建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!-面白いほどよくわかる建設市場-供給編(4)
建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「供給編」、第3回であった前回のコラムでは「建設業者の忙しさ」について、建設業者の規模別に把握する方法について解説しました。最終回である今回は、さらにもう一歩踏み込み、個別の建設業者について「忙しさ」を把握することで、その結果を実際の開発プロジェクトで活用するアプローチにフォーカスして分かりやすく解説していきたいと思います。
「建設業者の忙しさ」を個別の業者で把握する狙いとは!?
例えば、開発事業の工事発注を検討している会社は、どのような方法で建設業者を選定しているのでしょうか?
もちろん長年お付き合いがある業者にお願いするといった選択もあるでしょうが、一般的に多い方法としては開発事業の建物用途や規模といった条件より対象の工事が対応可能な業者を候補としてリストアップし、入札や見積合わせといったプロセスを経て選定するのではないでしょうか。
このプロセスは候補となる建設業者が皆同様に「それほど忙しくない」状況であれば問題なく機能するアプローチであります。しかしながら、近年のように建設業者が揃って「忙しい」状況では、候補として考えていた建設業者が入札はもちろん、見積合わせにも応じてくれない為に苦労するケースが少なくありません。
しかしながら、このように建設業者が揃って「忙しい」状況であっても、その程度や度合いは業者ごとに異なります。その為、工事発注先の候補として挙げられる建設業者の忙しさについて、個別に把握することで「忙しさ」の度合いが他の業者と比較して少しでも弱まっている業者を見抜き、よりプロジェクトの受注に前向きな業者として入札や見積合わせへの参加を促して、最終的に工事発注のプロセスに参加してもらう可能性を上げることが狙いとなるのです。
プロジェクトの目的や発注者と受注者の関係などにより、必ずしも業者を選定するプロセスに競争環境を整える方法がベストであるとは言えません。但し、建築費の観点からは、工事発注先の候補となる業者が複数あり競争原理が働く場合と、そうでない場合ではその価格は異なり、後者の場合の方が高値になる傾向にあります。なお、この建築費に関しては「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」で詳しく解説しています。
入札や見積合わせに参加してくれる可能性が少しでも高い業者を見抜こう!
それでは実際に以下のような建設プロジェクトを想定して、業者別の「忙しさ」について比較し、その結果より、入札や見積合わせに参加してくれる可能性が少しでも高い業者を見抜くアプローチについて解説していきます。
今回は、大手5社(大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店)のみで工事の対応が可能な大規模プロジェクトを想定し、この5社について「忙しさ」の程度や度合いを把握し比較することで、どの業者に声をかけるのが入札や見積合わせに参加してもらう上で最適であるかを検討してみたいと思います。
具体的には「未消化工事高(円)」と「手持ち工事月数(カ月)」の2つの指標から、業者別の「忙しさ」を見ていくこととします。
※「未消化工事高」および「手持ち工事月数」についてはこちらを参照
①「未消化工事高」からの比較
まず、金額ベースである「未消化工事高」の観点より、大手5社を16年3月期(平成28年3月期)に基づいて見てみましょう。下図1が示すように大成建設の未消化工事高は約2兆円と他の4社と比較して非常に高い水準であることが分かります。また、大林組と鹿島建設も大手5社の平均である1兆5千億円を超える高い水準にある一方、清水建設と竹中工務店の未消化工事高は5社の平均を下回り、それぞれ約1兆4千億円、1兆7百億円の水準であることが分かります。
②「未消化工事高」からの比較
次に「手持ち工事月数」の観点より、業者別に比較してみましょう。下図2が示すように、大成建設の「手持ち工事月数」は19ヵ月を超えており、他の4社比較して突出しており、続いて鹿島建設と大林組が約16ヵ月となっています。一方、竹中工務店と清水建設は5社の平均を下回り12ヵ月から13ヵ月程度となっていることが読み取ることが分かります。
上記の①および②の結果から「未消化工事高」と「手持ち工事月数」の観点から、大手5社の「忙しさ」について、例えば、下記(1)から(3)のように5社の中でグルーピングすることが可能となります。
(1)忙しさの程度が(大)のグループ:大成建設
(2)忙しさの程度が(中)のグループ:鹿島建設、大林組
(3)忙しさの程度が(小)のグループ:清水建設、竹中工務店
これより5社のうちで最も忙しい状況にあるのが大成建設で、続いて鹿島建設、大林組のグループである一方で、忙しさの程度が最も小さいのが清水建設、竹中工務店であり、これらの業者は他の3社と比較し、より入札や見積合わせに参加してくれる可能性が高い業者であると把握することができます。
プロジェクトの受注に前向きな業者を見抜くアプローチ!
それでは、上記でグルーピングされた業者間で、さらにプロジェクトの受注に前向きな業者を見抜くアプローチについて解説していきます。ここでは、まず「受注工事高(円)」と「完成工事高(円)」の2つの指標についてその意味合いを説明し、その後これらの指標を活用したアプローチを解説します。
①建設業における「受注工事高」と「完成工事高」の意味とは?
一般に建設業者にとって期末時点の「受注工事高」は「来期以降の売上に繋がる工事を含む工事高」、「完成工事高」は「今期の売上高を示す出来高」と解釈することが可能です。例えば、以下の「受注工事高」と「完成工事高」の考え方を示したイメージより、「受注工事高」は期末時点で完了していない工事も含んでおり、完了しない工事は来期の「工事完成高」の一部として計上されることが分かります。
つまり、これらの指標に着目することで、来期の「完成工事高」すなわち「売上高」に向けて受注意欲の高い業者を見抜くことが可能となります。それでは実際にこれらの指標を活用してプロジェクトの受注に前向きな業者を先に挙げたグループの中より見ていきたいと思います。
②大手5社の中でプロジェクトの受注に前向きな業者とは!?
まず、以下の図3および図4に大手5社の「受注工事高」と「完成工事高」を示します。しかしながら、これらの図を並べてみてみるだけでは良くわからないので、これら2つの指標の差をとって「受注高と完工高の差」として図5に示してみます。
すると、図5が示すように、大林組、鹿島建設、大成建設、竹中工務店の4社では16年3月期の受注工事高が完成工事高、つまり売上高を上回っているのに対して、清水建設は下回っていることが読み取れます。これより、「受注工事高」と「完成工事高」の観点からは、来期の「工事完成高」すなわち「売上高」に向けて受注意欲の高い業者として清水建設を挙げることができます。
以上のように、まず「未消化工事高」と「手持ち工事月数」の観点から各業者の「忙しさ」を把握し、その後「受注高と完工高の差」を用いた視点に着目することで、入札や見積合わせに参加してくれる可能性が少しでも高い業者を探すことが可能となるのです。因みに、今回紹介したアプローチで得られる結果としては、清水建設⇒竹中工務店⇒鹿島建設⇒大林組⇒大成建設の順に入札や見積合わせに参加してくれる可能性が高い業者として結論付けることができます。
「面白いほどよくわかる建設市場-供給編」完結!新編へ!
これまで4回にわたり建設市場の「供給」を読み解く方法について、供給に関する基本的な考え方からはじまり、最終回の今回では実際にプロジェクトで活用できる考え方まで幅広く紹介してきました。
次回のコラムでは「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」の初回として、建設市場に関連する「価格」の基本的な説明にフォーカスして分かりやすく解説していきたいと思います。
建設市場における供給のPoint(4)
①「建設業者の忙しさ」を個別の業者で把握する狙いは、入札や見積合わせといった工事発注のプロセスに参加してもらう可能性を上げることにあり!
②まず「未消化工事高」や「手持ち工事月数」といった指標から「忙しさ」の水準を比較しよう!
③そして「受注高と完工高の差」の指標を比較して、受注に前向きな業者を見抜こう!
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(1)色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!
(2)「建設業者の忙しさ」を把握する具体的なアプローチとは!
(3)「建設業者の忙しさ」は業者の規模別に把握しよう!
(4)建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!
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