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色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!-面白いほどよくわかる建設市場-供給編(1)

建設業をわかりやすく解説する「建設業が面白いほどよくわかるシリーズ」、シリーズ第1弾である「面白いほどよくわかる建設市場」の「需要編」では建設市場における「需要」にフォーカスし解説してきました。今回から新たにスタートする「供給編」では、建設市場における「供給」に関するアレコレをいろいろな切り口・視点から解説したいと思います。

色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!

そもそも建設市場における「供給」とは?


一般的に、ある市場における「需要」は消費者側の「買いたい」とか「欲しい」といった意欲、「供給」は生産者側の製品を「売りたい」といった意欲であるとされています。これらを建設市場に置き換えた場合、本シリーズの「需要編」でも解説したように「需要」は一般消費者や開発事業者などの発注者側の「工事を依頼したい」という意欲に置き換えられ、さらには「建設業者の受注高」「着工床面積」「新設着工住宅」などといった実際に依頼した「工事の量」を示す指標に置き換えて、その規模や大きさを判断することができます。

一方「供給」について建設市場に置き換えた場合、まずは、建設業者側の「工事を受注したい」という意欲、すなわち「受注意欲」に置き換えられます。この「受注意欲」は、例えば、「現在抱えている工事の量は?」「人手は確保できるか?」「この規模の工事に対応できるか?」「工事金額は?」などといった建設業者側の状況によって大きく左右されるため「需要」で置き換えたように、特定の指標に着目してその規模や大きさを判断することが難しいのが一般的です。

しかしながら、この建設業者の「受注意欲」をあえて置き換えるとしたら、下図で示すように「建設業者の忙しさ」に置き換えられると考えられます。なぜならば、一般に建設業者は、仕事が少ない暇な状況では新しい案件を受注する必要がある為「受注意欲」が増す一方、仕事にあふれ忙しい状況では新規の案件を無理して受注する必要が無い為「受注意欲」が減る傾向があるからです。


他産業の需要や供給を建設業に置き換えるイメージ


このように、建設市場における「供給」は「建設業者の忙しさ」に置き換えて注目することが非常に重要です。なぜなら「建設業者の忙しさ」に着目して建設市場の中身を覗いていくことで、建設市場における「供給」に関する理解の深まりや、その水準の把握に繋がるからであります。

「建設業者の忙しさ」に影響を与える「要因」とは?


一般に「建設業者の忙しさ」に影響を与える「要因」にとしては、下記のような「要因」が挙げられますので紹介していきます。

① 抱えている工事の量
② 確保可能な人手(職人や技術者)の状況
③ 工事の生産性
④ その他の要因

① 抱えている工事の量
建設工事は受注して工事を始めてから完成するまでに工期を要し、工期は受注する工事の規模にもよって異なるのが一般的です。例えば、戸建住宅のような規模の小さい建築工事でも3~4か月、大規模なオフィスや商業施設の開発では2~3年、さらに大規模な鉄道やトンネルといった土木工事では着工から完成に5年や10年かかるようなケースも珍しくありません。

その為、例えば、下図が示すように、建設業者の多くは同時期にいくつもの案件を抱えており、複数の工事を同時に行っています。建設業者は、その状況を眺めながら「いつ頃が忙しさのピークであるか?」とか「いつ頃暇になってしまうのか?」といったことを頭に入れたうえで、新しい工事案件に対して「この案件を受注して他の工事に影響が出ないか?」といった検討も含めて「受注」するか否かの判断を行うのです。


建設業者が抱えている工事の量を把握するイメージ


ですので、建設業者が「抱えている工事の量」を通して、その水準が高い場合には「忙しい状況」、一方で低い水準の場合には「忙しくない状況」と「建設業者の忙しさ」について読み解くことが可能となります。

② 確保可能な人手(職人や技術者)の状況
次に「確保可能な人手(職人や技術者)の状況」が挙げられます。これは、建設業者は一般に受注した工事を自社のみで実施するのではなく、職人や技術者を抱えて実際に施工を担当する専門工事業者と呼ばれる業者に工事を分割して発注する為です。

例えば、ある開発事業者が発注者としてマンションの建設工事を建設会社に依頼した場合、下図の通り、この建設会社は受注したマンションの工事を内装工事業者、鉄筋工事業者、型枠工事業者などといった多くの専門工事業者に分割して発注します。この為、建設業者は自社として「抱えている工事の量」だけでなく、受注した工事を分割発注する先の専門工事業者における「確保可能な人手の状況」も考慮して、受注を検討します。


専門工事業者へと分割される建設工事のイメージ


したがって、「建設業者の忙しさ」を把握する際には、「確保可能な人手(職人や技術者)の状況」も影響を与えることとなり、例えば、「人手の確保が困難」である状況では「忙しい状況」、「容易に人手が確保できる状況」では「忙しくない状況」として理解することが可能となります。

③ 工事の生産性
「工事の生産性」としては、主に「建設現場における職人や技術者の技術力」や「建設業就業者の人数や年齢の水準」などが挙げられます。なぜならば、建設業は建物や施設を建設する際に多くの人手が必要であり、労働力への依存度が非常に高い「労働集約的産業」であるためです。これは、建物を建設する際、その敷地条件や発注者の求める条件が案件ごとに異なるので、ほとんどの案件が手間を要するオーダーメード商品であることが理由として挙げられます。

例えば、車や電化製品のように同じ製品を大量生産できる産業で、消費者ごとに製品に希望する意向を取り入れて個別のオーダーメード製品を販売することになったとしたら、とてつもない労働力と時間が必要となることが容易に想像できるはずです。

もちろん建設業が進歩していないわけではなく、工場で部品を作り上げて現場で組み立てる「ユニット工法」など効率的で革新的な工法も次々と建設現場に導入されていますが、まだまだ工事の一部もしくは部分的な対応であります。このような背景もあり、建設現場における主要な工事は昔から大きく変わることなく、いまでも現場の職人や技能者の経験や技術力により、その品質や安全性、ひいては生産性が支えられている現状なのです。

このように「工事の生産性」としては「建設現場における職人や技術者の技術力」や「建設業就業者の人数や年齢の水準」が「建設業者の忙しさ」に影響を与える要因として考えることができます。

④ その他の要因
最後に「その他の要因」としては「天候/気候」や「繁忙期」などの要因が挙げられます。建設工事はほとんどの場合、吹きさらしの屋外で行われる為、天候や気候に影響を受けて、工事を中断したりせざるを得ない場合があります。

例えば、コンクリート工事では、コンクリートに含まれる水分の量が大きく変わってしまうと建物の強度に影響が出る為、強い雨の中では雨が弱まるまで工事を中断する、または、工事そのものを延期するのが一般的です。他にも安全性を確保する為、強風や暴風の場合にも中断や延期を迫られる場合があります。

また、建設業では類似工事が集中する「繁忙期」があり、こちらも「建設業者の忙しさ」に影響を与える場合があります。例えば、日本では学業や企業といった学生/社会生活が4月からスタートするのが一般的であり、このタイミングに合わせて希望者が入居することができるようにマンションやアパートを建設するケースが多いのです。その為、秋先から着工される案件が多くなり、この時期はマンションやアパートといった工事が集中し、これらの工事を対象とする「建設業者の忙しさ」に影響を及ぼします。

このように、思わぬ「天候/気候」により建設現場における工事の中断や延期、さらにひどい場合には工事のやり直しといった形、また、「繁忙期」で工事が集中することで「建設業者の忙しさ」に影響を与える要因となる場合があるのです。

このように「建設業者の忙しさ」に一歩ずつ近づいて見てみることで、段々と建設市場における「供給」に対する理解を深めることが出来るのです。

次回は建設市場の「供給」をもう一段階紐解く考え方として、今回解説した「建設業者の忙しさ」に影響を与える「要因」をどのように把握するのかにフォーカスして分かりやすく解説していきたいと思います。

建設市場における供給のPoint(1)
①建設市場における「供給」は「建設業者の忙しさ」に置き換えて把握しよう!
②「建設業者の忙しさ」に影響を与える「要因」は大きく4つ!
 ・抱えている工事の量
 ・確保可能な人手(職人や技術者)の状況
 ・工事の生産性
 ・その他の要因(天候/気候、繁忙期など)

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