「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(5)

建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「価格編」、第4回であった前回のコラムでは、「建築費」に影響を与える「要因」について具体的に紹介しました。「価格編」の最終回である今回は「建築費」について、その水準や傾向を把握するアプローチを紹介していきたいと思います。

「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(5)

「建築費」の水準や傾向を把握する目的とは!?


一般に、開発事業では事業予算を計画してから発注するまでに設計等の期間を要するので、事業予算を計画する時点から工事契約までにタイムラグが生じます。このタイムラグの影響で、建築費が上昇傾向にある状況では、事業予算を計画する時点の建築費水準と実際に入札や工事契約を行う時点の建築費とに大きな乖離が生じて、予算オーバーとなってしまい、プロジェクトの見直し・変更、延期や中断を余儀なくされるケースが発生することがあります。

その為、開発事業では事業予算を策定する際には必ず建築費が上昇するリスクの見込みをどの程度に設定し、何故そのように設定するのかなど、発注者サイドで説得力のある説明を求められます。

また、発注者にとって工事の見積金額が適正であるか否かといった確認は恒常的に発生します。市場における「建築費」の水準を把握することで、これから工事契約を控えた案件の契約額が世間相場と乖離なく適正な水準に収まっているか、自社だけ過剰な水準で発注していないかなど、客観的な視点からのチェックを行います。

このように、市場における建築費の水準や傾向を把握することで、より適正な予算計画の策定や工事費上昇リスクの検討、さらには工事契約金額の妥当性のチェックを実施するのであります。

「建築費」の水準と傾向を把握する3つのアプローチ!


「建築費」の水準について、その傾向を把握する方法としては、下記に示す「統計データを活用するアプローチ」「実績データを分析するアプローチ」「ヒアリング結果を活用するアプローチ」の3つを挙げることができます。

1. 統計データを活用するアプローチ
2. 類似実績データを収集して分析するアプローチ
3. モデルケースを活用するアプローチ

上記に挙げた主要な方法は、それぞれ特徴が異なり、目的や状況に応じて活用することが重要となります。それでは、以下に具体的なアプローチについて紹介していきましょう。

1. 統計データを活用するアプローチ!


この方法の特徴は、国交省のような公共機関よりインターネットなどで公表されているデータを活用することで「建築費」の水準や傾向を無料で把握できる点にあります。また、基本的にこれらの統計データは調査方法が一定である為、時系列データが常に同じ観点から収集されており、データ特性に整合性を有する点も活用する際の利点として挙げられます。

一方、この方法では、公表されている範囲でしかデータが得られない為、全国や都市別といった大きな市場における「建築費」の水準について動向やトレンドを把握する手段としては向いていますが、個別性の強いプロジェクトや高い精度を求める場合にはあまり向いていない方法です。

では実際に、国交省が公表している統計データを活用した具体的なアプローチについて紹介していきます。下図1は「全国の全建築物」について「工事費予定額(円)」と「建築着工床面積(㎡)」を活用し、床面積あたりの工事費予定額を「建築費水準(万円/㎡)」と考えて時系列(年間)で表したグラフであります。グラフより、直近では12年における16.6(万円/㎡)から15年における水準である19.4(万円/㎡)までに約17%上昇していることが分かります。また、15年における水準はバブル期に建築費が高騰した91年の水準である18.7(万円/㎡)よりも高い水準にあることも読み取れます。


建築費水準(万円/m2|全建築物(全国)


続いて、下図2は、上図1と同じ考え方で「東京都におけるRC造(鉄筋コンクリート造)の住宅」について「建築費水準(万円/㎡)」を時系列で表したグラフです。直近では11年の21.7(万円/㎡)から15年の29.4(万円/㎡)まで約35%上昇していることが読み取れ、また、バブル期である91年の30.6(万円/㎡)の水準にかなり近い高い水準まで上昇していることが分かります。この傾向は、図1で「全国の全建築物」について読み取れた傾向と類似しており、11~12年ごろから15年まで建築費水準は上昇傾向にあり、その水準はバブル期に近い水準まで高くなっていると考えることができるのです。


建築費水準(万円/m2|RC造住宅(東京都)


このように、国交省などから公表されている統計データを活用することで建設市場における「建築費水準」の傾向を把握することが可能となります。今回は「建築費水準」を考えるベースとして「工事費予定額(円)」と「建築着工床面積(㎡)」を活用して床面積あたりの工事費予定額を「建築費水準(万円/㎡)」と考えた場合を紹介しましたが、この「建築着工床面積(㎡)」のベースを「新設住宅戸数(戸)」「着工建物件数(件)」などに置き換えることで「新設住宅1戸あたり」「着工建物1件あたり」の「建築費水準」について、その傾向を把握することが可能になるのです。

但し、前述したように、この方法は大きい視点で建築費水準について傾向を把握する手段としては適していますが、例えば、国交省が留意点としているように「工事費予定額は、あくまでも予定額であって工事が着工から完成までに要した実際の工事費ではなく、一般にこの種の統計は低めに現れる傾向を持っている。」という点を理解したうえで活用し、目的によっては他のアプローチの採用を検討することが重要です。

【参考|建物用途別、構造別、都道府県別の「坪単価でみた建築費」はこちらから↓】
戸建て住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
賃貸アパートの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
シェアハウスの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
マンションの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
事務所の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
工場の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
倉庫の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
商業店舗の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
ホテルの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
病院の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
福祉介護施設の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
学校の建築費は坪単価でどの程度の水準か?


2. 類似実績データを収集して分析するアプローチ!


このアプローチは、過去または直近で類似したプロジェクトにおける「建築費」をデータとして収集した後、それらを時系列に整理して分析することで「建築費水準」の傾向を把握する方法です。一般的には、「統計データを活用するアプローチ」より高い精度が期待できるので、特定のプロジェクトにおける予算金額の水準を検討する際や建設会社より提出された見積金額の水準をチェックする際に有効な手段となります。その一方で、この方法は類似データを収集したり、それらを時系列に整理したりと、データの収集から分析までに多くの労力が必要となります。

具体的な方法としては、まず、対象としているプロジェクトと「地域」「用途」「規模」「構造」「形状」「階数」「建物グレード」といった工事の条件や特徴ができるだけ類似した過去の「建築費」を契約額ベースの実績データとして収集します。この際、全ての条件に類似した実績データを収集しようとすると、最終的に収集できるデータの数が減ってしまうので「地域」「用途」「規模」「建物グレード」の項目についてある程度類似したデータを収集するのが一般的です。収集するデータに関しては、目的に応じて必要な時系列分、例えば、過去5年分の傾向を把握したいのであれば過去5年分のデータ、現状の水準を把握したいのであれば直近数カ月から1年程度のデータについて、1時点につき20件程度収集します。

そして、収集されたデータについて「建築費(円)」を「床面積(㎡)」や「戸数(戸)」で割った値を「㎡あたり建築費(万円/㎡)」または「戸あたり建築費(万円/戸)」として算出し、各時点で収集したデータを時点ごとにプロットすることで「建築費」の水準や傾向を把握します。この方法では、目的に応じて、各時点における水準について、最低水準と最高水準による「幅」で考える場合と、各時点におけるデータの平均値を「点」として考える場合と分かれますが、いずれの場合も「外れ値|平均値±(2×標準偏差)の範囲外となるデータ」がある場合は、それらを除いたデータで得られた結果を採用することが必要です。

データ収集の具体的な方法としては、インターネットや書籍などより過去の実績データをゲリラ的に収集する方法や、自社で開発した案件データを蓄積する方法、設計事務所や建設会社、建設コンサルティング会社などから収集する方法などが挙げられますが、出来るだけ多種多様な「発注者」「設計者」「建設会社」による幅広いデータを収集することで、より偏りがなく実情に沿った建築費の水準および傾向把握に繋がります。

特に「建設コンサルティング会社」は様々な「発注者」「設計者」「建設会社」による実績データを多く抱えているだけでなく「地域」「用途」「規模」などの観点からデータを恒常的に蓄積・整理しているケースがある為、自社のみでゲリラ的に収集する方法と比較して効率的に得たい結果に辿り着けるアプローチとなります。

3. モデルケースを活用するアプローチ!


最後に紹介するアプローチは、モデルケースとなる案件を想定して、そのモデルの「建築費」について定期的に「単価」を更新することで「建築費」の水準や傾向を把握する方法です。その為、自社で開発する案件の多くにおいて「開発地域」「建物用途」「規模」「構造」などの特徴が似通った場合には継続的に活用するメリットを抱える方法ですが、開発案件の条件や特徴が毎回大きく異なる場合にはあまり効果的でない場合もあります。

この方法による特徴は「建築費」について常に同じ工事条件で定点観測している為「類似実績データを収集して分析するアプローチ」と異なり多くの類似実績データを収集しなくてよい点、一方で更新の対象「単価」のみであり、建設会社が実際に見積る際の「労務費や資材の上昇リスク」といったリスク分まで価格に反映できないので、得られた結果が実情と比較して低い水準となる可能性がある点などが挙げられます

具体的には、まず「モデルケース」を想定して、詳細な内訳書に基づいた各工事における「数量」と「単価」から「建築費」を算出します。そして四半期や年ごとに内訳書における「単価」をアップデートして得られた結果をその時点における「建築費」の水準として採用します。「数量」は一度拾ってしまえば基本的に更新が必要なく「単価」をアップデートするだけで活用できる非常に単純明快な方法です。

「単価」の更新方法としては、自社で行うケースもあれば、得意先となっている設計事務所や建設会社等の協力を得る場合もありますが、最近では「概算システム」や「積算システム」と言われる「見積ソフト」を活用することで自動的に「単価」を更新するケースも多くなってきております。

「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」完結!新編へ!


これまで全5回にわたり建設市場の「価格」として「建築費」について、基本的な考え方や定義から始まり、最終回の今回では実際にプロジェクトで活用されている「建築費」の水準や傾向を把握する方法まで幅広く紹介してきました。

次回のコラムでは「面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編」の初回として「建設市場予測」の目的など基本的な考え方などにフォーカスして分かりやすく解説していきたいと思います。

「建築費」のPoint(5)
「建築費」の水準や傾向を把握する3つのアプローチ!
① 統計データを活用するアプローチ
② 類似実績データを収集して分析するアプローチ
③ モデルケースを活用するアプローチ

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「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」はこちらから↓
(1)「建築費」とは!?と聞かれたら!
(2)「建築費」ってどうやって算出されるの!?
(3)実務で使われる「概算」の方法とは!?
(4)「建築費」に影響を与える要因とは!?
(5)「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?

「関連記事①-坪単価で把握する建築費」はこちらから↓
戸建て住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
賃貸アパートの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
シェアハウスの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
マンションの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
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工場の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
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ホテルの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
病院の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
福祉介護施設の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
学校の建築費は坪単価でどの程度の水準か?

「関連記事②-面白いほどよくわかる建設市場-需要編」はこちらから↓
(1)主力とするターゲットや商品開発を建設需要から導こう!
(2)知りたい情報に辿り着ける3つのアプローチ!
(3)簡単に無料で手に入る「統計データ」を積極的に活用しよう!
(4)需要の傾向を読み解いて市場の先行きを考えよう!
(5)「影響要因」を把握して説得力のある需要予測を導き出そう!

「関連記事③-面白いほどよくわかる建設市場-供給編」はこちらから↓
(1)色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!
(2)「建設業者の忙しさ」を把握する具体的なアプローチとは!
(3)「建設業者の忙しさ」は業者の規模別に把握しよう!
(4)建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!

「関連記事④-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編」はこちらから↓
(1)「建設市場」は「予想」でなく「予測」しよう!
(2)建築費が高騰/下落する仕組みとは!?
(3)建築費がいつ頃下落するか予測しよう!

「関連記事⑤-海外建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?

「関連記事⑥-建設統計からみた建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)2016年の「建築需要」と「建築費」の水準は!?
(2)建設市場における「受注高」「施工高」「未消化工事高」の水準は!?

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