2020年の建築需要 54年ぶりの低水準へ|統計でみる建設市場【2021年版】
【需要はリーマンショック期を下回る水準に】
2021年1月29日に国交省より公表された「建築着工統計調査」によると、2020年の全国における建築着工需要は床面積ベースで1億1374万㎡と、この54年で最も低い水準へと落ち込みました。
一般に建築着工需要は住宅と非住宅に分類されることを踏まえて、今回は下記に示す観点より床面積ベースで具体的に紹介していきます。
- 1. 全体の建築着工需要について
- 2. 住宅着工需要について
- 3. 非住宅着工需要について
- 4. まとめ
- 参考|データ一覧
1. 全体の建築着工需要について
全国における建築着工需要は床面積ベースで1億1374万㎡でした。この水準は、リーマンショック期の2009年における1億1549万㎡を下回り、1966年の1億974万㎡に次ぐ54年ぶりの低水準となりました。(下図参照)
歴史的な低水準となった2020年の需要減少、大きくは「2019年10月に実施された消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の反動減」と「2020年頭に発生した新型コロナウイルスによる経済活動停滞からの需要減」、これら2つの要因が影響した為であると考えられます。
また、この2020年の建築着工需要水準は、バブル期(1990年)、リーマンショック期(2009年)、新型コロナウイルス発生前(2019年)の各時点における水準から、それぞれ59.9%減、1.5%減、10.8%減となっています。(上図参照)
2. 住宅着工需要について
次に、全国における住宅着工需要は床面積ベースで6645万㎡となりました。この水準は、リーマンショック期の2009年における6832万㎡を下回り、1967年の6617万㎡に次ぐ53年ぶりの低い水準でした。
また、この2020年における住宅着工需要の水準は、バブル期(1990年)、リーマンショック期(2009年)、新型コロナウイルス発生前(2019年)の各時点から、それぞれ51.7%減、2.7%減、11.2%減となっていることが読み取れます。(下図参照)
同様に、2020年までの住宅着工需要の変動について利用関係別でみてみると、リーマンショック期、新型コロナウイルス発生前の各時点から、持家はそれぞれ54%減、15%減、10%減、また、貸家はそれぞれ61%減、8%減、13%減となっていることが分かります。(下図参照)
また、分譲住宅では、リーマンショック期、新型コロナウイルス発生前の各時点から、分譲マンションがそれぞれ56%減、16%増、11%減となっている一方、分譲一戸建はそれぞれ7%減、16%増、11%減となっています。(上図参照)
これより、利用関係別でみた2020年の住宅着工需要水準は、バブル期(1990年)と新型コロナ発生前(2019年)の水準から全てのタイプで減少していることが読み取れます。その一方、リーマンショック期(2009年)の水準からは、分譲マンションと分譲一戸建ては増加しており、持家や貸家と異なる傾向となっていることが読み取れます。
3. 非住宅着工需要について
続いて、全国における非住宅着工需要は床面積ベースで4729万㎡となりました。この水準は、バブル期以降で最低の水準となったリーマンショック期の2009年における4716万㎡を若干上回る水準でした。
そして、この2020年における非住宅着工需要の水準は、バブル期(1990年)、リーマンショック期(2009年)、新型コロナウイルス発生前(2019年)の各時点から、それぞれ67.6%減、0.3%増、10.2%減となっていることが分かります。(下図参照)
また、用途別で2020年までの非住宅着工需要の変動をみてみると、バブル期、リーマンショック期、新型コロナウイルス発生前の各時点から、事務所はそれぞれ70%減、11%減、4%減、店舗はそれぞれ65%減、33%減、10%減、工場はそれぞれ79%減、10%減、33%減、倉庫ではそれぞれ34%減、149%増、26%増となっています。(下図参照)
同様に、バブル期、リーマンショック期、新型コロナウイルス発生前の各時点から、学校はそれぞれ67%減、47%減、7%減、病院がそれぞれ48%減、22%減、14%減、ホテルではそれぞれ65%減、80%増、30%減となっていることが分かります。(上図参照)
以上より、2020年における用途別非住宅着工需要の水準は、用途にかかわらずバブル期(1990年)の水準から減少していることが読み取れます。一方、倉庫やホテルのように、リーマンショック期(2009年)や新型コロナ発生前(2019年)の水準から増加している用途もあり、用途により傾向が異なっていることが分かります。
4. まとめ
ここまでに紹介したように、全体の建築着工需要については、過去最高水準であったバブル期(1990年)から30年の節目となる2020年の需要規模はバブル期の4割程度まで縮小し、1966年に次ぐ54年ぶりの低水準でした。
今後、国内の人口が減少し、生産労働人口や世帯数が減少していく中、長期的かつ大きな視点でみた場合、建築着工需要は縮小していく可能性が高いとされています。
しかしながら、前述した2020年までの着工需要変動比較結果から得られたように、利用関係別の住宅着工需要や用途別非住宅着工需要は、その時々の時代背景や需要に影響を及ぼす要因により、個々で異なる傾向になるものと考えられます。
以上のように、今回は国内の床面積ベースでみた建築着工需要について、全体の建築着工需要、住宅着工需要、非住宅着工需要の観点から紹介しました。
参考|データ一覧
最後に、今回採用されたデータについて、参考として一覧表で以下に紹介します。
【全国の着工床面積(百万㎡)】
年次 | 全体 | 住宅 | 非住宅 |
1965年 | 102 | 50 | 53 |
1966年 | 110 | 54 | 56 |
1967年 | 137 | 66 | 71 |
1968年 | 160 | 79 | 81 |
1969年 | 183 | 90 | 93 |
1970年 | 205 | 101 | 104 |
1971年 | 198 | 102 | 96 |
1972年 | 242 | 129 | 114 |
1973年 | 282 | 147 | 135 |
1974年 | 199 | 107 | 91 |
1975年 | 196 | 112 | 84 |
1976年 | 215 | 125 | 90 |
1977年 | 219 | 127 | 92 |
1978年 | 232 | 136 | 96 |
1979年 | 245 | 137 | 109 |
1980年 | 221 | 119 | 102 |
1981年 | 203 | 108 | 95 |
1982年 | 196 | 108 | 88 |
1983年 | 189 | 99 | 90 |
1984年 | 196 | 100 | 96 |
1985年 | 200 | 103 | 96 |
1986年 | 208 | 111 | 97 |
1987年 | 237 | 133 | 105 |
1988年 | 256 | 135 | 121 |
1989年 | 269 | 135 | 134 |
1990年 | 283 | 137 | 146 |
1991年 | 252 | 117 | 135 |
1992年 | 247 | 120 | 126 |
1993年 | 231 | 132 | 99 |
1994年 | 238 | 146 | 92 |
1995年 | 228 | 137 | 92 |
1996年 | 260 | 158 | 102 |
1997年 | 228 | 129 | 99 |
1998年 | 196 | 112 | 84 |
1999年 | 194 | 118 | 76 |
2000年 | 200 | 120 | 80 |
2001年 | 181 | 110 | 71 |
2002年 | 172 | 105 | 68 |
2003年 | 173 | 104 | 69 |
2004年 | 182 | 106 | 76 |
2005年 | 186 | 107 | 79 |
2006年 | 189 | 109 | 80 |
2007年 | 161 | 91 | 70 |
2008年 | 157 | 91 | 67 |
2009年 | 115 | 68 | 47 |
2010年 | 121 | 73 | 49 |
2011年 | 127 | 75 | 51 |
2012年 | 133 | 78 | 54 |
2013年 | 148 | 87 | 61 |
2014年 | 134 | 76 | 58 |
2015年 | 129 | 75 | 54 |
2016年 | 133 | 78 | 55 |
2017年 | 135 | 78 | 57 |
2018年 | 131 | 75 | 56 |
2019年 | 128 | 75 | 53 |
2020年 | 114 | 66 | 47 |
【全国の住宅着工床面積(万㎡)】
利用関係 | 1990年 | 2009年 | 2019年 | 2020年 |
持家 | 6633 | 3638 | 3439 | 3080 |
貸家 | 3635 | 1526 | 1623 | 1410 |
分譲マンション | 1713 | 643 | 842 | 746 |
分譲一戸建 | 1465 | 945 | 1533 | 1359 |
【全国の非住宅着工床面積(万㎡)】
用途 | 1990年 | 2009年 | 2019年 | 2020年 |
事務所 | 2080 | 694 | 641 | 618 |
店舗 | 1123 | 585 | 438 | 392 |
工場 | 2771 | 649 | 869 | 586 |
倉庫 | 1747 | 460 | 908 | 1146 |
学校 | 679 | 415 | 238 | 221 |
病院 | 335 | 226 | 204 | 176 |
ホテル | 506 | 99 | 253 | 178 |
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