最適なコンストラクションマネジメント会社の選び方|CM業務シリーズ
【CM会社の選定方法】
近年の建設プロジェクトでは、コスト、工期や品質に対する透明性や説明責任が強く問われるようになったことで、 CM業務やPM業務を専門で実施するマネジメント会社やコンサルティング会社が、設計者や施工者とは完全に独立した立場から発注者に代わってこれらのマネジメント業務を展開するプロジェクトが急速に増えています。
そこで今回は、建設プロジェクトにおいて最適なマネジメント会社やコンサルティング会社の選定方法について、コンストラクションマネジメント会社の選定を例に挙げ、下記の観点より紹介します。
- 1. CM会社選定プロセスの全体像
- 2. 要件整理とRFPの作成
- 3. 候補会社の選定とRFPの送付
- 4. 業務提案書の評価
- 5. プレゼンテーション・インタビュー
- 6. CM会社の選定および契約
1. CM会社選定プロセスの全体像
一般に、CM会社を選定方式としては候補者を公募する方法やあらかじめ一社に決めたうえで話を進める方法などプロジェクトの置かれた状況や目的により様々ですが、今回は代表的な方法として、発注者が候補者を選定した上で、業務提案の内容やインタビュー等から総合的に評価して1社を選定する方法について紹介します。
まず、CM会社を選定するプロセスについての全体像は下図に示す通り、大きな枠組みとしては、発注者の求める要件に沿ってCM会社が業務提案書を提出し、プレゼンやインタビューを経て1社に絞り込む進め方となります。
それでは、以降でCM会社を選定する各プロセスについて具体的に説明していきます。
2. 要件整理とRFP作成
① 発注者の要件整理
まず、発注者は建設プロジェクトの概要、CM会社に何をしてもらいたいか等、要件を整理することが必要になります。
これは、コンストラクションマネジメントの業務範囲が【コラム|CM(コンストラクションマネジメント)とは】で紹介されているように多岐に渡るからです。その為、プロジェクトにおけるどの段階で何の業務を実施して欲しいのかについて、大まかでもよいので整理する必要があります。
この際、プロジェクトの目的や状況を踏まえ、必要となるCM業務を洗い出し、それらを実施するに不足している発注者サイドの体制やスキルを整理する方法が合理的です。
② RFP(提案依頼書)の作成
次に、整理された要件に基づいてRFPを作成します。RFPとはRequest For Proposalの略で提案依頼書のことです。このRFPは大きくは「基本事項」と「提案事項」で構成されます。
CM会社は「基本事項」の内容を与えられた要件として「提案事項」について業務提案書を作成します。これら「基本事項」と「提案事項」の具体例は下記に示す通りです。
【基本事項|CM会社へ提供する情報】
項目例 | 記載内容の例 |
---|---|
CM業務の背景・目的 | CM業務が必要な背景と目的についての概要 |
建設プロジェクト概要 | 案件所在地、用途、規模、構造、全体スケジュールなど |
建設プロジェクトのステータス | 「企画中」や「設計者選定済みで基本計画中」など現在の状況や体制について |
CM業務の範囲・要件 | 提案を依頼したい業務の具体的な内容、成果物や英語対応有等の要件 |
選定のプロセスについて | 選定スケジュール、提案書の提出期限、プレゼン日程、質疑方法、評価で重視するポイント等 |
担当者情報 | 所在地、連絡先等 |
その他 | NDAの提出など |
【提案事項|CM会社から提案する内容】
項目例 | 記載内容の例 |
---|---|
提案概要 | 業務提案における重要なポイント |
実施方針 | 業務の目的や内容に対する理解度を踏まえた上での具体的な実施方針の提案 |
実施スケジュール | プロジェクト全体スケジュールを踏まえた業務実施スケジュール |
実施体制 | 業務責任者、主担当者、担当技術者までの実施体制 |
類似業務実績 | CM会社、業務責任者、主担当者の類似業務における実績・経験 |
業務費 | 業務提案内容に基づいた業務費 |
その他 | 情報セキュリティ体制、範囲外業務、制約事項など |
このRFPは、CM会社が業務提案書を作成する際のベースとなる為、「基本事項」として与えられる対象プロジェクトの情報量が多いほど、また、発注者の求める要件が十分に整理されているほど、より具体的な提案に繋がります。
3. 候補会社の選定とRFPの送付
① 候補会社の選定
次に、候補となるCM会社を選定します。対象となるプロジェクトの規模やCM業務の範囲にもよりますが、4社から6社程度を候補として洗い出すのが一般的です。これは、実際にRFPを送付しても業務提案を辞退する会社も出てくる可能性を考慮して、最終的に3社から4社より業務提案を受領できるようにする為です。
これまではCM会社の数そのものが少ないだけでなく、各社のホームページから得られる情報量も限られていました。しかし、近年ではCM会社の数も増え、また、各社積極的に業務の内容や過去実績について情報を公開しています。
その為、候補となるCM会社を選定する目的であれば、各社のホームページより得られる情報から候補者を絞り込むことも十分可能となりました。具体的に候補者を選定するポイントは下記の通りです。
【候補となるCM会社を選定するポイント】
・ 会社規模、所在地等
・ CM業務の内容が分かり易く説明されている
・ 対象プロジェクトと用途や規模が類似した案件のCM業務実績が多い
・ クライアントの中に競合他社が含まれている
CM会社は得意とする建物の用途、規模、業務内容が各社で異なり特色があります。その為、上記の観点より候補となる会社を選定することが、対象となる建設プロジェクトに最適なCM会社を選定することへ繋がります。
② RFPの送付
候補となるCM会社が選定された後は、実際にそれらの会社にコンタクトして、担当者へRFPを送付します。また、RFPを送付する際に、業務提案書を提出してもらえるかの返答をいつまでに貰えるか確認し、最終的に業務提案書を提出してもらえる会社が3社から4社になるように働きかけます。
4. 業務提案書の評価
CM会社より業務提案書を受領した後は、RFPにおける「提案事項」に基づいて、各社の提案内容を横並びに評価していきます。この際、提案事項における各項目について各社の評価を点数で定量的に行います。
各項目における点数の割合、採点の基準は様々ですが、例えば、プロジェクトにおける重要課題が建設コストの縮減であれば、コスト縮減に関連する業務提案の比重を上げるなど、プロジェクトの目的や課題に基づいて定量化して評価することが重要となります。
また、RFPを作成する際に業務提案の内容を定量的に評価する基準についても整理をしておくと、提案書を受領してからスムーズに評価が行える為、理想的です。
前述したように、プロジェクトの目的や課題により、重要となる提案項目は異なりますが、一般的に業務提案書の評価において考慮すべきポイントは下記の通りとなります。
【提案書の評価において考慮するポイント】
・ 業務の目的と課題に対する理解度が高いか
・ 業務の課題に対する具体的な提案はされているか
・ 業務提案の内容は見やすい/分かり易いか
・ 他社には無い評価できる提案/実績はあるか
・ 実施スケジュールは具体的か
・ 実施体制は各担当者の具体的な役割まで落とし込んであるか
上記には業務費についての評価が含まれていませんが、この時点では業務費は大きな評価軸としない方が良いと考えます。その理由として以下の点が挙げられます。
・業務提案書の時点では提案される業務の実施方針や実施体制が各社異なる為に、なかなか同じ条件での比較が難しい点
・最終的な業務費については、CM会社を選定した後に、業務内容や業務工数を詰めたうえで調整して決定される点
・プロジェクト全体の工事費等に比べたら業務費のインパクトは小さい点
加えて、【コラム|コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か】で紹介したように、CM業務費は全体工事費に対する割合が概ね一定の範囲にあり、「業務工数」と「単価」の積み上げによる「直接人件費」と「諸経費等」で構成される為、各社の「単価」や「諸経費率」に大きな差が無ければ、最終的な業務費はそこまで大きく変わらない可能性が高い点も挙げられます。
その為、この時点では、業務費に対する評価に比重を置くよりは、プロジェクトの目的をどこまで理解しているか、また、業務内容をどこまで具体的に掘り下げて提案できているか、プロジェクトが抱える課題を解決して目標を達成できるか、などといった観点から重い評価とする方が合理的です。
もしこの段階で業務費に係る比較が必要なのであれば、全体の業務費ではなく職種別の「単価」と「諸経費率」を比較することで、同一条件での比較・評価が行えます。
なお、そのまま各社とのプレゼン・インタビューへと進む場合もあれば、選定スケジュールや発注者の社内調整等の都合により業務提案書に基づいて候補会社を絞り込む場合もあります。
5. プレゼンテーション・インタビュー
ここで、候補会社によるプレゼン、候補会社へのインタビューが実施されます。これらは、業務提案書からは読み取れない多くの重要な情報を読み取る機会であり、CM会社を選定するプロセスで最も重要なプロセスであると言えます。
また、プレゼンとインタビューは同日に実施されるケースが多いのですが、当日は可能な限り、業務実施担当者全員の出席を依頼することで、業務に対する各社の意気込みを把握することが可能となります。
これらのポイントについて、具体的に説明していきます。
① プレゼンテーション
プレゼンには発注者が業務提案の内容について理解を深めるといった目的以外に重要な役割があります。
それは、プレゼン資料の内容について表現が見やすくて分かり易いか、また、実施体制における主担当者、つまり業務におけるCM会社の窓口となる業務担当者の説明や話し方が分かり易いかを評価することです。
その為、業務提案の内容については主担当者からプレゼンしてもらうのが理想的であり、その場合は、あらかじめ候補者に伝えておく必要があります。
これは、プロジェクトを通して主担当者と最も頻繁にやり取りをしていくだけなく、発注者サイドの担当者も主担当者から受けた説明に基づいて社内説明するケースが多々ある為、窓口となる主担当者の説明や表現方法が理解し易いかはプロジェクトを円滑に進める為に非常に重要なのです。
その為、プレゼンやインタビューにおける説明など、その担当者の話している内容が分かり易いか、また、受けた説明を他の人に自分が同じように説明できるかといった観点から重点的に評価することがポイントとなります。
② インタビュー
候補者からのプレゼンを踏まえ、インタビューは発注者が業務提案の内容についてあらゆる角度から質問・確認する機会となります。具体的なインタビューのポイントは下記の通りです。
【インタビューのポイント】
・ 主担当者の実績と経験
⇨調整/マネジメントの能力
・ 担当技術者の実績と経験
⇨技術的な能力やスキル
・ 各担当者と円滑に業務を進めていけそうか
・ その他
⇨プロジェクトの状況や目的に応じて様々
インタビューでは、業務の実質的な担当となる主担当者や担当技術者の実績や経験について重点的に確認することがポイントとなります。
大きな視点としては、主担当者としては発注者と円滑にやり取りを行う上で必要となる調整・マネジメントの実績や経験、また、担当技術者はプロジェクトの目的達成に向けて抱える課題を具体的に解決していく上で必要となる技術的な実績や経験について確認することが重要です。
例えば、現状のプロジェクトが抱える目的や課題をテーマに、同じ様な課題を抱えたプロジェクトにおける経験の有無、経験がある場合は具体的にどのように取り組んだのか、そしてどのような成果を上げたなどです。
これは、CM会社として類似案件における業務実績あったとしても、主担当者や担当技術者がそれらの案件を実際に担当していたとは限らないからです。もちろん、会社や業務責任者に類似業務の実績や経験が豊富にあることも重要ですが、実質的な担当者に実績や経験に基づいた能力・スキルがあれば、プロジェクトの目標達成へ向けて、より近づくことができる為、インタビューではこれらの点について確認することが重要なポイントとなります。
6. CM会社選定および契約
① CM会社選定
ここまでに紹介した評価の考え方を踏まえ、最終的には業務提案内容、プレゼンテーション、インタビューの結果を総合的に評価して、CM業務を依頼するCM会社を選定します。
繰り返しになりますが、ここでも業務費については、各社で単価や諸経費率に大きな乖離ある場合やプロジェクト上の評価軸として重点が置かれている場合などを除いて、あまり重視せずに、それよりはプロジェクトが円滑に進んで目標を達成できるか否かを重点的に評価して1社を選定することが重要です。
② 選定会社との最終調整・契約
最終的に1社に絞り込んだ段階で、業務範囲や業務工数、業務費についての調整を選定会社と共に進めていきます。
具体的には、他社の提案で採用したい追加の業務、選定会社の提案内容から除外したい業務、さらにはプレゼンやインタビューで明確された業務内容などについて発注者でもう一度整理した上、選定したCM会社に業務工数と業務費の見直しを行ってもらいます。
並行して契約の手続きについても両社で調整を進め、業務範囲、業務費、契約内容についてすり合わせを行った上で、両者で合意された内容に基づいて契約します。
業務費については部分的に成果報酬の形態をとる場合もありますが、一般的には業務工数と単価をベースに積み上げた金額に基づいて契約します。
また、契約する業務範囲については、例えば、設計の初期段階から施工完了まで長期間にわたり業務を依頼するような場合には、工事契約までの業務(設計段階および工事発注段階)と工事契約後の業務(施工段階)といったように、プロジェクトの段階で区切りをつけて契約する形が採用されます。
なお、業務費の支払いのタイミングは様々ですが、業務契約期間が半年未満など長期にわたらない場合であれば業務完了時に一括で請求・支払いの形態が用いられます。
一方、業務契約期間が長期にわたる場合には、一般的には四半期から半年ベースで、プロジェクトによっては毎月ベースや1年ベースなど、分割払いの方法が用いられます。
また、各タイミングでの支払い金額については、その期間で実施された業務の出来高にあたる業務費を発注者とCM会社で合意の上で支払われる場合もあれば、業務費と業務期間に基づいた月当たり平均業務費が毎月定額で支払われる方法など様々です。
以上のように、今回は「CM業務シリーズ」として、建設プロジェクトにおいて最適なマネジメント会社やコンサルティング会社の選定方法について、コンストラクションマネジメント会社の選定を例に挙げて紹介しました。
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