「建設市場」は「予想」でなく「予測」しよう!-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編(1)
建設業をわかりやすく解説する「建設業が面白いほどよくわかるシリーズ」、シリーズ第1弾である「面白いほどよくわかる建設市場」の「需要編」と「供給編」では建設市場における「需給」について、「価格編」では「建築費」について、基本的な用語解説から、それらの水準や傾向を把握する具体的なアプローチまで幅広く解説してきました。今回から新たにスタートする「建設市場予測編」では、建設市場における「需要」「供給」「価格」について、その動向を予測するアプローチにフォーカスして、いろいろな切り口・視点から紹介したいと思います。
「建設市場予測」の目的とは!?
これまでの本シリーズでも何度か触れてきましたが「建設需要」「建設業者の忙しさ」「建築費」など建設市場における「需要」「供給」「価格」の水準や傾向を把握するのには目的があります。具体的に、建設・不動産関連業者にとって「建設需要」を把握する目的としては「自社商品の需要規模が縮小傾向の状況では開発事業を控える」とか「需要規模が拡大傾向である市場へ新しい商品開発を検討してみる」といった開発事業や商品開発の短期的な方向性を検討する際に判断材料とすることが挙げられます。
また「建設業者の忙しさ」を把握する目的としては「工事案件を発注する際に少しでも受注意欲の高い業者を見抜いて入札や見積に参加してもらう」などの狙いが、ひいては「建築費」の水準や傾向を把握する目的としては「適正な予算の策定」や「見積金額水準のチェック」などが挙げられます。
一方で「建設市場予測」は、前述した建設市場の水準や傾向を把握する目的の延長線上にあり、建設市場の将来的な予測を行う目的としては、例えば「将来的な建設需要の規模に応じた雇用計画や生産計画を立てる」「中長期的に需要規模が拡大すると予測される市場へ向けて主力とする商品やターゲットを見直す」「受注工事量が減ると予測される年の前年や前々年に多少無理をしてでも多くの工事を受注する」「中長期的な観点から建築費が低い水準と予測されるタイミングで多くの開発案件に投資する」などといったことが挙げられます。
つまり、これまで本シリーズで紹介してきた「需要」「供給」「価格」の水準/傾向把握から得られた結果は、現状または短期的な将来におけるプロジェクトに係る検討で活用できるのに対し、「建設市場予測」から得られる結果は、どちらかというと中長期的な経営的な戦略などに係る検討に活用することが可能となるのです。
「建設市場予測」では説得力を有する「予測」が求められる!
ところで「予測」は常日頃から「天気予報」とか「金融マーケット等の予測」などといった多くのシーンで行われていますが、ここで挙げた2つは予測を利用する人の観点からみると少し性質が異なります。
例えば、「天気予報」ではニュースなどで「明日は高気圧に覆われて概ね晴れとなるでしょう」とか「低気圧が近づくため、大気の状態が不安定となり夕方以降は雷雨となるでしょう」といったような解説はあるものの、その解説内容をきちんと理解して納得している人は少なく、多くの人は「天気予報」から得られる結果だけを利用しているのではないかと思います。
「金融マーケットの予測」に関しては、投資家の人々は金融アナリストの予測だけを見て投資するのではなく「なぜそのように予測したのか」とか「なぜそのアナリストはそう考えたのか」といった予測を導いたプロセスを重視して、その内容に説得力があり納得できたと判断した場合に投資しているケースが多いのではないでしょうか。
この違いには「天気予報」は「金融マーケットの予測」と比較して「予測の確度」が高いと考えている点、そして「天気予報」より「金融マーケットの予測」の方がより重要であると考えている点、この2つの理由が挙げられます。例えば「天気予報」を例にとると気象庁で発表されている「天気予報の検証結果 (平成27年の年集計) 」をみた場合、全国における「降水の有無の適中率」は80%を超えていてかなり高い的中率となっております。
「金融マーケットの予測」では多くのアナリストが多種多様な考えに基づいて、異なる予測となっている場合が多く、予測の確度はそれぞれのアナリストによっても違いますが「天気予報」のような高い精度で予測が的中しているアナリストは滅多にいないのではないかと思います。
つまり「天気予報」では予測を導くプロセスやウェザーリポーターの解説内容に納得を求めることなく、概ね的中するであろうと考え、また、結果として予報が外れたとしても、仕方がないと考えられる。一方で「金融マーケットの予測」は予測が外れた場合は投資したお金に大きな影響を及ぼす場合があるので、予測を導いた考え方に対して、よりシビアに説得力を有する納得できる見解を求めるのです。
前述したように「建設市場予測」は「中長期的な経営上の戦略などに係る検討に活用する」という重要な目的に基づいて利用される場合がある為、「金融マーケットの予測」と同様に説得力や説明力のある見解に基づいた予測となっていることが重要です。また、裏を返せば予測した内容が利用者に納得してもらえるような内容でなければ活用されることのない価値の低い予測となってしまうのです。
「予想」ではなく「予測」としよう!
それでは使い手にとって利用価値の高い「説明力」や「説得力」を有する「予測」とは、どのようなモノであるのかを具体的な例を挙げながら考えていきたいと思います。例えば、「今週は先週と比較して何杯のビールが売れるか予測したい」と考えている場合に「これから1週間は暑くなりそうですので先週よりは多く売れると思います」と何となく感覚で分かっていることをイメージのみに基づいて漠然と「予想」されても根拠が乏しくあまり説得力はなく、また、得られた結果を有効に活用できません。
一方で「過去3年の実績データから、ビールの販売数は気温変化に影響を受けており、前日比で気温が1℃変化する毎に売り上げ本数は約5%変化することが分かっております。その為、天気予報による今後1週間の気温変化をベースに考えると、今週1週間のビールの販売数は先週と比較して約15%伸びると予測します。」と、過去の関係性やパターンに基づいて、ビール販売数に影響を与える要因が気温であることを示したうえで、その影響要因の今後の変化をベースに、ビール販売数を定量的に予測している場合はとても説得力を有することとなります。それだけでなく「毎週の週始めに、この考え方で1週間のビール販売数を予測してから仕入れ数を決めよう」といったように得られた結果を発展させることで有効活用できるのです。
このように、説得力を有する予測を行うには、データや実績、経験といった過去に起こった事象に基づいて、予測の対象に影響を及ぼす要因をベースに定量的に話を展開することがとても重要となるのです。また、説得力を有する予測とするための基本的な考え方として、下記に一例を紹介しますが、予測する内容や目的によっては必ずしも最適の考え方でない点にも留意が必要です。
「予測」の基本的な考え方
① 予測したい対象(予測対象)と期間(予測期間)を決める
② 過去のデータ/実績/経験などから:
・予測対象の変動に影響を与える要因(影響要因)を洗い出す
・影響要因の変動によって、予測対象がどの程度変動するのか影響度を探る
・影響要因が変動してから予測対象に影響を与えるまでのタイムラグを把握する
③ 影響要因の動向を探る
④ 影響度やタイムラグを考慮して予測対象の変動を定量的に予測する
このように「建設市場予測編」の初回となる今回のコラムでは「建設市場予測」の目的から説得力を有する予測の考え方について紹介しました。次回のコラムでは、「建築費の水準」を予測する対象としてより具体的な例を挙げながらについて分かりやすく解説していきたいと思います。
「建設市場予測」のPoint(1)
①「建設市場予測」の目的の具体例:
・将来的な建設需要の規模に応じた雇用計画や生産計画を立てる
・需要規模が拡大すると予測される市場へ向けて主力とする商品やターゲットを見直す
・中長期的な観点から建築費が低い水準と予測されるタイミングで多くの案件に投資する
②「建設市場予測」では説得力や説明力のある見解に基づいた予測となっていることが求められる!
③ 説得力を有する予測を行うのに重要なポイント!
・データや実績、経験といった過去に起こった事象に基づいて構築されていること
・予測対象に影響を及ぼす要因とその変化をベースに考えが導かれていること
・定量的に話を展開すること
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