アーキブックコスト

「建築費」に影響を与える要因とは!?-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(4)

建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「価格編」、第3回であった前回のコラムでは、実際のプロジェクトにおいて広く活用される「建築費」の「概算」について、その具体的な算出方法を紹介しました。4回目の今回は「建築費」に影響を与える「要因」についてフォーカスして紹介していきたいと思います。

「建築費」に影響を与える要因とは!?-面白いほどよくわかる建設市場-価格編(4)

「建築費」に影響を与える5つの主要因!


「建築費」に影響を与える要因として大きくは下記に示す5つ要因に分類することができます。そして、一般的にはこれらの要因がベースとなり、それぞれ大小の影響を「建築費」に与え「特定の建築工事における発注者と請負業者(建設業者)との間で取り決められる請負契約価格」が決定されます。

1 工事の内容
2 市場の状況
3 建設業者の能力
4 発注・調達や契約の条件
5 その他

建設会社はここで挙げた主要な要因に基づいて工事に必要な資材費や労務費等を算出し、そこに対象工事における建設会社の利益を積み上げ「建築費」として見積金額や入札金額を発注者に提示します。それでは実際にこれらの要因についてもう一歩踏み込んで紹介していきたいと思います。

「工事の内容」による要因


「工事の内容」による要因としては大きくは「設計図・仕様書の内容」と「敷地条件」に分けることができます。また、下記のイメージが示すように「設計図・仕様書の内容」は「工事のタイプ」「用途」「規模」「構造」「形状」「階数」「建物グレード(設備や内外装のグレード)」などに、一方で「敷地条件」としては「地域」「敷地の形状・地形」「地盤条件」「敷地の周辺環境」などに分類することができ、これらの条件がそれぞれ「建築費」に影響を与えることとなります。


建設費に影響を与える工事の内容について


例えば、「設計図・仕様書の内容」では「工事のタイプ」や「用途」「規模」「建物グレード」「構造」はもちろんですが、これらが類似している計画であっても、「建物形状」が単純で反復作業で対応できる計画と、各層の形状が異なり反復作業で対応できない計画とでは要する手間・労力が異なり、後者の「建築費」の方が高くなる傾向にあります。

アーキブックコスト概算算出クラウドサービス

同様に、建物の「規模」が同じ計画であっても「階数」が多くなるほど必要な足場や外装仕上面積などが増える為、さらに、類似した4層の計画であっても地上4階の計画と地上3階地下1階の計画では、地下を掘削する必要がある為、「建築費」が高くなるのが一般的です。

次に「敷地条件」では「地域」が異なると資材費や労務費といった物価が異なる場合があります。ほかにも、敷地の「形状・地形」や「周辺環境」の条件により工事のやり易さが変わる為、また「地盤状況」の違いによって、例えば、土壌汚染がありその対応が必要な場合や軟弱地盤で杭が必要となる場合など、個々の条件により「建築費」に影響を与えることとなります。

「市場の状況」による要因


「市場の状況」による要因としては「建設市場の需給状況」と「労務費・資材価格の状況」が挙げられます。例えば、「需要過多」にある場合は、建設業者の抱える工事量、すなわち「手持ち工事量」が増え、業者間で過激な受注競争をしなくても十分に仕事があるので「建築費」は高くなる傾向にあります。

一方、市場における「供給過多」にある場合は、建設業者の「手持ち工事量」が減り「受注意欲」が高まる為、新しい案件の獲得に向けて業者間で受注競争が加速し、例えば、利益率を下げても工事を受注しようとするので「建築費」は下がる傾向にあります。なお、これらのような市場状況について前者を「売手市場」、後者を「買手市場」と呼びます。

また「労務費・資材価格の状況」はその水準が上下することで直接的に「建築費」へ影響を与えます。これら「労務費」や「資材価格」は職種別、資材別でそれぞれ個別に様々な要因から影響を受けて変動しますが、特定の「労務費」や「資材価格」の水準が急激に高騰した場合、または長期的に上昇傾向にある状況では、建設会社はこれらを工期内での物価上昇リスクとして考慮し「建築費」を算出する為、その金額に強い影響を与えることとなります。

「建設業者の能力」による要因


「建設業者の能力」による要因としては「施工能力(技術力)」「類似工事の経験(用途や規模など)」「対象地域における工事実績」などを挙げることができます。例えば、複数の建設業者が特定の工事における「建築費」を算出する場合、「施工能力」が高い業者とそうでない業者、「類似工事の経験」や「対象地域における工事実績」が豊富な業者とそうでない業者では、後者の業者によって算出された「建築費」の方が高くなる傾向にあります。

これは、「建築費」を算出する際、工事を実施する上で想定する「技術的な課題」「地域特有の問題」「不確定要素」が前者の業者と比べて多く発生し、それらが工事を請負う「リスク」として「建築費」に盛り込まれる為であります。

また「対象地域における工事実績」が豊富な建設業者は、その地域における下請業者と友好的な関係を構築しているだけでなく、高い技術力を有する質の良い業者の確保が可能である為、そうでない建設業者と比較し、算出される「建築費」に差異が生じることとなります。

「発注・調達や契約の条件」による要因


「発注・調達や契約の条件」による要因としては主に「建設会社の選定方法」「工事の発注方式」「契約上の取り決め」などの要因が挙げられます。開発案件では様々な方法によって施工業者が選定されますが、複数の建設業者から入札より1社を選定する「競争入札」と、特定の業者1社のみを選定してから見積を受領する「特命方式」では、価格競争を通して業者が選定される前者に対して後者は価格競争が無い為「建築費」が高くなるのが一般的です。

アーキブックコスト概算算出クラウドサービス

同様に「工事の発注方式」も「設計施工分離方式」「設計施工一括方式」「分離発注方式」「コストオン方式」など様々な方式からプロジェクトの目的や状況に応じて総合的に最適な方法が選択されますが、採用された発注方式により「建築費」は影響を受けることになります。「工事の発注方式」の違いで具体的に「建築費」にどのような影響を与えるのかについてはこちらに紹介しますコラムで詳しく記述されておりますので参考にしてみてください。

また「契約上の取り決め」としては、工事契約を建設業者(元請負業者)と締結する際の契約内容を指します。例えば、契約内容で対象工事の工期内における物価上昇分の請求を認める場合とそうでない場合、後者は建設会社が物価上昇分として想定される金額を「建築費」に含むので前者と比べて高値になるのが一般的です。それ以外にも、対象工事における「瑕疵保証期間」「工事代金の支払い方法(前払い金の割合や有無)」「工期(標準的な工期か短工期)」などといった契約上の取り決めが、建設業者にとって不利な条件やリスクとなる場合、これらは金額として「建築費」に盛り込まれる為、影響度の大小はあるものの影響要因として働くこととなります。

「その他」の要因


「その他」の要因としては「発注者と建設会社の関係性」「設計図や仕様書の完成度」「プロジェクトの注目度」「テナント工事の諸条件」など、数多くを挙げることができますので、ここで具体的に紹介します。例えば、発注者が建設会社にとって何度も類似工事を受注している「常連顧客」の場合と「新規顧客」の場合では後者の場合の方が「建築費」が高くなる傾向があります。

これは類似工事を何度も受注している「常連顧客」の場合は、建設会社に求められる品質レベルやクレーム発生のポイントなど顧客の特性を理解しているのに対して「新規顧客」の場合にはこれらの要求水準等が不透明である為です。但し「新規顧客」の場合であっても、例えば「将来的に多くの工事を受注できる可能性がある顧客」と位置付けて、関係構築の目的で営業的な意味合いも含め利益を削ってでも受注しようとすることがあります。

また、建設会社が見積を行うにあたり「設計図や仕様書の完成度」が高い場合とそうでない場合も、後者の場合は建設会社側で図面や仕様書に記載しきれていない部分を想定して安全側に見込み金額を盛り込むので「建築費」は高くなるのが一般的です。

その他にも、町のシンボルとなるような建物など「プロジェクトの注目度」が高い案件では、建設会社はその建物を建設したことが自社のプロモーションや広告効果となる為、その案件における利益を度外視してでも受注しようとする場合もあり「建築費」に影響を与えることになります。

以上のように、「建築費」に影響を与える要因について具体例を挙げながら主要な要因を中心に紹介してきました。次回のコラムでは「価格編」の最終回として「建築費」の「水準」や「傾向」を把握するアプローチについて紹介していきたいと思います。

「建築費」のPoint(4)
「建築費」に影響を与える5つの主要な要因を把握しよう!
 ①工事の内容
 ②市場の状況
 ③建設業者の能力
 ④発注・調達や契約の条件
 ⑤その他

アーキブックコスト概算算出クラウドサービス

実務で役立つ建築費の相場【最新版】TOPへ
実務で役立つゼネコンの状況把握【最新版】TOPへ
業績から把握するデベロッパーランキング【最新版】TOPへ
職選びで役に立つ建設業の年収相場【最新版】TOPへ
購入の検討に役立つ住宅価格の相場【最新版】TOPへ

「面白いほどよくわかる建設市場-価格編」はこちらから↓
(1)「建築費」とは!?と聞かれたら!
(2)「建築費」ってどうやって算出されるの!?
(3)実務で使われる「概算」の方法とは!?
(4)「建築費」に影響を与える要因とは!?
(5)「建築費」の水準や傾向を把握するアプローチとは!?

「関連記事①-坪単価で把握する建築費」はこちらから↓
戸建て住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
賃貸アパートの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
シェアハウスの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
マンションの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
住宅の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
事務所の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
工場の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
倉庫の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
商業店舗の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
ホテルの建築費は坪単価でどの程度の水準か?
病院の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
福祉介護施設の建築費は坪単価でどの程度の水準か?
学校の建築費は坪単価でどの程度の水準か?

「関連記事②-面白いほどよくわかる建設市場-需要編」はこちらから↓
(1)主力とするターゲットや商品開発を建設需要から導こう!
(2)知りたい情報に辿り着ける3つのアプローチ!
(3)簡単に無料で手に入る「統計データ」を積極的に活用しよう!
(4)需要の傾向を読み解いて市場の先行きを考えよう!
(5)「影響要因」を把握して説得力のある需要予測を導き出そう!

「関連記事③-面白いほどよくわかる建設市場-供給編」はこちらから↓
(1)色々な視点から「建設業者の忙しさ」を把握しよう!
(2)「建設業者の忙しさ」を把握する具体的なアプローチとは!
(3)「建設業者の忙しさ」は業者の規模別に把握しよう!
(4)建設業者の供給状況を見抜いて実プロジェクトに応用しよう!

「関連記事④-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編」はこちらから↓
(1)「建設市場」は「予想」でなく「予測」しよう!
(2)建築費が高騰/下落する仕組みとは!?
(3)建築費がいつ頃下落するか予測しよう!

「関連記事⑤-海外建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!?
(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる!
(3)世界における建設市場規模はどの程度か!?

「関連記事⑥-建設統計からみた建設市場シリーズ」はこちらから↓
(1)2016年の「建築需要」と「建築費」の水準は!?
(2)建設市場における「受注高」「施工高」「未消化工事高」の水準は!?

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

記事を気に入ったらシェア!

合わせて読みたい

オススメの最新記事

この記事と同じカテゴリの質問


アーキブックコスト

コラムカテゴリ

カテゴリー

専門家の種類

建物用途

資格

課題解決

サイトニュース

2016.7.19
「アーキブック」をリリースしました。