「建築費」とは!?と聞かれたら!-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(1)
建設業をわかりやすく解説する「建設業が面白いほどよくわかるシリーズ」、シリーズ第1弾である「面白いほどよくわかる建設市場」の「需要編」と「供給編」では建設市場における「需要」と「供給」について、基本的な意味合いからそれらを把握するアプローチまで具体的に解説してきました。今回から新たにスタートする「価格編」では、建設市場における「価格」のなかでも「建築費」にフォーカスして、いろいろな切り口・視点から解説したいと思います。
「建築費」とは何をさすのか!?
「建築費」という言葉は日常で多く使われておりますが「建築費」と耳にした時に何を連想されますか?
また「建築費」という言葉を使う際にはどのような意味として活用していますか?
実は「建築費」という用語には明確な定義が存在しない為、その使われ方によって指し示す意味が異なります。したがって「建築費」という言葉を耳にした際には、それがどのような意味合いで使われているのかを理解することが重要となります。同様に、自らが「建築費」とういう用語を活用する際には、その意味についてきちんと定義してから用いることが誤解を生まないコミュニケーションへと繋がります。
①「建築費」が意味する3つの意味合い
「建築費」の意味合いは大きく「価格」「費用」「物価水準」の3つに分類されます。例えば、建築工事の発注者が「建設会社より労務費の高騰を理由として建築費の増額をお願いされた」という場合の「建築費」は個別の工事における発注者と建設会社とで取り決められた請負契約における「価格」を指します。一方で、建設会社が「施工の合理化・効率化を進めて建築費の低減を図る」といった場合の「建築費」は建設会社が請負う工事における「費用」を指していると考えられます。また、ニュースやメディアなどによって「建設需要が急増した影響を受けて建築費が上昇している」と使われる場合の「建築費」は、特定の工事における「価格」や「費用」ではなく、市場における「物価水準」を指すこととなります。
②本編における「建築費」の定義
このように「建築費」とは様々な使われ方をされる一方、その意味は用語を使う者の立場や言い回しの違いによって異なります。そこで、「価格編」である本編では「特定の建築工事における発注者と請負業者(建設業者)との間で取り決められる請負契約価格」を「建築費」として定義し今後の解説を続けていきます。
「建築費」の中身を見てみよう!
それでは実際に建築工事を発注した際の「建築費」について、その中身を具体的に見ていきたいと思います。まず「建築費」は、建物を建てるのに必要となる資材とそれらを取り付けたりする労務手間など「工事で直接的に必要となる費用」、建物を建てる行為そのものには直接的に関係しないが現場事務所や仮囲い、工事用の電力給排水設備、現場の管理、建設会社の利益など「工事で間接的に必要となる費用」、これらに「消費税」を加えて構成されています。
一般に「工事で直接的に必要となる費用」ついては「直接工事費」、「工事で間接的に必要となる費用」については「共通費」と呼ばれています。また「直接工事費」は建物の躯体工事や仕上げ工事からなる「建築工事」、電気工事や空調工事からなる「設備工事」に分類され、さらにこれらは工事の種類別などに基づいて細分化されます。一方「共通費」は「共通仮設」「現場管理費」「一般管理費等」と呼ばれる3つの項目で構成されています。(下図参照)
また、「建築費」は構成される際に「工種別」や「部位別」と呼ばれる方法に基づいて構成されますが、以下にその特徴を簡単に紹介します。
①「工種別」による「建築費」の構成方法
「工種別」による構成は、例えば「建具工事」や「防水工事」といった実際に施工を担う専門業者の工事種類別によって構成される方法であります。その為、下請の専門工事業者から取得した見積に基づいて内訳書を作成する請負業者にとっては扱いやすい便利な方法であり、最も一般的に利用されている構成方法です。しかしながらが、この構成方法に基づいて作成された内訳書は、それを受領する発注者や設計者の立場からは、その内容の理解や確認を行いしづらいという側面があります。
②「部位別」による「建築費」の構成方法
一方で「部位別」による方法は、「屋根」「外壁」「部屋」などといった建物を構成する部分や部位に基づいて「建築費」が構成される方法です。この構成方法の特徴は、全体の「建築費」の中で「特定の建物部分に幾らかかっているのかを把握できる点」にある為、発注者や設計者がこの部分にかかる費用として適当であるかの検討や確認の目的でも活用されます。実際のプロジェクトでは、基本計画や基本設計といった設計の詳細が確定していない段階で、概算の建築費を算定する際に利用されることが多い構成方法です。
③ 2種類の構成方法に基づいた標準書式の紹介
ここで、これら2種類の構成方法に基づいた「建築費」の詳細な構成について、国交省より公表されている標準の書式を紹介します。まず「工種別」の構成方法は「公共建築工事内訳書標準書式」として「建築工事編」と「設備工事編」に分かれて、「部位別」の構成方法は「概算工事費算出標準書式」としてそれぞれ公表されています。なお、ここで紹介した標準書式は国交省としての標準的な書式であり、実際のプロジェクトで活用される内訳書式は、これらと基本的な大枠は同じですが細かい構成や表現は異なり、建設会社によってそれぞれで独自の書式が使われることも併せて紹介しておきます。
このように「価格編」の初回となる今回のコラムでは、「建築費」という用語が示す意味や本コラムにおける定義を行い、その中身を「建築費」の構成方法に基づいて紹介しました。次回のコラムでは「建築費」の一般的な算出方法についてフォーカスして分かりやすく解説していきたいと思います。
「建築費」のPoint(1)
①「建築費」とういう用語は「価格」「費用」「物価水準」の異なる意味を示すので、それぞれの意味合いを理解して活用しよう!
②本篇では「建築費」は「特定の建築工事における発注者と請負業者(建設業者)との間で取り決められる請負契約価格」と定義しよう!
③「建築費」の構成方法は特徴の異なる「工種別」と「部位別」の2種類がある!
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「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」はこちらから↓
(1)「建築費」とは!?と聞かれたら!
(2)「建築費」ってどうやって算出されるの!?
(3)実務で使われる「概算」の方法とは!?
(4)「建築費」に影響を与える要因とは!?
(5)「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?
「関連記事①-坪単価で把握する建築費」はこちらから↓
・戸建て住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・賃貸アパートの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・シェアハウスの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・マンションの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・事務所の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・工場の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・倉庫の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・商業店舗の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・ホテルの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・病院の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・福祉介護施設の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
・学校の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
「関連記事②-面白いほどよくわかる建設市場-需要編」はこちらから↓
(1)主力とするターゲットや商品開発を建設需要から導こう!
(2)知りたい情報に辿り着ける3つのアプローチ!
(3)簡単に無料で手に入る「統計データ」を積極的に活用しよう!
(4)需要の傾向を読み解いて市場の先行きを考えよう!
(5)「影響要因」を把握して説得力のある需要予測を導き出そう!
「関連記事③-面白いほどよくわかる建設市場-供給編」はこちらから↓
(1)色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!
(2)「建設業者の忙しさ」を把握する具体的なアプローチとは!
(3)「建設業者の忙しさ」は業者の規模別に把握しよう!
(4)建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!
「関連記事④-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編」はこちらから↓
(1)「建設市場」は「予想」でなく「予測」しよう!
(2)建築費が高騰/下落する仕組みとは!?
(3)建築費がいつ頃下落するか予測しよう!
「関連記事⑤-海外建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?
「関連記事⑥-建設統計からみた建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)2016年の「建築需要」と「建築費」の水準は!?
(2)建設市場における「受注高」「施工高」「未消化工事高」の水準は!?