように細かい項目まで数量を拾い出して金額を算出するのではなく、複数の細かい項目をまとめて1つの項目として扱います。例えば、「積算」の場合だと「外壁仕上」は「下地材」や「仕上材」などの項目に細かく分かれて金額が内訳書に計上されますが、この方法ではこれら「下地材」や「仕上材」の項目を「外壁仕上」として1つの項目にまとめて計上します。また、単価についても「下地材」と「仕上材」の単価を合計した「外壁仕上面積あたり単価」が採用されます。
この方法の特徴としては、内訳書に「どの項目を計上するか」「計上した項目に含まれる工事はどこまでか」「数量をどう決めるか」「単位は何を採用するか」などといったことが「概算」を実施する人の経験や考え方に基づいて概算される点にあります。
その為、同じプロジェクトであったとしても、内訳書に計上される項目や数量、単位などが「概算」を実施する者の判断によって異なり、得られる結果で大きな差が生じる場合もあるのです。このように「坪単価を活用する方法」のように誰にでも活用できるが精度が粗い「概算」とは異なり、活用するにあたり豊富な経験や知識が求められる一方、経験者により得られた結果には高い精度が期待できる方法です。
なお、この「概算」を実施する際の考え方として参考となるガイドラインが、国交省より「官庁施設の設計段階におけるコスト管理ガイドライン」として「概算工事費算出標準書式を用いた概算算出の基本的考え方及びその運用」、「概算工事費算出標準書式」、「概算工事費算出にあたっての留意事項」などと併せて公表されていますのでここで紹介いたします。
③「プログラム」を活用する方法
最後に、計画建物の「地域」「形状」「グレード」などといった建物の概要に基づいて、「プログラム」から自動的に内訳書を作成して「概算」を算出する「概算システム」についても簡単に紹介します。
これらのシステムは「概算」に要する時間や労力を軽減するだけでなく「形状」や「グレード」を変更した場合のシミュレーションにも対応できる便利なシステムです。
また、近年の建設業界ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入や活用が徐々に加速していますが、BIMのモデル情報とこれらの「概算システム」を連動させて「概算」を算出するプログラムの開発も進んでいることもここで触れておきます。
このように、「建築費」を算出する「概算」の具体的な方法について紹介してきました。次回のコラムでは「建築費」に影響を与える「要因」についてフォーカスして紹介していきたいと思います。
「建築費」のPoint(3)
①「坪単価」を活用する「概算」は簡単に利用できるが精度は高くない!
②「概算数量」を活用する「概算」には豊富な経験が必要だが高い精度が期待できる!
③「概算システム」とは「形状」や「グレード」を変更したシミュレーションに対応可能なソフトウェアである!

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「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」はこちらから↓
(1)「建築費」とは!?と聞かれたら!
(2)「建築費」ってどうやって算出されるの!?
(3)実務で使われる「概算」の方法とは!?
(4)「建築費」に影響を与える要因とは!?
(5)「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?
「関連記事①-坪単価で把握する建築費」はこちらから↓
・戸建て住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・賃貸アパートの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・シェアハウスの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・マンションの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・事務所の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・工場の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・倉庫の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・商業店舗の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・ホテルの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・病院の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・福祉介護施設の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・学校の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
「関連記事②-面白いほどよくわかる建設市場-需要編」はこちらから↓
(1)主力とするターゲットや商品開発を建設需要から導こう!
(2)知りたい情報に辿り着ける3つのアプローチ!
(3)簡単に無料で手に入る「統計データ」を積極的に活用しよう!
(4)需要の傾向を読み解いて市場の先行きを考えよう!
(5)「影響要因」を把握して説得力のある需要予測を導き出そう!
「関連記事③-面白いほどよくわかる建設市場-供給編」はこちらから↓
(1)色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!
(2)「建設業者の忙しさ」を把握する具体的なアプローチとは!
(3)「建設業者の忙しさ」は業者の規模別に把握しよう!
(4)建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!
「関連記事④-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編」はこちらから↓
(1)「建設市場」は「予想」でなく「予測」しよう!
(2)建築費が高騰/下落する仕組みとは!?
(3)建築費がいつ頃下落するか予測しよう!
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(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?
「関連記事⑥-建設統計からみた建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)2016年の「建築需要」と「建築費」の水準は!?
(2)建設市場における「受注高」「施工高」「未消化工事高」の水準は!?