建築費がいつ頃下落するか予測しよう!-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編(3)
建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「建設市場予測編」、第2回であった前回のコラムでは「建築費の水準」を予測する上で必要な「建築費が高騰/下落する仕組み」について紹介しました。建設市場予測編の最終回となる今回は「建築費がいつ頃下落するか」について解説していきたいと思います。
建築費高騰を招いた背景が緩和する為には!?
11年より16年現在まで上昇している建築費、その背景には震災復興による需要増を引き金とした人手不足があることは前回のコラムで解説しました。本コラムでは、今後この人手不足の状況が解消されて建築費が下落するのはいつ頃なのかについて解説していきたいと思います。
この人手不足の状況が解消される為には、建設需要に対応できる水準まで、人手が増加すること、または、需要が縮小することが必要となります。つまり、将来的に需要の水準が大きく変動しなかったとしても、建設業における労働力が大きく増加すれば、同様に、労働力の水準が大きく変動しなかったとしても、建設需要が大幅に減少すれば、建設業における人手不足の状況は解消します。今後、建設業がいつ頃に人手不足の状況を解消するタイミングを迎えるのかについて見ていきたいと思います。
今後、建設業における労働力は大きく増加するのか!?
まずは建設業で人手の水準が今後どのようになるのかについて解説していきます。需要が大きく拡大したことで、建設市場における人手も増えるのではないかと思うのが一般的ですが、バブル期のように大きく人手が増える可能性は極めて低いと考えられます。
その理由としては、下図1からも読み取れるように国内における労働力人口がピークであった98年から減少傾向にあることが挙げられます。バブル期には需要の増加に伴って建設業における働き手の数も大きく増えましたが、これは国内における労働力人口も大きく増加した為です。今後、少子高齢化が加速する中、バブル期のように労働力人口が爆発的に増加する可能性は低く、結果として建設業における就業者数が大きく増加する見込みも薄いと考えられます。
また、建設業で労働力が大きく増加しないであろうと考えられる理由としては、建設業における賃金水準が、建設業同様に生産労働者を抱える製造業と比較して低い水準にあることも挙げられます。例えば、下図2が示すように、建設業における労働者の平均賃金は製造業と比較すると「生産労働者」で6.2%ほど低い水準に、「管理・事務・技術労働者」では約10.2%低い水準にあるのです。それだけでなく、下図2のデータにおける労働者の平均年齢は「建設業の生産労働者」で44歳、「製造業の生産労働者」で41歳となっております。
一般に、労働賃金は労働者数の変動に大きな影響を与える為、今後、労働力人口の急激な増加が望めない中で、建設業での労働力が大きく増加する為には、建設業における生産労働者の賃金水準が製造業に近い水準、または、上回る水準にならない限りは難しいと言えそうです。しかしながら、過去15年分のデータでは、建設業における生産労働者の賃金水準が製造業を上回ったことが一度も無く、この可能性も極めて低いと考えられます。
このように、建設業における労働力は需要が増加したことである程度増加する可能性はあるものの、16年現在の需要に十分に対応可能な水準、すなわち、人手不足を解消できる水準まで大きく増加する見込みは薄いといえます。そこで、今後の建設業における需要が減少するのはいつ頃であるのかを検討していきます。
建設業における需要は今後どうなるのか!?
ここでは、下記に示すように、人手不足の状況を引き起こした「震災復興の建設需要」、そして、今後の建設需要を押し上げそうな「東京オリンピックとリニア新幹線による建設需要」について、その需要規模を把握することで、今後の建設需要への影響度について考えていきます。
①震災復興による建設需要
復興庁が16年8月に公表した「復興加速化への取組」によると、震災復興に係る事業費は、11年度(H23年度)から15年度(H27年度)までの5年間を「集中復興期間」として25.5兆円、16年度(H28年度)から20年度(H32年度)までの5年間を「復興・創生期間」として6.5兆円程度、合計で32兆円程度としております。つまり、震災復興は既に「復興・創生期間」にあり、16年4月以降の事業費は「集中復興期間」の4分の1程度の水準と大きく減少していきます。
また、震災復興の状況は、インフラ復旧は概ね完了、道路・鉄道は⼀部を除き概ね復旧、学校・病院施設の復旧は9割完了、住宅の再建は18年3月までに9割完成予定となっています。つまり、必要な工期を考慮すると、震災復興による建設需要は17年までには概ね出尽くす可能性が高いと考えられます。
②東京オリンピックとリニア新幹線による建設需要
まず、「東京2020大会開催基本計画の立候補ファイル第1巻」(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)によると、オリンピックスタジアムや競技場、選手村など、新設や既存施設の改修などに係る設備投資額は約4361億円となっており、20年までに年平均で約1090億円程度の需要規模となります。
次に、国交省が公表している「中央新幹線(品川・名古屋間)工事実施計画(その1)の認可について」によると、品川・名古屋間の総工事費は27年(H39年)までに約5兆5235億円(車両費含む)であり、これは年あたりに換算するとおよそ4250億円の需要規模となります。
つまり、建設市場で東京オリンピックとリニア新幹線による需要増加分しとして見込める規模は年平均で約5340億円程度であることが分かります。しかしながら、この水準は、バブル期以降で建設業における全体の需要が最低の水準となった10年の水準(約29兆円)と比較しても約1.8%程度の規模であり、需要を大きく押し上げるまでとは言えず、今後の建設需要への影響は極めて限定的であることが下図3よりからも読み取れます。
もちろん、ここで挙げた東京オリンピックの開催やリニア新幹線の開通に向けて、周辺におけるホテル・宿泊施設の新設・大規模改修、オフィス開発、商業施設開発など、付帯する建設需要も見込めますが、対象地域が限られていること、また、これらの需要のベースとなる東京オリンピックやリニア新幹線そのものの開発規模が全体の建設需要に対して大きな割合を占めないこと、以上の点を慮すると建設業全体の需要を押し上げるほど大きな影響力があるとは考え難いでしょう。
建築費の下落はいつ頃なのか!?
ここまで解説してきたように、震災復興による建設需要が17年には概ね一服すること、そして、いまのところ17年以降に建設需要を大きく押し上げる要因が見当たらないこと、以上の点より、17年から18年にかけて人手不足の状況が徐々に緩和されると考えられます。また、前回のコラムで紹介したように、これまで建築費が高騰した「バブル期」と「鉄資材価格高騰期」では、いずれも建築費の高騰を招いた状況が緩和されてから1年程度のタイムラグを経て建築費が下落しています。
以上より、建築費の高騰を招いた人手不足の状況は、17年から18年にかけて徐々に解消され、その後1年程度のタイムラグを伴って18年から19年にかけて建築費が下落すると予測されます。
このように「建築費の水準」を予測する対象として「建築費はいつ下落するのか?」を例として挙げ、建設市場を予測するアプローチについて紹介しました。但し、今回得られた結果については、上記で検討した内容のみに基づいた予測であることに留意が必要です。何故ならば、今回検討した以外の観点からも併せて検討することで、最終的に得られる予測が今回得られた予測と異なる可能性がある為です。また、予測を導く際に、例えば、こちらのコラムで紹介した「未消化工事高」や「手持ち工事月数」といった建設業者の忙しさを把握する為の指標について業者規模別の観点からも併せて検討するなど、検討内容に厚みを加えることで、より説得力や説明力を有する予測となることについても触れておきます。
「面白いほどよくわかる建設市場」シリーズ完結!
「建設市場予測編」では、これまで全3回にわたり「建設市場予測」について、その目的や基本的な考え方、最終回の今回では実際に「建築費はいつ下落するのか?」を題材として、より具体的に建設市場を予測する方法について紹介してきました。また、これまで「需要編」「供給編」「価格編」「建設市場予測編」として連載してきた「面白いほどよくわかる建設市場」シリーズが今回で完結となります。
「建設市場予測」のPoint(3)
① 今後、建設業における労働力が大きく増加する見込みは薄い!
・労働力人口に大きなな増加が見込めない
・建設業の労働賃金の水準が生産労働者を抱える製造業と比較して低い水準
② 建設業における需要は今後どうなるのか!?
・震災復興による建設需要は17年までには概ね出尽くす可能性が高い
・オリンピックやリニア新幹線による今後の建設需要への影響は極めて限定的
③ 建築費の下落はいつ頃なのか!?
・建築費の高騰を招いた人手不足の状況は17年から18年にかけて徐々に解消
・その後1年程度のタイムラグを伴って
・18年から19年にかけて建築費が下落すると予測される
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