設備工事費が高騰している具体的な理由とは|2023年版
最終更新日:2023年3月2日
【設備工事費高騰でゼネコンのコスト増加が加速】
「建築費が超高騰時代へ突入すると見込まれる具体的な理由とは」で紹介したように、国内の建設市場では、2021年より続く資材価格の高騰と、2022年の世界的なインフレから影響を受け、2023年に入っても建築コストの高騰が続いています。
こうした中、工事を請け負うゼネコン(建設会社)は、増加したコストを自らの利益を削ることで吸収する状況が続いています。しかしながら、2022年3月期の決算では、営業利益が減少し、営業利益率が下落したゼネコンが多数となるなど、コスト増加の吸収も限界を迎えています。
特に近年では、ゼネコンが設備工事会社(設備サブコン)に発注する設備工事費の高騰が顕著になると共に、ゼネコンのコストを押し上げており、今後の先行きが懸念されています。

そこで、今回は、現在までに設備工事費はどの程度上昇しているのか、また、設備工事費が高騰している具体的な理由と今後の見通しについて、以下の観点から解説していきます。
1. 設備工事費はどの程度高騰しているのか?
この2年で設備工事費は23.9%も上昇している
まず、2017年から2022年12月までの全国における設備工事費全体の水準を見てみると、この5年間で30.3%と3割以上も上昇していることが分かります。特に2021年に入ってから上昇率は大きくなり、2020年12月から2022年12月までの2年間で約23.9%も上昇していることが読み取れます。(下図参照)
続いて、各設備工事費の水準について、現在までにどの程度上昇しているのかを見ていきます。
1) 電気設備工事費の推移
全国における電気設備工事費の水準は、2017年から2022年12月までの5年間で約26.8%上昇しています。また、2020年12月から2022年12月まで、この2年間で20.8%と2割以上も上昇していることが読み取れます。(下図参照)
2) 空調設備工事費の推移
次に、全国における空調設備工事費の水準について見てみると、2017年から2022年12月までに、5年間で約33.1%上昇しています。また、電気設備工事費と同様に、2021年に入ってからの上昇が顕著で、2020年12月から2022年12月までの2年間で約25.6%も上昇していることが分かります。(下図参照)
3) 衛生設備工事費の推移
続いて、全国における衛生設備工事費の水準について見ていくと、2017年から2022年12月までに約29.1%も上昇しています。さらに、電気設備工事費や空調設備工事費の水準と同様に、2020年12月から2022年12月の2年間での上昇率が23.3%と2割以上も上昇していることが読み取れます。(下図参照)
このように、全国における設備工事費の水準は、各設備工事で上昇傾向にあり、また、特に2021年に入ってから大きく上昇している状況であると言えます。
この現状を踏まえ、現在、設備工事費が高騰している具体的な理由について説明していきます。
2. 何故、これほどまでに設備工事費が高騰しているのか?
ここでは、現在、設備工事費が高騰している具体的な理由について、以下の観点から分かりやすく解説していきます。
- ① 設備工事費の基本的な構成
- ② メーカーの相次ぐ値上げによる機器・材料価格の高騰
- ③ 慢性的な人手不足による労務費の高騰
- ④ 設備工事会社の選別受注による経費の増加と需給逼迫
① 設備工事費の基本的な構成
まず、設備工事費の基本的な構成について解説します。設備工事費の構成は、機器、材料、労務費、経費(利益を含む)で構成されています。(下図参照)
機器はA材とも呼ばれ、例えば、電気設備工事では受変電機器、照明器具、発電機など、空調設備工事では熱源機器、空調機器やエアコンなど、衛生設備工事では消火設備、ポンプ・水槽、トイレなどが該当します。
一方、材料はB材とも呼ばれ、例えば、電気設備工事では配線類、ケーブルラックなど、空調設備工事ではダクトや配管類、衛生設備工事では配管、継手、バルブなどです。
続いて、労務費は、上記に挙げた機器と材料を設置するに必要な、電工、空調設備工、配管工などの費用となります。
また、経費は設備工事会社の現場管理費(現場で必要となる技術者や管理者などの人件費等の費用)と一般管理費(設備工事会社の利益やリスクで見込む費用)から成っています。
以上を踏まえ、設備工事費の水準が高騰している具体的な理由について、解説していきます。
② メーカーの相次ぐ値上げによる機器・材料価格の高騰
まず、機器メーカーや材料メーカーによる値上げが2020年以降続いている点が挙げられます。
具体的に、設備機器(A材)で見てみると、約2年間の間に販売価格(設計価格ベース)が、電気設備で5%から30%、空調設備で10%から25%、衛生設備で7%から38%も値上がりしています。(下図参照)
同様に、設備材料(B材)で見ると、販売価格(設計価格ベース)は、電気設備では15%から44%、空調設備では15%から59%、衛生設備では12%から58%の上昇となっています。(下図参照)
これらの値上げの原因としては、原材料価格やエネルギー価格の上昇、物流コストの増加、円安による輸入品価格上昇などが挙げられますが、価格改定が何度も行われているケースもあり、機材メーカーや材料メーカーも相次ぐ製造コスト増加に迫られた形で、値上げを余儀なくされている状況が見受けられます。
現在、日本を含む世界中でインフレの状況にあることを踏まえると、機器・材料メーカーの製造コスト増加に影響を与えている要因が沈静化するまで、しばらく時間がかかりそうです。
③ 慢性的な人手不足による労務費の高騰
設備労務単価は11年間で5割以上も上昇している
続いて、設備工事の労務費については、全国における労務単価ベースで2012年度より継続した上昇傾向にあり、2022年度までの11年間で大きく上昇しています。
具体的に、この11年間における労務単価は、電工で約49%、配管工で52%、ダクト工で60%、保温工で59%も上昇していることが分かります。(下図参照)
この労務単価の上昇は、2011年から続く慢性的な人手不足が主要な原因として挙げられ、全国における電工や配管工が不足状況にあることが読み取れます。(下図参照)
建設業における労働者の高齢化問題に加え、働き方改革の影響を受け、人手不足の状況は今後も継続する見込みです。
また、国交省と建設業団体により、技能労働者の継続的な賃金上昇に向けた取り組みが進んでいることもあり、労務費は今後も上昇していくと考えられます。
さらには、現在国家プロジェクトとして進行している超大型半導体工場等が複数同時に動いており、全国から設備工事関係者が多く集められていることも労務不足に拍車をかけています。
④ 設備工事会社の選別受注による経費の増加と需給ひっ迫
最後に、設備工事会社が利益率の高い案件を選別して受注することで経費が増加していることが挙げられます。
設備工事会社は、働き方改革に向けた対応として、ワークライフバランスの実現に向けた現場閉所日の設定、週休2日以上の確保、残業規制など、本格的に取り組み始めています。
その為、例えば、これまで2人の技術者を配置することで対応できていた現場も、残業規制などにより、3人の配置が必要になると、現場人件費が単純計算で50%も増加します。
また、現場で配置される技術者の人数が増えることで、設備工事会社で対応可能な現場数は減少する為、これまでの利益水準を確保する為には、一般管理費も大きく引き上げられることになります。
このように、働き方改革に向けた対応として、設備工事会社は限られた社内のリソースを最大限に⽣かす為、受注量(現場数)が減少する中で利益重視の姿勢を徐々に強め、利益率の高いプロジェクトを選別して受注する動きにあり、これが設備工事会社の経費を増加させると共に、需給ひっ迫に繋がっています。
そして、この動きは、働き方改革関連法の一般則が建設業で適用される2024年4月に向け、今後さらに加速していく見通しです。
3. 今後の設備工事費の見通しについて
これまで述べてきたように、機器(A材)や材料(B材)の製造コスト増加に影響を与えている要因の沈静化には時間がかかりそうな点、人手不足は今後も続き労務費が上昇する見通しである点、さらには、利益率の高い案件を選別して受注する動きが益々強まる点、これら3点に加え、以下の1)および2)の点を踏まえると、設備工事費の水準は今後も上昇傾向で推移すると考えられます。
1) 今後、これまで以上にコスト増加リスクが金額として十分に見込まれる
まず、前述したように、設備工事会社は利益率の高い工事を選別して受注する動きにありますが、設備工事会社大手11社で直近の2022年4月~12月期の決算を見てみると、営業利益は前期の979億円から882億円まで約9.9%減少し、営業利益率も前期の5.2%から4.5%に低下しました。(下図参照)
これは、設備工事会社が受注時点で物価上昇などのコスト増加リスクとして一般管理費に見込んでいた金額より、コストが増加していることを示しています。
その為、利益率の高い案件の受注を選別するのと同時に、今後はこれまで以上に十分な金額がコスト増加リスクとして見込まれることが考えられます。
2)一般新築工事より産業施設工事やリニューアル工事へ選別受注が進む
また、安定的に高い利益を確保するために、一般新築工事より工期の短い産業施設工事(⼯場、⾷品貯蔵庫、農園芸施設、データセンターなどの設備工事)や工程が遅延するリスクの小さいリニューアル工事を選別して受注する方針を明確にする設備工事会社も出てきており、対象とする工事についても選別する動きが強まっています。
前述したように、対応可能な現場数が減り、設備工事の需給が逼迫することで、設備工事会社にとって、よりリスクが小さく、利益率の高い案件の選別受注が加速し、結果として、設備工事費の水準は上昇し続ける可能性が高いと考えています。
以上のように、今回は、現在までに設備工事費はどの程度上昇しているのか、また、設備工事費が高騰している具体的な理由と今後の見通しについて、分かりやすく解説しました。
最後に、例えば、リーマンショックの時のように世界的な金融・経済危機を迎えるなど、国内の建設需給や世界における資材・エネルギー需給に対して、非常に大きな影響を及ぼす要因が生じることで、設備工事費の水準が下落する可能性があることについて触れておきます。

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