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建築費が高騰/下落する仕組みとは!?-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測編(2)

建設業をわかりやすく解説する「面白いほどよくわかる建設市場」の「建設市場予測編」、第1回であった前回のコラムでは「建設市場予測」の目的から説得力を有する予測の考え方について紹介しました。今回のコラムでは、具体的な例として「建築費の水準」を予測する対象として「建設市場予測」の考え方について分かりやすく紹介していきたいと思います。

建築費が高騰/下落する仕組みとは!?-面白いほどよくわかる建設市場-建設市場予測(2)

「建築費はいつ下落するのか?」を題材として考えてみよう!


これまで「面白いほどよくわかる建設市場-価格編-第5回」のコラムなどでも紹介しましたが、建築費の水準は11年頃より上昇傾向となり16年現在までにバブル期の水準に近い高い水準にあります。そこで「高騰した建築費はいつ下落するのか?」を題材として、前回のコラムで紹介した「予測の基本的な考え方」をベースに、まずは過去のデータ/実績に基づいて建築費が高騰/下落する仕組みについて解説していきたいと思います。

これまでに建築費が高騰した背景や要因を特定しよう!


まず「高騰した建築費はいつ下がるのか?」を紐解くために、これまで16年現在までに建築費が高騰した際の原因・背景を把握することが重要となります。例えば、下図1が示す通り、現在までの約30年間で建築費が高騰したシーンは「91年」「09年」「現在」と3回確認できますが、どのように建築費が高騰したのかそれぞれの状況を踏まえて解説していきたいと思います。


建築費水準(万円/平方メートル|RC造住宅(東京都)


①バブル期(85年~91年)
下図2および3から、この期間における建設市場の需給状況は、85年から90年にかけて建築着工床面積でみた需要が約40%も増加する一方、同期間における建設業就業者は約11%の増加にとどまっており、深刻な人手不足の状況であったことが読み取れます。つまり、建設需要が大きく増加したことで、人手より需要が大きくなる「売り手市場」が形成され、資材価格や労務単価が大きく引き上げられるとともに、建設会社(ゼネコン)により利益率の高い案件が選別して受注された結果、91年までに建築費が高騰したのです。


建築着工床面積(百万平方メートル


その後、バブルが崩壊し91年より需要が縮小傾向に転換した一方、同年以降も建設業就業者数が年々増加したことで、建築費高騰の主要な原因であった人手不足の状況が徐々に緩和され、建築費は91年から95年までに約25%下落しています。


建設業就業者数(万人)


なお、消費税増税による住宅の「先買い」現象の影響を受けて、建設需要は96年にも大きく増加していますが、この時点における建設業就業者数は670万人と多かった為、深刻な人手不足の状況とはならず、建築費も前年である95年の水準で推移しています。(消費税増税による住宅の「先買い」現象に関する詳しい解説はこちらのコラムで紹介しています)

②鉄資材価格高騰期(05年~09年)
上図1より、この期間で建築費の水準は約28%上昇していることが読み取れます。この間で建築費が高騰した主要な要因としては鉄資材価格が高騰したことであり、これは先に挙げたバブル期における建設需要の増加を背景とした「売り手市場」の状況とは異なります。

実際に、この期間における建設市場の需給状況は、着工床面積でみた需要は約38%減少した一方で、建設業就業者数は8%程度しか減っていませんので、どちらかと言えば市況は「買い手市場」の状況でした。一方、下図4が示す通り、鉄資材価格は03年から05年にかけてトンあたり約6万円の水準まで上昇して、その後08年には年平均の値で10万円まで(08年7月から9月までは11万3000円/トンまで高騰)、05年の水準の約2倍の水準までが高騰しました。ここでは例として鉄筋の価格を挙げていますが、同期間における鉄骨の価格も同様に上昇しています。


鉄資材の価格(万円/トン)


鉄筋や鉄骨はRC(鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)を構造とする建物の主要な躯体材料として利用されますので、これら鉄資材の価格が高騰したことで建築費が大きく引き上げられたのです。ちなみに、鉄資材価格が高騰した背景としては、中国や中東における建設ラッシュにより世界的な鉄の需要が高まった為に、鉄筋の原材料である鉄スクラップ、鉄骨の原材料となる鉄鉱石や原料炭、これら原材料価格が高騰したことが挙げられます。

また、下図5が示すように、05年から08年までは原油価格も約2倍の水準まで大きく上昇した為、資材の運搬や現場における建機の燃料、アスファルトやゴム製品等の原油からなる材料などの価格も上昇したので、鉄資材ほどでないですが原油価格の上昇も間接的に建築費の高騰に影響を与えたと考えられます。


原油価格(USドル/バレル)


この建築費高騰の状況は08年9月のリーマンショックを含む世界金融危機の発生により一気に収束に向かうこととなります。つまり、国内の景気も冷え込み09年の建設需要が過去最小規模の水準まで縮小したこと、そして、世界的な鉄の需要も弱まったことで、鉄資材の価格が09年までには約6万円/トンの水準まで下落し、結果として建築費の水準は09年から11年までに約12%下落することとなるのです。

③震災復興期(11年~16年現在)
上図1から分かるように、建築費の水準は11年の21.7(万円/㎡)から15年の29.7(万円/㎡)までに約35%上昇しており、この高い水準は16年現在も続いています。この間で建築費が高騰した主要な要因としては11年3月に発生した東日本大震災の震災復興による建設需要増加が挙げられます。

「面白いほどよくわかる建設市場-需要編-第5回」のコラムでも詳しく紹介したように、震災復興によって公共建設需要が11年以前と比較して12年以降で大きく増加したのです。具体的に、下図6からも読み取れるように、07年から10年までの4年間で年平均9.9兆円規模であったのに対して、12年より15年までの4年間では年平均15.7兆円規模と、年あたりで約5.8兆円の増加と大きく膨らんでいます。11年における公共と民間を合わせた全体の需要規模が約29兆円であることを考えると、これは11年全体の水準から年平均で約20%の増加となり、公共建設需要の増加だけで全体の需要に大きな影響を与えたのかが分かります。


公共建設需要(兆円)


また、この期間では14年に消費税が5%から8%へ引き上げられたことで、消費増税前の「先買い」現象が13年に発生し、12年から13年にかけての住宅需要が約11%も増加しています。さらには、13年に2020年の東京オリンピック開催が決定したことにより、東京都や開催地近郊に限定はされるものの、競技場など直接関連施設の建設、開催に向けた近郊ホテルなど宿泊施設の建設や改修工事等の需要増加が見込まれることとなります。

一方、建設業就業者数は11年の502万人の水準から大きく変動することなく499万人から505万人までの水準で15年まで推移しています。つまり、人手が変わらない中で震災復興や消費増税の「先買い」現象によって需要が急激に増えたことで、深刻な人手不足の状況となったのです。実際に、下図7が示すように建設技能労働者過不足率から、11年より14年にかけて「不足な状況」は加速して、人手の確保が困難な状況が15年まで続いていることが読み取れます。(建設技能労働者過不足率の説明についてはこちらのコラムを参照してください)


建設技能労働者過不足率


このように16年現在で建築費が高い水準にある根本的な原因は、需要増によって、バブル期以降となる「売り手市場」が形成され、人手不足により労務費が高騰すると共に、建設会社(ゼネコン)による選別受注によって十分な利益が建築費に見込まれたためと言えます。

この状況はバブル期に建築費が高騰した背景と基本的に同じですが、バブル期とは異なる状況もあります。例えば、バブル期には需要を追う形で建設業就業者数も大きく増加しましたが、現在は人手不足の状況であるのにかかわらず人手の数に大きな変動はありません。

建築費が高騰/下落した際の共通点や仕組みとは!?


ここで、建築費が高い水準となった際の共通点について触れてみたいと思います。前述したように、バブル期では資材費と労務費、鉄資材価格高騰期では鉄の価格、震災復興期では労務費、これらが高騰したことによって建築費が大きく引き上げられました。いずれの場合も、建築費に大きく影響を及ぼす鉄資材の価格や労務費の水準が急激または長期的に上昇したのです。

一般的に建設工事は請負工事契約に基づく為、建設会社は工期内での急激な物価上昇も請負に含まれるリスクとして考慮し、金額として建築費に加算します。その際、資材や労務が工期内にここまでは上昇しないであろうといった水準を想定して見積書を作成する為、これらが工期内で実際に上昇するよりも大きなふり幅で建築費が高騰するのです。そして、これは建設市場の状況が「買い手市場」でも「売り手市場」であっても同様の仕組みで作用することが、「買い手市場」であった鉄資材価格高騰期でも建築費が高騰したことから分かります。

また、建築費の高騰を招いた状況が緩和されてから1年程度のタイムラグを経て建築費が下落していることも共通点として読み取れます。例えば、バブル期における需要はピークが90年で91年に下落していますが、建築費が下落したのは92年です。また、鉄資材価格高騰期における鉄資材価格はピークが08年で09年に下落していますが、建築費が下落したのは10年であります。

つまり、建設会社は資材や労務といった価格上昇の要因となった原因や背景が沈静化してからも、もう完全に問題ないと判断するまで様子を伺いながら、見積金額に価格上昇リスクとして見込む金額の割合を徐々に下げるので、これらが沈静化してから実際に建築費の水準が下落するまでに1年程度の時間(タイムラグ)を要するのです。

このように今回のコラムでは「建築費はいつ下落するのか?」を紐解く為の第一歩として、これまでに建築費が高騰した要因や背景を過去のデータ/実績に基づいて読み解き、建築費が高騰/下落する仕組みなどを紹介しました。次回は「建築費はいつ下落するのか?」についてもう一夫踏み込んで分かりやすく解説していきたいと思います。

「建設市場予測」のPoint(2)
①これまでに建築費が高騰した状況は3回ある
 ・バブル期(85年~91年)
 ・鉄資材価格高騰期(05年~09年)
 ・震災復興期(11年~16年現在)
②建築費が高騰した背景は!?
 ・バブル期および震災復興期:需要大幅増による深刻な人手不足(売り手市場)
 ・鉄資材価格高騰期:鉄資材の価格が高騰
③建築費高騰/下落の仕組みとは!?
 ・物価上昇リスク分として請負金額に見込む金額が大きくなり建築費が高騰する
 ・建築費高騰の要因が沈静化してから実際に下落するまでに1年程度のタイムラグを要する

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