コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か|CM業務シリーズ
【CM業務のマネジメントフィー】
近年の建設プロジェクトでは、コスト、工期や品質に対する透明性や説明責任が強く問われるようになったことで、 CM業務やPM業務を専門で実施するマネジメント会社やコンサルティング会社が、設計者や施工者とは完全に独立した立場から発注者に代わってこれらのマネジメント業務を展開するプロジェクトが急速に増えています。
そこで今回は、建設プロジェクトにおいてマネジメント会社やコンサルティング会社を採用した際に必要な業務費について、コンストラクションマネジメント会社にCM業務を依頼した場合を例に挙げ、下記の観点より紹介します。
- 1. CM業務費を適切に把握するポイント
- 2. CM業務費を概算で把握する方法
- 3. CM業務費を決定する方法
1. CM業務費を適切に把握するポイント
まず、CM業務費はその大半がコンストラクションマネジメント会社の人件費から成る為、同じプロジェクトであっても「業務に係る期間」「業務の内容」「業務の実施方針や実施体制」により大きく変動します。
例えば、コンストラクションマネジメントの業務範囲は【コラム|CM(コンストラクションマネジメント)とは】で紹介されているように多岐に渡ります。大きくは「企画・計画段階」「設計段階」「「工事発注段階」「施工段階」といったプロジェクト段階別に分類されますが、CM会社が参画する段階や各段階で実施する業務の内容により、CM会社として必要な業務量が変動します。
そして、同じ業務の内容であっても、業務の実施方針により必要な業務量が変わってくることもポイントとして挙げられます。具体的には、“業者見積書の内容を精査する業務”において、見積書における単価や経費の水準のみを精査する場合と、単価や経費の水準に加え資材や工事の数量まで精査する場合では業務量が大きく変わる為です。
さらに、プロジェクト期間中に何人の体制で業務を実施するのか、常駐する必要があるのか否かといった業務実施体制や業務への係わり方によっても必要な業務量が変動することとなります。
その為、業務範囲や実施体制等、前述した観点より、CM会社へ依頼する業務について、ある程度明確にすることが、CM業務費を適切に把握する為の重要なポイントとなります。
2. CM業務費を概算で把握する方法
ここで、建設プロジェクトにおけるコンストラクションマネジメント業務をCM会社へ依頼する際のCM業務費について、概算で把握する方法について紹介します。
CM業務費を概算する方法は、大きくは下記に示すように2種類の方法がありますが、いずれも業務費の水準について大まかに把握する為の算出方法となります。
① 工事費に対する割合で算出する方法
② 業務期間と担当者数より算出する方法
①工事費に対する割合でCM業務費を概算する方法
この方法は、プロジェクトの用途や規模、計画地といった条件に基づいて想定される概算工事費に対する割合からCM業務費を概算する方法となります。
この方法の特徴は、業務費の目安について手間を掛けずに簡単に把握できる点で優れている一方、得られる概算の精度については粗いことが挙げられます。具体的には下記のような形で算出されます。
<概算CM業務費の算出式①>
工事費(億円)×CM業務費率(%)= 概算CM業務費(円)
例えば、プロジェクト条件に基づいて工事費が10億円程度と概算された場合、概算CM業務費は下記の通りとなります。
<概算CM業務費の試算例①>
10億円 × 3.1% = 3100万円
一般に、ここで採用されるCM業務費率は工事費の大きさに基づいて変動します。例えば、下図は工事費とCM業務費率との関係を示していますが、工事費の規模が大きくなれば、CM業務費率が低くなる、いわゆる逆相関の関係にあることが読み取れます。
また、プロジェクトにおける特定の段階、または業務内容についてCM業務費を概算する場合には、上記の方法より得られた概算CM業務費をベースに、プロジェクト全体の期間に対する業務依頼期間の割合により按分するなどして算出されます。
②業務期間と担当者数よりCM業務費を概算する方法
次に、プロジェクトに係る「業務期間(カ月)」と「担当者数(人)」に基づいて、業務費を概算する方法を紹介します。
この方法は、プロジェクトで必要となるCM業務に基づいて、業務期間や担当者数を想定して概算する方法である為、算出には若干の手間を要します。しかしながら、前述した“工事費とCM業務費率をベースに概算する方法”と比較して、より高い精度に期待できる点、また、概算CM業務費を算出した前提条件が明確である点が優れています。具体的には下記のような形で算出されます。
<概算CM業務費の算出式②>
業務期間(カ月)× 担当者数(人)× 単価(円/人・月)= 概算CM業務費(円)
例えば、業務期間が24ヵ月の業務で、担当者を2人配置することを想定した場合、概算CM業務費は下記の通りとなります。
<概算CM業務費の試算例②>
24ヵ月 × 2人 × 125 万円/人・月 = 6000万円
ここで採用される単価については、一般的には100万円から250万円とかなり幅があります。この幅は、CM会社により異なる部分もありますが、担当者の実務経験やスキルレベルといった要素によって影響を受けて変動します。
後述しますが、CM業務費の構成として、業務費全体は直接人件費の2倍から2.5倍であることを踏まえると、求める担当者の実務経験やスキルを考慮した単価を採用して、概算することが可能となります。
なお、CM業務は業務期間中で必要な業務量が一定ではない為、この方法で用いる担当者数は業務期間を通し、均して係る人数であることに留意が必要です。これは、例えば、5人の担当者が同時に係る人手が多く必要となる業務の状況もあれば、1人の担当者でカバーできる状況もある為です。
一方、3人の担当者が業務期間を通して常駐することを求める場合には、担当者数は3人として概算されることになります。
3. CM業務費を決定する方法
最後に、発注者とCM会社との間でCM業務費を取り決める代表的な方法について、下記に示す方法を紹介します。
① 業務工数の積み上げによる方法
② 成果報酬による方法
① 業務工数の積み上げによる方法
この方法は、CM業務を実施するにあたり必要となる業務工数をベースとする「直接人件費」に、CM会社の管理費や利益から成る「諸経費等」を加えて業務費を決定する方法です。
この方法の特徴は、CM業務費を決定する方法として代表的な方法であること、そして、「直接人件費」に基づいて「諸経費等」が割合で算出される為、業務費の内容が明確で分かり易い点が挙げられます。具体的には下記のような形で算出されます。
<CM業務費の算出式①>
直接人件費(円)+ 諸経費等(円)+ その他(円)= CM業務費(円)
・直接人件費(円)= 業務工数(人工)× 単価(円/人工)で積み上げる
・諸経費等(円)= 直接人件費(円)× 諸経費率(%)
・その他(円)= 業務実施に必要な交通費、出張費、外注費等の実費を積み上げ。
具体的に、「直接人件費」については、業務工数を業務別、かつ職種/技術者レベル別に積み上げ、それらに職種別の単価を乗じた金額を合計することで得られます。また、業務工数と単価については、その内訳がCM会社より提示されるのが一般的です。(下図参照)
また、「直接人件費」から「諸経費等」を算出するベースとなる「諸経費率」については、100%から150%程度の範囲が採用される為、CM業務費は概ね直接人件費の2倍から2.5倍程度の費用になることが一般です。
なお、上記で紹介した業務費の構成や表現の詳細はCM会社で異なるものの、その大枠の考え方は同じであり、このベースは【CM業務対価の積算方式の考え方|国交省】が下敷きとなっています。
② 成果報酬による方法
この方法は、最終的に発注者より支払われるCM業務費を「基本業務費」と「成果報酬(インセンティブ)」に基づいて決定する方法です。
この方法の特徴は、CM業務費が業務成果(主としてコストに関係する業務)に連動して決定される為、発注者としてはコスト縮減効果に期待できる一方、成果報酬の採用を対象とする業務範囲や何をもって成果とするかの取り決め、最終的な清算手続き等が煩雑である点が挙げられます。具体的には下記のような形で算出されます。
<CM業務費の算出式②>
基本業務費(円)+ 成果報酬(円)= CM業務費(円)
まず、基本業務費は、前述した業務工数の積み上げによる方法に基づいて決定されます。一方、成果報酬は、取り決めにより多種多様なケースがありますが、一般にはコストに関連する業務を対象に、コストセービングに対する割合で決定されることになります。
成果報酬の対象となる業務としては、例えば、「設計VE」「業者見積書の精査・価格交渉」などが挙げられ、これらの業務によってセーブされたコストを発注者等とシェアすることで一定の割合を成果報酬またはインセンティブとして得ることとなります。
しかしながら、前述したように、例えば、下記のような点における取り決めが事前に必要となる為、この方法の採用を検討する際には、事前にCM会社と十分に話を詰めたうえで採否を決定することが重要となります。
【成果報酬を採用する際に取り決める項目例】
・どの業務範囲を対象とするか
・コストセービングの定義
⇨ ベースコストから合意コストを引いた金額
⇨ VE提案により縮減された金額
・ベースコストの定義
⇨ 設計予算/業者見積金額/目標コスト/ GMP
・合意コストの定義
⇨ 契約金額、最終清算金額(契約後の追加・変更含む)
・ベースコスト算出条件から設計、仕様、要件等が変更した際の取り決め
・セーブされたコストをシェアする方法
⇨ 誰と(発注者、施工者、設計者、CMr、その他関係者)、どのような割合か
以上のように、今回は「CM業務シリーズ」として、建設プロジェクトでマネジメント会社やコンサルティング会社を採用した際に必要な業務費について、コンストラクションマネジメント会社にCM業務を依頼した場合を例に挙げて紹介しました。
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・コンストラクションマネジメント業務に必要な費用はどの程度か
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